さて、あなたはベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた"長編"作品をいくつ言えるだろう。私は今年の受賞作すら覚えてはいない(調べたらジャファール・パナヒ"Taxi"だった)。ではベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた"短編"作品をいくつ言えるだろう。おそらく私含め1つだって言えない人々が多いだろう。調べてみると、日本人ではプロデューサーというか企画担当者として活躍していた柳川武夫が、唯一の監督作「彫る 棟方志功の世界」で1975年に獲得しているのみ。リストを見ても短編作家が多いのか、ほぼ見覚えもない中で2004年にはルーマニアン・ニューウェーブの旗手クリスティ・プイウが"Un cartus de kent si un pachet de cafea"で、そして2010年には「フレンチアルプスで起きたこと」が私にとっての今年現時点でのワースト作品(このレビュー記事参照)となっているリューベン・オストルンドが"Handelse vid bank"で短編金熊賞を獲得している。ということで今回は2014年に短編金熊賞を獲得した"Tant qu'il nous reste des fusils à pompe"とその監督であるCaroline Poggiを紹介していこう。
Caroline Poggiは1990年にフランスのコルシカ島に生まれた。パリ・ディドゥロ大学、そしてコルシカ工業大学で映画を学び、2013年にデビュー短編"Chiens"を監督する。森の奥深く、飼い犬を見失った青年の彷徨いを描いたこの作品はコルシカのラマ映画祭で上映され、TV局のフランス2が配給権を買うなど好評を博す。Poggi監督はパリ・ディドゥロ大学時代に友人だったJonathan Vinelと共に2作目の製作に入る。彼女たちはまずイメージから脚本を組み立てるために、Tumblrで画像を集めまくっていたらしい。そして映画において重要な道具となるショットガンの構想元はCall of DutyやGTAなどのゲーム作品で、Poggi監督曰く"ゲーム内で最も強い究極の武器"ゆえにショットガンを使用したと。そしてPoggi監督たちは短編"Tant qu'il nous reste des fusils à pompe"を完成させる。
俺の親友は14日前に死んだ、青年ジョシュア(Lucas Domejean)のそんな告白から映画は幕を開ける。俺の親友は自分の家の庭で、口にショットガンをくわえて、頭を銃弾でブチ抜いて死んだ、14日前の12時15分のことだ。そう語るジュシュアの傍らには自殺したはずの親友シルヴァン(Naël Malassagne)がいる、自分だけにしか見えない彼の存在、それはジュシュア自身の中にある死への欲望の投影だ。しかし彼はシルヴァンの後を追えずにいる、たった1つの気掛かりなのは兄であるマエル(Nicolas Mias)のことだ。孤独な彼を一人残して死ぬという選択がジュシュアには出来ない。そうして彼ら以外には誰の気配すら感じられない不気味な町で、ジュシュアとマエルは2人、ただただ虚ろな日々を過ごしていた。
"この空っぽの村は遊び場なんです、主人公たちがただただ遊び続けるだけの場所。社会もなく、両親もいない、ただ思い出と消失についての痕跡だけを残しておきたかった。そしてここは巨大な墓地でもある、村に立つ全ての家屋は墓地と同じです" Poggi監督はそう語る。圧倒的なのはやはりPoggi監督の映像センスだ。空っぽなプール、墓標のような家の数々、1つ1つのショットがそれ自体で完結していると形容すればいいだろうか、それでいて一瞬一瞬に魅了されながらもこれらが連なることにより、青く美しき真空、観客の眼差しを否応なく惹きつけて止むことのない真空が映し出されることとなる。
ある日ジュシュアたちの虚無を引き裂く存在が町に現れる。ショットガンを手に持ち町を駆け抜ける男たち、彼らは"アイスバーグ"と呼ばれるストリートギャングだった。ジョシュアたちは彼らと接触し、仲間に入りたいと願うが、それにはショットガンが必要だと言われる。2人はシルヴァンの導きに従い、青い鎧戸のかかった屋敷へと足を踏み入れる。
監督は作品のテーマについてこう語る。"私たちがこの映画で表現したかったのは"さようなら"ということです。親友を失った青年の奇妙な心象風景をイメージと音の洪水で以て描きたかったんです"さらに劇中で印象的な音楽については"聖なる物を映画に宿すのは音楽の役目でした。音楽でもってイメージの連なりを象徴的で詩的な、一段階上の存在へと高めようとしたんです。私たちを魅了したのは現実の一部を如何にしてファンタスティックな物に仕立てあげるかだったんです"という。
“思春期の青年たちが抱く暴力という物に私たちは惹かれていました”という通り、この作品には直接的な行為は避けながらも、暴力の香りが濃厚に漂っている。そしてその暴力の間隙を、ジョシュとアとマエルの絆が奇妙な形で埋めていく様が、作品を無二の存在に高めていく。
"Tant qu'il nous reste des fusils à pompe"はベルリン国際映画祭で短編金熊賞を獲得した後、オーバーハウゼン、ハンブルクなどを巡り、更にはノルウェーのグリムスタ映画祭、そしてポルトガルやコソボ、ウクライナを巡り高い評価を受けた。Poggi監督の新作は"Our Legacy"、主演は前作に引き続きLucas Domejean、青年が初めて恋人を家に招いたのだが……というファンタジーロマンスだそう。ファンタジーというのが気になるが、再びその独創的なビジュアルセンスで観客を魅了してくれるだろう、ということでPoggi監督の今後に期待。
参考文献
http://blogywoodland.blogspot.jp/2014/05/interview-on-etait-attires-par-la.html(Poggi監督インタビューその1)
http://www.formatcourt.com/2014/04/jonathan-vinel-caroline-poggi-on-se-rejoint-dans-notre-envie-de-ne-pas-faire-des-films-realistes-de-construire-a-notre-maniere-des-univers-fonctionnant-comme-des-cocons-qui-isolent-des-elements/(インタビューその2)
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