鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Laura Amelia Guzmán&"Dólares de arena"/ドミニカ、あなたは私の輝きだったから

さて、あなたはドミニカ共和国についてどのくらい知っているだろう? 私は名前は聞いたことあるくらいでほぼ何も知らなかった。調べてみると小説「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアズはこの国出身で、ミシェル・ロドリゲスゾーイ・サルダナはドミニカ系のアメリカ人、映画だと「処刑人ソガの凄まじい人生」が日本でも紹介されている(何故か"凄まじい人生"繋がり)。そんな映画的には余り馴染みのないドミニカ共和国、今回はそんなドミニカの新鋭監督を紹介していこう。

Laura Amelia Guzmanは1980年5月7日、サントドミンゴに生まれた。両親は共に映画の美術監督だったそうだ。しかし当時ドミニカの映画界自体は余り賑わっておらず、この国にロケにやってきたクルー、例えばキューバを舞台にしたくとも実際に入ることは許されなかったのでドミニカにやってきたとそんな人々の手助けを両親はしていたそう。ドミニカ共和国のデザイン大学でファイン・アートと写真を専攻、まずは写真家として幾つもの展示会を開いた後、キューバの国際映画テレビ学校に入学し、主に撮影を学ぶ。この時に映画監督としてデビュー、短編やドキュメンタリーを何本か手掛けるが、中でも"Antesala"はシネマ・ドゥ・リール映画祭に選出されるなど話題になる。

2004年からはドミニカ共和国キューバの他、メキシコにも拠点を広げその地で公私ともにパートナーとなるIsrael Cardenasと出会う。2人の制作会社Aurora Dominicaを設立すると共に、2007年に初長編"Cochochi"を監督する。メキシコ北部に住むタラウマラ族の兄弟の絆を描き出した今作はヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門でプレミア上映後、トロント国際映画祭のDiscovery Award、トゥールーズラテンアメリカ映画祭で作品賞と初長編賞、グラマド映画祭のラテン長編映画部門で作品・撮影・美術の三部門を獲得するなど話題を集める。

2010年にはチリ人監督の"Ocaso"を製作した後、第2長編"Jean Gentil"を監督、ドミニカ共和国でフランス語の教師として働いていた男がある日突然解雇されてしまう。彼は仕事を探すためにサント・ドミンゴへと赴くのだが……この作品はブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭でHuman Rights Award、グラマド映画祭で批評家賞を獲得するなど再び好評価を得る。2013年には初の長編ドキュメンタリー"Carmita"を手掛ける。主人公はカルミータという80歳の女性、キューバで俳優として活躍しながらメキシコへと亡命してきたという過去があった。監督の2人が彼女に話を聞くうち様々な事実が明かされていくと共に、彼女がそこで花開くのを夢見ていたハリウッド黄金時代の輝きが甦り始める、という作品だそう。そして2014年には第4長編"Dolares de Arena"を監督する。

舞台はLas Terrenasという海岸地域だ。ドミニカ共和国北東部のサマナ半島に位置している地域で、この地にはドミニカ人とヨーロッパの人々が共に暮らしている。観光客も多いながら、この地の文化に魅了されたヨーロッパ人が終生の地として永住するということも多いのだという。そういった人々にはもちろん富裕層が多く、両者のこの格差は物語として魅力的ながら、Jean-Noel Pancraziというフランス人作家がLas Terrenasを舞台に"Les Dollars"を執筆、富裕層の中年男性とドミニカ人の若者の姿を描いた作品であり、この作品に感銘を受けたのがGuzman監督だった。そして以前映画祭で出会ったジェラルディン・チャップリンと共に仕事をするため、中年女性と若い女性に脚色して出来た作品がこの"Dolares de Arena"という訳だ。

主人公はドミニカ人の少女ノエリ(Yanet Mojica)、彼女は恋人のイェレミ(Ricardo Ariel Tribio)と共に暮らしながらある"仕事"をして生計を立てていた。彼女はこの地に観光に来ている中年男性の元へと赴く。もう故郷へ帰らなくちゃならないと彼が言うと、ノエリは寂しさと申し訳なさを装いお金が欲しいと頼む。すると彼は金の他に、首にかけていた金の鎖をプレゼントしてくれる。元気でね、そう言った帰り、ノエリはイェレミと共に質屋に行き、鎖を売り払ってしまう。金持ちの観光客の善意につけこみ、時には愛すら演じて金を奪っていく、それが彼女の生業だった。

そんなノエリの"客"の1人にアンヌ(「赤ちゃんよ永遠に」ジェラルディン・チャップリン)というフランス人女性がいた。彼女は観光客ではない、故郷から遠く離れたこの地で残りの人生を費やそうとしている、そんな孤独な女性だった。ノエリは毎日彼女の住んでいる別荘へと向かう、まずするのは茶色い水着に着替えること、そしてアンヌと共に湖へと向かい疲れるまで泳ぎ続ける。そして緩やかに流れる時の中で2人は肌を重ね合わせる。愛してる、愛してる、微睡みのなかで紡がれるその言葉、1つは本物かもしれない、だがもう1つは嘘だ。

風光明媚な海辺の町、そこに吹くのは温もりを宿し頬を優しく撫でる潮風、監督たちはこの風の中に繊細なる愛の風景を浮かび上がらせる。70代に差し掛かったアンヌにとってノエリとの関係性は最後の愛とも言うべきものだ。手を繋ぎノエリの導きに従ってステップを踏む姿には無二の喜びが滲み、しかし皺深く、またシミ深いその指で彼女の若い肌に触れる姿には悲哀が滲む。フランスには息子が2人の孫と共に住んでいるが彼とはもう疎遠で、あの国に帰る気はもうない。もう全てが黄昏を迎え、だからこの愛とだけは一緒にありたい、彼女の眼差しにはそんな祈りのような言葉がいつであっても浮かんでいる。

だがノエリにとってアンヌはただの金蔓でしかない。2人の親密な時間を破り捨てるように電話が鳴る、ノエリは電話に出てからアンヌにこう頼み込む、兄が交通事故を起こしてしまって……だから、お金が必要なの。そして金を手にした彼女はイェレミとキスを交わすとそんな日々。彼女たちは1つの計画を立ててもいる、アンヌを説得して自分を養子にさせた上でフランスへ戻り、兄に仕送りという名目でイェレミに金を送り続けるという計画を。

ノエリにはこの国を出ていきたいという強い欲望がある。そしてこの国から、貧困から抜け出す一番の近道が観光客に取り入ることという訳だ。これについて監督はこう語る“ドミニカという国は観光事業によって何とか生き延びています。男性にしろ女性にしろ、ノエリのように国を出たがっている若者は日に日に多くなってきていて、彼女/彼らは旅行客――必ずしも男性同士/女性同士という訳ではありませんが――に取り入り、時には愛していると嘘をついてまで夢を叶えようとする者もいるんです”

しかしノエリの心を動揺させる事件が起きる、妊娠したのだ。前に一度中絶していた彼女は、今度は子供を産みたいとイェレミに何も言わずに悩み続ける。そこで手を差し伸べてくれたのがアンヌだった。彼女の真摯な愛がノエリを満たすと同時に、妊娠のおかげで計画はトントン拍子で進んでいく。アンヌを選ぶのか、それともイェレミを選ぶのか、ノエリの心は揺れ動く。

彼女を演じるYanet Mojicaは監督たちに見初められて今作でデビューした人物だそうだが、若さが不可避的に内在させる不安や酷薄さを上手く捉えている。この演技を受け止めた上で、過去にも増してその演技力の更なる成熟を見せるのがジェラルディン・チャップリンだろう。まず佇まいの脆さ、瞳に映す悲しみ、言葉の一つ一つには今を生きていることへの愛しさと、しかし諦めにも似た何かが満ちている。この2人の交錯にたち現れる人間の感情の機微という物を、Guzman監督は巧みな手つきで掬いとっていく。

そして全てが終わる前に、カメラはある者の背中を映し出す。所在なく揺れるその姿に重なるのは1つの歌声だ、あなたは私の輝きだった、あなたは私の輝きだったから……

今作はトロント国際映画祭でプレミア上映後、カイロ国際映画祭でFipresci賞、シカゴ国際映画祭やハヴァナ映画祭ではジェラルディン・チャップリンが女優賞、そして2016年度アカデミー外国語賞においてはドミニカ共和国代表として選ばれる栄誉にも与ることとなった。2015年にはメキシコ映画"Manana Psicotoropica"を制作するなどプロデューサーとしても旺盛に活躍し、次回作の脚本も執筆中、舞台はドミニカ共和国で今度はもう少し明るいトーンの映画になるそうだ。。ということでGuzman監督の今後に期待。

参考文献
http://lauramelia.blogspot.jp/(監督プロフィール)
http://www.auroradominicana.com/(製作会社公式ページ)
http://thefilmexperience.net/blog/2015/11/13/interview-the-filmmakers-of-dominican-republics-oscar-entry.html(監督インタビューその1)
http://remezcla.com/features/the-director-of-the-dominican-republics-oscar-entry-dolares-de-arena-sand-dollars/(監督インタビューその2)

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