鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Leah Meyerhoff &"I Believe in Unicorns"/ここではないどこかへ、ハリウッドではないどこかで

今、アメリカでFilm Fatalesという団体が注目を集めている。LAとNYを拠点として活動しているこの団体は、女性差別の激しいハリウッドから離れて、自分たちで映画を作っていこう!という意気を同じくした作り手たちの団体だ。ここからどんどん才能ある作り手たちが現れていて、"She's Lost Control"Anja Marquardt"The Diary of A Teenage Girl"Marielle Heller"It Felt Like Love"Eliza Hitman"Butter on the Latch"Josephine Decker"Lyle"Stewart Thorndike(以上、題名から予告に飛べます)、更にブログで紹介した作家には"The Midnight Swim"サラ・アディナ・スミス(紹介記事)、"Fort Bliss"サラ・ヴァイオレット=スミス(紹介記事)、「女教師」「6年愛ハンナ・フィデル(記事その1その2)などなど正直キリがない。ということでポスト・マンブルコア世代の作家たちその16では、Film Fatalesの設立者である映画作家Lea Meyerhoffと彼女の長編デビュー作"I Believe in Unicorns"を紹介していこう。

Lea Meyerhoff は1979年12月4日、カリフォルニア州のサンフランシスコに生まれた。ブラウン大学で美術記号論で学位を取得後、ニューヨーク大学で映画を学び始める。2003年から映画監督として"PacMouse"神経症の女性が自分の性欲を武器にする方法を学ぶ"Neurotica"サランラップに執着する女性の姿を描く"Wonderfluff Sandwitches"など短編を精力的に手掛けていく。

Meyerhoff監督の名が一躍有名になるきっかけとなったのが2005年の作品"Twitch"だった(Meyerhoff監督の公式vimeoから鑑賞できます)。車椅子の母を介護する日々、恋人と愛し合う日々、2つの狭間で自分が分からなくなっていく少女を描いたこの作品はスラムダンス映画祭、アヴィニョン映画祭、バークレー映画祭などで最高賞を獲得、200もの映画祭を巡り話題となる。

その後は映像作家としてTriple Creme"Team Queen"(2006)、Joan as Police Women"Eternal Frame"(2007)、LUFF"Like Our Fathers"(2011)などのMVを手掛ける一方で、母校のニューヨーク大学ニューヨーク・フィルム・アカデミー、シカゴ美術館附属美術大学で教鞭を取っていた。そして2013年、彼女は友人たちと共にFilm Fatalesを設立(これについては後述)、2014年には初の長編監督作"I Believe in Unicorns"を手掛ける。

話したいことが沢山あるのだけど、何処から始めていいのか分からない。でも、そう、この日は誕生日で、私は呼吸するってことを覚えようとしていた……デヴィーナ(「ハンナ・モンタナ ザ・ムービー」Natalia Dyer)は虚ろな日々を送っていて、誕生日のその日も例外ではないはずだった。自分の仕立てた可愛い部屋の中、薄ぼやけてもなお美しい夢から、乾いた絶望感を抱きながら目覚める、リビングには車椅子に乗った母親(Toni Meyerhoff、前述した"Twitch"にも出演、監督の実母)の姿、感情も何もかも剥ぎ取られた表情を浮かべて動くことも出来ない彼女にデヴィーナはストッキングを履かせる、それが彼女の誕生日の朝。

幸せだったいつかの日々、息もままならず水の中に沈む今の自分、そして腐りゆくバースデーケーキの姿、"I Believe in Unicorns"のOPはMeyerhoff監督の指向する物を様々に象徴している。いつか私は幸せだったはずなのに、私の未来にはもう何も良いことなどないんじゃないか、そんな思春期の閉塞感。それを考えずにいられる手段が幻想への逃避だ、私はユニコーンがいるって信じてる、森の中でささやかながら優美な装いをまとって、デヴィーナはユニコーンを探し、さまよう。だが実際の自分は水の中に沈みこんでしまっている、"死んでいる"のではなく"生きていない"私、彼女はそんな自分を救ってくれる人を待っている。

学校に行くと、デヴィーナにとってたった1人の親友キャサディ(「肉」ジュリア・ガーナー)がプレゼントをくれた。それはポラロイドカメラ、笑みを浮かべながらデヴィーナが写すのはキャサディのはにかんだ顔、綺麗な青空、そして遠くでスケートボートをしている青年の姿。「ねえ、あそこにいる人見える?」「どこ……ああ、何か負け犬って感じ」「私は可愛いと思うな、あの人」デヴィーナが写真を撮っていると、その青年スターリング(6年愛」ピーター・ヴァック)が彼女の元にやってくる。「いいねこの写真、俺の本質を写してる」そうして頬をほころばすデヴィーナをスターリングはデートに誘う。何かが変わろうとしている、彼女はそんな予感を抑えることが出来ない。

最初は全てが一瞬にして叶ってしまったかのような夢見心地の気分で、スターリングとの時間を楽しむ、しかし驚くほどすぐに日は陰りゆく。彼女はスターリングの部屋に誘われ、そこでキスを、愛撫を交わすが、徐々に彼の力は強くなり、彼女の体だけでなく心まで組伏せようとする。全てが終った後、デヴィーナは路上に唾を垂らす。それでも彼女はスターリングの元へ赴く、彼が何かを変えてくれるとそう思ったからだ、そしてデヴィーナたちは自分たちが幸せになれる"ここではないどこか"を目指して旅立つ。

"I Believe in Unicorns"は中盤からロードムービーへと姿を変え、監督による演出の魅力も増していく。ボニーとクライドめいた旅の道行きの最中にハッキリと浮き彫りになるのは、デヴィーナとスターリングの不完全性だ。2人にとって完全なものは何もない、愛も何もかも。旅の途中で彼女たちは幾度も衝突し、その度に再び愛は高まり、かと思えば、とその繰り返し。ありきたりな話運びではあるかもしれないが、この幼い愛と憎しみがシームレスに入れ替わる采配の巧みさが凡庸さを補う。そしてこの反復はデヴィーナの抱く幻想にも影響を与える。最初は現実逃避という言葉を砂糖でコーティングしたような光景が広がりながら、少しずつその光景に不安が染み始める。題名にもある通り、劇中で何度も登場するのがユニコーンだ。ストップモーションアニメで生き生きと描かれるユニコーンは、しかしデヴィーナが自身の中にハッキリと認識する怪物の存在によって危機を迎える。この2つの存在の暴力的な交わりが、今度は逆にデヴィーナとスターリングの関係に影響を及ぼしていくと、監督が作り出す現実と幻想の円環は観るものを魅了して止まない。

夜の森、輝く無数の火花がくるくると回るデヴィーナの陰影を浮かび上がらせる、この"I Believe in Unicorns"で息を呑む瞬間の1つだ。確かに先述の通り定石通りの展開などに不満がない訳ではないが、それでもLeah Meyerhoffという新人監督を新たな才能と呼びたいのは、彼女の持つ独創的なビジョンが心を掴んで離してはくれないからだ。[B]


監督とキャスト陣、角つけてパシャッ!

ではここからは、彼女が設立したFilm Fatalesについて、Meyerhoff監督のインタビューを抜粋。

"Film Fatalesが始まったのは、私がデビュー作の"I Believe in Unicorns"を準備していた2013年の後半ごろです。長編映画を監督した経験のある友人たちに言ったんです「ちょっとコーヒーでも飲みながら、アドバイスをもらいたいんだけど……」映画を作る人なら皆そうしますよね。で、その中で惜しみなくアドバイスをくれたのが女性たちでした"

"6人ほど家に招いてディナーパーティを開いたのですが、それが終わってから「コーヒー飲みながらなんかよりずっと効率的、みんな集まってるんだし!」私たちは2時間も映画について話していて、その経験は私にとって本当に素晴らしく助けになりましたし、映画を作る励みにもなりました。「こういう会をもっと開こう!」とパーティで口にすると、ある友人が「今度は私がもてなしたい!」と言ってくれて、そして次のパーティは彼女がもてなして、その次のパーティは他の友人がもてなして……これを繰り返していたら、こう、指数関数的に増えていったんです(中略)そして今は殆ど組織的な――非営利的団体とは言えませんが――女性監督たちが月の初めの週に互いの家で出会ったかと思えば、アドバイスするにしろ直接的な手助けをするにしろ、互いのプロジェクトをサポートし合える有機的なグループにまで大きくなりました。"

"皆が互いのために共同で脚本を執筆したり、監督をしたり、製作を手掛けたりします。皆が互いの作品のクルーという訳で、まだまだ発展途中ですが、Film Fatalesは素晴らしく協力的なコミュニティーなんです。私が思うに映画作りというのは、殊に映画学校に通っていない人々にとって孤独なものです。独りで編集し、独りで脚本を執筆し、独りで映画祭を巡る……それ故に他の映画作家たちと何かを共有できるネットワークを持てるのは本当に素晴らしい、特に女性にとっては!(中略)それがなぜ重要かは、皆さんも知っての通り、女性監督の割合が全体の10%、脚本家や監督が少なければ撮影監督は更に少ない、その割合が10年間殆ど変っていないという絶望的な統計にも明らかでしょう"

"映画祭を巡っていると、その映画祭で私が唯一の女性監督だということが良くあって、それは"そう、Film Fatalesはこういう状況に対してのカウンターなんだな"とそんな感じでした。しかし今はその代わりに、自分たちも同じ経験をしてきたという女性たちに囲まれているんです。革命的ではありませんか。そうして勇気づけられた彼女たちは言います"私以外にも才能に溢れた沢山の女性たちが映画を作ってる、その姿を見て!"と"*1

ということでMeyerhoff監督とFilm Fatalesの今後に期待。あとFilm Fatalesの映画作家たちを何人か取り上げていきたいとも思ってるけど、まあマイペースに行きます。


Film Fatales大集合。一番左の赤毛女性が"The Diary of A Teenage Girl"のMarielle Heller

参考文献
http://www.leahmeyerhoff.com/(監督公式サイト)
https://vimeo.com/leahland(監督公式vimeo)
http://www.filmfatalesnyc.com/(Film Fatales公式サイト)
http://www.shockya.com/news/2015/06/12/interview-leah-meyerhoff-natalia-dyer-and-peter-vack-talk-i-believe-in-unicorns/(作品についてのインタビューその1)
http://agnesfilms.com/interviews/interview-with-leah-meyerhoff-director-producer-and-writer-of-i-believe-in-unicorns/(インタビューその2、超長い)
https://filmmakermagazine.com/94321-biggest-challenge-best-lesson-i-believe-in-unicorns-director-leah-meyerhoff/(インタビューその3)
http://thewildmagazine.com/blog/an-interview-with-film-fatales-founder-leah-meyerhoff/(Film Fatalesについての監督インタビュー)

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