鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について

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現在、ルーマニアでは同性婚禁止の動きが活発化している。政府が国民投票によって結婚についての憲法条項の改訂を決めたのである。もしこれによって本当に同性婚が禁止されてしまったならば恐ろしいことだ。LGBTQである人々の権利が著しく侵害されてしまうのだから。そんな状況で大事なことはルーマニアにおいてLGBTQの人々の現実がどうなっているのかを知ることだろう。何事も知ることからこそ始まるのだ。そこで今回は中でもルーマニアに生きるレズビアン女性たちの愛の風景を描き出した作品である、Bogdan Theodor Olteanu監督作“Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă”を紹介していこう。

今作の幕開けを飾るのは、とある女性2人(Silvana Mihai&Florentina Nastase)のSkype上での会話の数々だ。特にどうということはない会話を繰り広げた後、彼女たちは1人の女性、背がとても高い女性についての話(タイトルの意味はこれである)を始める。彼女の隣にいると自分が小さく思える、彼女とは海辺で会ってそれからファックした……2人の共通の友人、というか共通の元恋人の話を通じて、彼女たちは少しずつ仲を深めていく。

そうして2人はーー劇中では名前が明かされないので、ここでは演者の名前を借りてシルヴァナとフロレンティーナということにしようーーシルヴァナの部屋で一緒に会うことになる。ワインを片手にSkypeの延長上にある他愛ない会話を繰り広げ、フロレンティーナが製作したドキュメンタリー作品を見て、いちゃいちゃするかと思えばシルヴァナがフロレンティーナの唇をかわしたりと2人は近づいたり遠ざかったりとを繰り返し続ける。

Olteanu監督の演出はリアリティ重視のものだ。彼は撮影監督Mihai Marius Apopeiと共に手振れの濃厚なカメラで以て、目前の光景をストイックに撮し取っていく。そうしてスクリーンから溢れるのは生々しい空気感だ。彼女たちの息の音や熱が、観客にこれでもかというリアルさを以て迫ってくるのである。それは例えばレズビアンが主役の映画でも「キャロル」などとは対局に位置するような演出指向と言える。あちらはもっと壮麗な形でレズビアンの愛を描き出していたが、こちらはとにかく地に足がついている、無駄を削ぎ落とした素朴さが要だ。現実が観る者に肉薄してくるとそんな印象を受ける。

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さて恐らく何度も書いているが、私はこのブログでマンブルコアというゼロ年代に始まった米インディペンデント映画界の潮流について記している(知らない人はこのページから追っていこう)超低予算であったりアドリブが主体で会話が常時モゴモゴしているといった特徴がある他、関係性と肉体性を密接に絡ませながら物語を描くという大きな共通点が存在する。その意味で今作は正にルーマニア版マンブルコアと形容するべき作品だ。特に初期のジョー・スワンバーグ作品に顕著だが、肉薄するような生々しさの中で動作=肉体性が重視される様はマンブルコアの演出形式と似通っている。

それは劇中で流れるドキュメンタリー映画にも反映されている。そのドキュメンタリーとは同棲中であるレズビアンカップルの日常を淡々と映し出した作品だ。一緒にキッチンを隅々まで掃除する、ベッドに寝転がってイチャイチャする、お風呂に入りながら煙草を吸う、そういった何気ない日常の数々が淡々と浮かんでは消えていく中に、彼女たちへの愛おしさが溢れてくる。

音が録音されていない故に生活音や会話は聞こえることがなく、私たちはダイレクトに彼女たちの動作だけを味わうことになる。固定カメラで静かに紡がれていく風景には生の表情や動作が浮かび上がり、その親密さが濃厚に伝わってくる。そして特に片方が片方にマッサージを施す場面においては、肉体性こそがこの関係性の中心にあるのだということを饒舌に語っている訳だ。

ここでシルヴァナたちの物語に戻ろう。私たちは彼女たちの交流を眺めるうち、2人の性格には決定的な違いがあることに気づくだろう。つまりフロレンティーナは関係性を築くのにとても積極的である、しかしシルヴァナは関係性を築くのにとても臆病であるという違いだ。そんな2人が互いの異なる性格を見据えながら、狭い部屋の中で心のうちを探りあう姿は、恋愛に身を浸したことがある人ならば身に覚えのあるだろう光景だろう。それを監督は胸に迫る切実さで以て捉えていくのだ。

しかしこの作品において2人が会う場所はシルヴァナの部屋だけであり、一緒に外へ出ることは一度たりともない。唯一部屋の中だけだ。それ故に2人の間には親密さの他にもどこか息苦しさすらも存在しているように思われる。それは宗教などの関係から頗る保守的なルーマニアにおいては、レズビアンであることを隠さなくてはいけないからというのもあるだろう。フロレンティーナは比較的自由を謳歌しながらも、シルヴァナは親にも自分がレズビアンであることについてカミングアウトできていないクローゼット状態なのもあり、苦しみは計り知れない。閉じられた部屋でしか自分を表現できない悲しみの存在が、今作に暗い影を投げ掛けていることは確かだ。

恋することの喜びも隠れて生きることの苦しみも含めた上で、“Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă”ルーマニアに生きるレズビアンたちの等身大の愛の物語を描き出した作品だと言えるだろう。彼女達がどこか息苦しくも親密に互いの心を探りあい辿り着く先にある物とは一体何なのか。ルーマニア同性婚禁止の動きがある今観られて良かった作品だ。

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ルーマニア映画界を旅する
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その25 Lucian Pintilie&"Terminus paradis"/狂騒の愛がルーマニアを駆ける
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その27 Lucian Pintilie&"Niki Ardelean, colonel în rezelva"/ああ、懐かしき社会主義の栄光よ
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その41 Dan Pița&"Duhul aurului"/ルーマニア、生は葬られ死は結ばれる
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その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
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その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
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その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
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その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
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その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
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その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
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その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
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その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
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その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
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その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
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