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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

S. クレイグ・ザラー&"Bone Tomahawk"/アメリカ西部、食人族の住む処

2015年11月、日本でイーライ・ロス監督の食人族映画グリーン・インフェルノが公開された。製作のゴタゴタや日本では予告編大騒動など紆余曲折あってやっとの公開だったが、大満足の人もいれば期待し過ぎたという人もいるとこういう映画としては理想的な賛否両論の様相を呈していた。それと同じ頃、アメリカではとある新人監督の放った食人族映画が大旋風を巻き起こしていた。ということで今回は食人族ものに西部劇を合わせた新感覚陰惨食人映画"Bone Tomahawk"とその監督S. クレイグ・ザラーについて紹介して行こう。

S. クレイグ・ザラー S. Craig Zahler は1973年1月23日、フロリダ州のマイアミに生まれた。活動の幅はかなり広く、元々はCzarという芸名で歌手、作詞家、ドラム奏者として活躍していた。ブラックメタルバンドCharnel Valleyでは2枚、親友である作曲家Jeff HerriottとはへヴィーメタルバンドRealmbuilderを結成し、2009年には"Summon the Stone Throwers"や2011年には"Fortifications of Pale Architect"など計3枚のアルバムをリリースするなどしている。

更に2010年からは小説家としての活動も開始、デビュー作"A Congregation of Jackals"は過去と対峙するガンマンの姿を描いた西部劇ノワール、2作目の"Wraiths of the Broken Land"は娼婦として売られた姉妹の復讐を描き出す暴力まみれのリベンジスリラー、3作目の"Corpus Chrome, Inc."は人間の意識をロボットに移植する技術が発達した近未来を舞台としたクライムサスペンス、4作目の"Mean Business on North Ganson Street"は警官殺しの謎を追う私立探偵の姿を描く作品でWarner Brosがレオナルド・ディカプリオ&ジェイミー・フォックス主演で映画化を計画しているという。ジャンルを越境しながらも一貫して血と暴力に拘る作風が特徴らしく、それは正に"Bone Tomahawk"にも結実しているとも言える。

映画界では意外にも撮影監督としてキャリアを始めており、1995年にはヴァーモントに住む少年の青春を追った"August Roads"を、1997年にはSF作品"Lucia's Dream"を手掛けるがこの頃は芽が出ず。そして小説家として活躍し始めた2011年に精神病院の患者VS売れないバンドメンバーを描いたホラー映画「ザ・インシデント」の脚本を担当、話題になる。そして2015年には脚本・音楽も手掛けたデビュー長編"Bone Tomahawk"を手掛けることとなる。

ある夜、アメリカ西部の村に奇妙な男がやってくる。木の根元で一心不乱に穴を掘り続ける男、彼を不審に思った保安官助手のチコリー(「2999年異性への旅」リチャード・ジェンキンス)は保安官フランクリン(「そら見えたぞ、見えないぞ!」カート・ラッセル)の元へ異常を伝える。酒場で酔い潰れる男に対してフランクリンたちは尋問を行うが、全く要領を得ない言葉の後、彼はこちらへ襲ってくるがその瞬間にフランクリンの銃口が火を吹く。しかしフランクリンたちが注意を向けるべき相手は彼ではなかった。同じ頃、馬小屋を見回っていた青年が夜の闇に紛れてやってきた謎の存在によって、そのはらわたを無惨にもブチ撒けられてしまう事件が起きていたのだ……

謎めいた、不気味な雰囲気の中で始まる"Bone Tomahawk"はジャンル映画ながらランタイムは132分というある意味で挑戦的な構成となっている。序盤は禍々しい存在によって村の平穏が掻き乱されていく様を描くのだが、ザラー監督の丹念な手捌きは登場人物の背景説明にこそ現れる。例えばパトリック・ウィルソン演じるアーサー・オドワイヤー、彼は名うてのカウボーイであったが、足の怪我が元で不遇の日々を送っていた。妻で医師のサマンサ(Lili Simons)とも愛し合ってはいるのだが、この暗い日々が愛にも影を投げ掛けている。そんな時フランクリンの要請である男の治療のためにサマンサが呼び出され、アーサーは独り寝の夜を過ごすこととなるのだが、翌朝彼はフランクリンからサマンサが男と共に何者かによって拐われたことを知る。

何者かの正体とは荒野にぽっかりと開いた洞窟に住む穴居人であり、人肉を喰らうという危険な性質を持っているという。サマンサたちを救うための旅に出るのは保安官フランクリンに副官チコリー、アーサーにもう1人、ネイティヴ・アメリカンに恨みを持つジョン・ブルーダー(「ハーモニー・オブ・ザ・デッド」マシュー・フォックス)という4人の男たちだ。彼らはそれぞれに馬を駆り、長く絶望的な旅路へと赴くこととなる。

プロットの骨子としてはジョン・フォード「捜索者」など伝統的な西部劇の体裁を取っているが、この"Bone Tomahawk"に流れる空気感は、ケリー・ライヒャルトフェミニズムウェスタ"Meek's Cutoff"マイケル・ファスベンダーが主演した"Slow West"などテン年代以降の西部劇が宿すそれを共有している。ある意味で弛緩しながらも、大いなる自然に周りを囲まれたちっぽけな存在としての人間が際立つミニマルな世界観。そこに作品それぞれの独特な魅力が更に付加される訳だが、"Bone Tomahawk"の場合それは一言でなど説明できない奇妙な代物だ。

4人の旅路には、引き伸ばされた時間の中に真顔のユーモアと生々しい痛みと酷薄な倫理の問いが同居している。フランクリンとチコリーはまるでお互いに何でも知っている熟年のカップルのような雰囲気で旅をする。お風呂場で本を読む方法についての下りは長い年月の中で培われてきた親密さが溢れ、そのユーモアには思わず聞く者の頬もほころぶだろう。だがその一方で怪我を押して隊に加わったアーサーの旅路には痛みが満ちている。監督は彼が怪我の消毒をするシークエンスをじっくりとスクリーンに焼き付ける。彼の呻きと痛みは旅の過酷さと荒野の寂寥を嫌というほど私たちに教える。そしてフォックス演じるMr.ブルーダーが担うのが、19世紀のアメリカに横たわる倫理への問いだ。賢い者は結婚などしないと嘯く独身者ブルーダーは、その独自の哲学から旅に波紋を生む存在ともなる。ネイティヴ・アメリカンやメキシコ人に対する差別意識と暴力の発露、こういった要素が物語の深みを高めていく。

その上で4人を演じる俳優陣の渋みがまた素晴らしい。カート・ラッセルはもしかするとタラちゃんのヘイトフル・エイト以上に魅力的なのでは?と観る前から思ってしまうようないぶし銀の演技を見せてくれるし、マシュー・フォックスはチョビ髭が生かすダンディーな独身者を凛々しく演じ、リチャード・ジェンキンスはおそらくリチャード・ジェンキンスと言われなかったら皆解らないんじゃ、くらいの姿で思慮深いチコリーを熱演(本国ではキャリア最高の演技だ!くらいには絶賛)、だがMVPはパトリック・ウィルソンだろう、演技上手い&綺麗なイケメンだのにいまいち映画に恵まれない彼だが今回は実質の主人公で見せ場も多い。無駄に血にまみれるシーンもあったりとファンには堪らないシーンもある。この4人のアンサンブルが"Bone Tomahawk"の評価を高めているのは間違いないと言える。

だが私は最も重要な部分についてほぼ語っていない、それがある意味でこの映画の多岐にわたる魅力を逆説的に語っていると言えるかもしれないが、今作は食人族映画であることを忘れてはいけない。4人の冒険はほとんど唐突にグロテスクな食人絵巻へと姿を変える。銃と骨斧による戦いは血みどろで且つ指が簡単に吹き飛ぶ訳で、食人族の異様な白塗り風体も相まってとことん気持ちが悪い。そして戦いに連なるのは股裂きシーンである、読んで字の如く人間の股が真っ二つに裂かれる、ああ人間の体の中って内臓いっぱい詰まってるんだなと私たちに教えてくれる重量感溢れる股裂きシーンは一見の価値ありである。

こうして"Bone Tomahawk"はブチ殺しブチ殺される仁義なき陰鬱ホラーへと姿を変える訳だが、監督のこの前半と後半に落差を与える采配はひどく巧みだ。連綿と続く西部劇という伝統の風景をユーモアや恐怖、グロテスクさによって換骨脱胎し、新たな景色を観客に見せてくれる。万人にお勧めできる代物では断じてないが、グロテスク描写と132分という時間に見合ったスローな展開に臆さない人には、何か変な映画観たわコレ……という簡単には咀嚼しがたい余韻を必ずや与えてくれる筈だ。

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