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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ジョン・ワッツ&「COP CAR コップ・カー」/なに、次のスパイダーマンの監督これ誰、どんな映画つくってんの?

1ヶ月ほど前こんなニュースが流れた“スパイダーマンの再リブート作の監督がジョン・ワッツに決定”まず最初に思ったのは“アンドリュー・ガーフィールド可哀想……”だった。そして次に思ったのは“でもジョン・ワッツって誰だ?”調べてみるとニュースのちょっと前、彼の監督作「クラウン」が劇場公開されていたという。えっ、あれってイーライ・ロスが監督じゃないの?と思ったが、それと同時に興味深かったのがこの人、今年のサンダンスで公開されたケヴィン・ベーコン主演作"Cop Car"の監督でもあったのだ。そしてめでたく"Cop Car"が北米版iTunesで配信、観てみたらこれが物凄く面白かったのだ!ということで、スパイダーマン再リブート公開で俄に彼の名が騒がれる前に、映画監督ジョン・ワッツについて紹介していこうと思う、私が一番ノリじゃい!!!

ジョン・ワッツ監督は1981年6月28日、コロラド州フォウンテインに生まれた。ニューヨーク大学では映画について学ぶ。在学中にジョナサン・グレイザー「セクシー・ビースト」にオペレーターとして参加した後、クレイアニメ"Clay Pride: Being Clay in America"で監督デビュー、題名はゲイプライドのもじりで粘土の青年スティーブ・クレイが自分が粘土であることに誇りを持つまでをドキュメンタリー形式で描いた作品だ。ニューヨーク大学卒業後は製作会社Park Picturesに入社、映像作家としてCM、ファットボーイ・スリムやThe WillowzのMVなどを手掛ける(その殆どがワッツの公式サイトで観れるので是非チェック)。そして2005年には短編2作目"The Invisible Dog"、2008年にはTVM"The Scariest Show on Televison"*1、2010年には短編3作目"Jewish Santa Is Coming"を監督するが、彼のキャリアで1つのターニングポイントとなったのがジ・オニオンへの参加である。ジ・オニオンは日本で言う虚構新聞的なサイトなのだが、ジ・オニオンが運営するサイト名をそのまま冠した"The Onion News Network"というコメディも配信、ワッツは監督としてエピソードの約半数を手掛け話題を集めた。

その後はパペット人形で警察と犯罪者たちの戦いを描いたWebシリーズ"The Fuzz"トーク番組の形を取ったモキュトーク・コメディ"Eugene!"、リメイク版ロボコップの出来にキレた人々が集結して製作された"Our RoboCop Remake"に監督の1人として参加、そして2013年、ワッツはデビュー長編「クラウン」を監督する。学生時代からの友人クリストファー・フォードと共に製作したフェイク予告編がイーライ・ロス――2人がおふざけで監督:イーライ・ロスと入れたのを本人が見た訳である――の目に止まり、長編映画化という経緯を辿った本作、日本で既に公開されている故に紹介とか感想とかはネットに転がっているので、ここではわざわざ書きません。ということで本題、ワッツは2015年、待望の第2長編"Cop Car"を監督することとなる。

「ウンコ」「……ウンコ」「チンコ」「……チンコ」「ケツ」「……ケツ」「顔面アナル」「……顔面アナル」「ド畜生」「……ド畜生」
そんなことを言いながら2人の少年が歩いている、クソ生意気そうなトラヴィス(James Freedson-Jackson、これが映画デビュー作)と引っ込み思案なハリソン(Hays Wellford)だ。2人は何もない野原を練り歩きテキトーに遊んでいたのだが、ある時、森の中にパトカーを見つける。遠くから様子を伺い、小石を投げつけてみるが、そこには誰もいないらしい。そうっと近くに寄って色々調べてみると、ドアにロックがかかっていない。トラヴィスは運転席に乗り、運転の真似事をして楽しむのだが、何とキーまで放置してあるのに気づく。「……さすがにヤバくない?」「何だよ、大丈夫だって!」ということでエンジンをかけ、アクセルを踏み、大冒険に出発!草をなぎ倒し、パトカーは走る、最初は乗り気じゃなかったハリソンも、運転席に乗ると心が踊る、だけども怖さが少し勝りスピードは余り出せない。「もっとスピード出してみろよ弱虫!」そう言って運転を変わったトラヴィスは公道にまで出て、パトカーを全速力でブッ飛ばすのだが……

時間は少し巻き戻る。2人が盗んだパトカーの主は警官のクレッツァー(13日の金曜日」「ノボケイン/局部麻酔の罠」ケヴィン・ベーコン)。森にパトカーを停めると、彼は外に出てトランクを開ける。そこには2人の縛られた人間が。取りあえず1人を担ぎだして、うんとこしょ……!どっこいしょ……!と引っ張っていく。途中色々とトラブルがあり、無駄に時間がかかってしまったが、何とか処理を終えて、一服タバコなんか吸ってからパトカーの元に戻る………が、そこにパトカーはない、動揺しながら周りを探すがやはりパトカーはない、そして悪徳警官地獄の追跡劇が幕を開ける――とは、全く、全くならないのがこの"Cop Car"という作品だ。

ジャンルはスリラー、OPのメタクソ荒涼とした格好よさ、そして上のあらすじ通りの展開、ここからガキ2人とフルチンベーコン先生の緊迫感のカーチェイスを期待しない観客はいないだろう、題名にカーっても付いてるし。だが物語が進むにつれ、ブッ飛び疾走パトカーを太ったメガネのおばちゃんが唖然とした顔で見つめるシーンが長回しで撮されて、パトカーをパクられたベーコン先生が野原をピョッコピョッコと走り回った挙げ句、やっと盗めそうな車を見つけそのドアを開けようとするその姿、もう涙なしには見られないベーコン先生の苦闘を4,5分みっちり長々と描き出すこの奇妙さにいつしか悟るだろう――これスリラーじゃねえ、コメディ映画だわ……と。

しかしそれが"Cop Car"にとって致命的な瑕疵となるどころか、唯一無二の魅力になっている、そこがジョン・ワッツ監督の采配の巧みさがある。彼がこの作品で繰り広げるのは“間抜けさ”だ、計算され尽くした“間抜けさ”。観客が期待する場面は驚くほどアッサリ処理し、観客がいやいやそこは省けよ!と思う場面は嫌がらせのようなこだわりを見せる、その結果スリラー映画としては致命的な間延び感とフヤフヤなリズムを宿しており、期待を裏切られた観客は途中でなんだこれ!と匙を投げかけるかもしれない、だがその顔にニヤつきが浮かんでいたとしたら、あなたは既にワッツ監督の術中にハマっている。

悪徳警官が必死こいて自分の家に帰ろうとしている頃、ハリソンたちは車の中にあった黄色いテープで遊んだり、アサルトライフルをブッ放そうとしたりとやりたい放題だ。そんな中で2人はトランクから叫び声が聞こえてくるのに気がつく。おそるおそるトランクを開けると、そこには手足を縛られた顔面血まみれの男(「チアガールVSテキサスコップ」「テイク・シェルターシェー・ウィガム)がいた。 2人彼を助けるも、そこで初めて自分たちがとんでもない危険に足を突っ込んでしまったことに気付いてしまう。

顔面血まみれ男の尋常じゃない気違いムード(シェー・ウィガムの狂演が本当に素晴らしい)にリズムは掻き乱され、ベーコン先生の惨めで滑稽な執念は実を結びはじめ、2人はどんどん追い詰められていく。そして映画が湛えていた“お間抜け”ムードはそのままシームレスに“少年たちが見る不条理すぎる悪夢”へと変質し始める。パトカーの中でハリソンたちが見る羽目になるのは、マジで馬鹿げた地獄絵図だ。顔面血まみれ野郎のキチガイ沙汰、鼻の下が長いから口髭も妙に長い悪徳警官のブチ切れ面、そして誰だか全然知らない第三者まで現れて事態は収拾がつかなくなっていく。だがワッツ監督は狂態に決着をつけた上で、もう一度この映画の雰囲気をスイッチングする。それによって一貫性のなかったこの物語に、本当にシンプルだが力強く美しい道筋、つまりは“少年の成長”というテーマが浮かび上がる。紆余曲折ありすぎたからこそ、このシンプルすぎるメッセージが心にうち響く。

"Cop Car"は観客の期待を裏切りに裏切り抜いた挙句、予想もしなかった感動を届けてくれる。ということでジョン・ワッツという新たな才能に乾杯![A-]

"Cop Car"はサンダンス映画祭ミッドナイト部門でプレミア上映、レビューが流れてきていた時いろいろ読んでいて、その時の評判は結構半々だったと記憶しているのだが、ケヴィン・フェイグたちがこの"Cop Car"を観て気に入り、スパイダーマン再リブート作の監督に抜擢したのはご承知の通りである。"Cop Car"を観る限りはマーベルのこの選択は英断では?と思う一方ファンタスティック・フォーでメッタメタな大爆死を遂げたジョシュ・トランクのことを考えると、青田買いも度が過ぎるしもうちょっと段階を踏んだ上で大作に起用した方が……とか考えなくもない。ということでジョン・ワッツの今後に注目である。


俺はたぶん出ないけど、今度のスパイダーマン、期待しててくれよな。

参考文献
http://www.ew.com/article/2015/06/23/jon-watts-new-director-spider-man
https://filminterviews.wordpress.com/
http://www.cinemablend.com/new/Why-Marvel-Picked-Jon-Watts-Direct-Spider-Man-Reboot-72359.html

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*1:実はこの作品で共同監督を勤めたのがこのブログでも取り上げたBenjamin Dickinsonその人であり、これが縁で2015年にはDickinsonの第2長編"Creative Control"でワッツはCM監督役として出演もしている