鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アメリカ!キリスト!自由!「俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員」

アメリカン・コメディを観ていると下ネタのあんまりにもあんまりな過激さに良く驚いてしまう。クソとかゲロとかチンコとかマンコとかピーーィニスとかヴァッジャイナァとか、誰も彼もがベラベラとド下ネタを喋り、実際に何らかの固形物をブチ撒いたり何らかの生殖器を露出したりする。そのくせドクソ下品なトーンから観客の心を全力で暖めにかかる良い話モードに舵を切るのが物凄く上手かったり、下劣なコーティングの下に高度なコンテクストが忍ばせてあったりと、アメリカン・コメディやっぱすげーわと思ったりもする。最近観た作品だと前者に属するのが「あなたを見送る7日間」「Tammy/タミー」で、そして後者に属するのがこの「俺たちスーパー・ポリティシャン 目指せ下院議員!」な訳である。

この映画が製作されたのと同じ年2012年、舞台はノースカロライナ州民主党下院議員のカム・ブレイディ(ウィル・フェレル)は俺に敵なんかいねえよ!と余裕ぶっこきながら再選を狙っていた。
アメリカ!キリスト!自由!」
アメリカ!キリスト!自由!」
アメリカ!キリスト!自由!」
「どういう意味か分かってるか?」というロビイスト・ミッチ(ジェイソン・サダイキス)に対して、彼は、
「いや、ただこれを叫べば聴衆が盛り上がるっていうのは分かる」
こんなんだから人妻と浮気しているのがバレて好感度大暴落。そんなバカ野郎ブレイディにパトロンの大物実業家モッチ兄弟(まさかのジョン・リスゴー&ダン・エイクロイド)は見切りをつけ、彼を議員の座から引きずり下ろすため対立候補を探そうとする。そして白羽の矢が立ったのはうだつの上がらないヒゲモジャ・ボンクラのハギンス(ザック・ガリフィアナキス)だった。

ということで前半はお人好しなハギンスがいかにして議員にふさわしい人間に仕立てあげられていくか、そんなマイ・フェア・レディっぽい話が展開する。ヒギンズ教授的立ち位置の参謀ワトリー(ディラン・マクダーモットダーモット・マローニーじゃあない)のスポコン訓練は結構笑えながら、毒気もみちみちだ。

議員になるためには今のアメリカを変えよう!とかじゃあなく今のアメリカ最高!アメリカ愛してる!と母国愛を打ち出さなくちゃならない! お前パグを飼ってるのか!?有権者は言うぞ!「アメリカの犬を飼いやがれ!この共産主義者が!」と! だからお前はゴールデンレトリーバーを飼え! パグは捨てろ!そしてアメリカ人は銃が大好きだ! だから家に銃飾れ!時には敵の体をライフルでブチ抜け! そして一番大事なのはタフガイになることだ! お前はタフガイになれ! バート・レイノルズの映画を観ろ!! お前は男に、真の男になるんだ!!!……とまあむちゃくちゃなマナー講座やら訓練を受けることになる。銃擁護もアメリカン・タフガイ礼賛もだいぶ時代遅れなマチズモな訳で、堂々たる家父長制の再生産な訳で、これがただ笑えるだけならまだしもこういうの実際に続いている訳で……

そうして生まれるニュー・ハギンスはわー!素敵!と大衆を魅了する存在になっていくが、もちろんキナ臭さも感じるようになる。ここで視点はブレイディに移り始める。ハギンスみたいに家父長制に洗脳される前は自分も皆のためを思って行動を起こしていたんだ……そんな過去話が挿入されて、つまりは何やかんや言ってどっちもド下ネタブチこむ加害者なんだけど被害者でもあって、本当の本当に打ち倒すべき相手は誰なんだと、家父長制が生んだチンカスの親玉はどいつなんだと、倒すべき敵を見誤るな、そういう問いを内包した展開になっていく訳だ。

と言ってもあんまり興奮しないのはこの映画がPCを無視しまくってるからだ。度を越えた性差別を戯画的に風刺しながらも、この映画の基本的なスタンス自体が性差別的という矛盾をはらんだ感じで「22ジャンプ・ストリート」だとか(コメディじゃないけども)マッドマックス 怒りのデス・ロードだとかを経てから観ると、何かもうちょっとやり方あったんじゃ……と思わないでもない。

高度なコンテクスト、については題材が選挙戦ということで、公開した2012年辺りの状況が如実に反映されているんだろうな、というのを観てるとぼんやり思う。ぼんやりっていうのはまあ、私にはアメリカの政治だとか選挙戦だとか全然分からないという意味での、ぼんやり。そんなんで偉そうに高度なコンテクストとか言うなや! と言われたら、まあ、すいません。でもなかなか面白い、ウィル・フェレルザック・ガリフィアナキスのファンにはマストな出来(実を言うとジェイソン・サダイキスファンにはマストではない)だし、下ネタは本当に凄い、ガリフィアナキスの息子が「光ったらいいなって思って、アナルにホタルを入れたんだ」とかそういうレベルの下ネタが10秒にい1回くらい出る。そういうので笑ったり、でもここは……とか思った後、アメリカの政治を勉強というのでも良いんじゃないかと。こういうので興味持った後に勉強した方が、何となく頭に入りやすいかもしれないし、ねえ。ということで皆で観よう「俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員」(邦題長すぎるだろ……)[B-]

現在iTunes, Amazonなどで販売・レンタル中


観る前・観た後に参考になるだろう色々
町山智浩の映画塾! 予習編復習編
アメリカでこの映画がどう受け入れられているかについて、THE PLAYLISTのレビューワシントン・ポストロサンゼルス・タイムスローリング・ストーンなどなど