鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

娯楽マシマシ二郎系Z級映画「キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群」

「今回はまず、私とイタリア映画の出逢いについて語ろう」

「また、Z級なヘドロまみれの思い出なんじゃないんですか………?」

「普段の態度から、的外れな類推をしてもらっては困る!
 私の人生は映画と共にあったと言っても過言では無かった……!
 特に少年時代は今よりもっと、とにもかくにも沢山の映画を貪るように観ていた。だがその頃はただ見たら『ああ面白い!』『うわつまんねぇ!』とか束の間の娯楽として消費するのみ、映画を上澄みを掬うのみで、
 『誰がこの映画を作ったのか?』『どこの国でこの映画は作られたのか?』
 などということに全く気を留めることはなかった。
 そんな中で初めて『誰が作ったの!?』『どこの国の映画!?』
 そう思う程に感涙した映画が、『鞄を持った女』という映画だった……」

「へえ“新世代”の名作じゃあないですか。そういう映画に心惹かれる時代も、教授にあったんですね」

「純粋無垢な少年と、幸薄くとも健気に生き抜く女性との、哀しく残酷な愛の物語。
 私は心の底から勘当し、この監督の名を一生心に刻み付けようと決意した――“ヴァレリオ・ズルリーニ”
 それが私とイタリア映画の出逢いだった……

 そこから“ネオレアリスモ”や“新世代”の作品と共に多感な時代を過ごした。
 ベルトルッチの『暗殺の森』ウェルトミューラーの『流されて……』ロッセリーニ『殺人カメラ』
 ダミアーニ『シシリアの恋人』パゾリーニ『ソドムの市』デ・シーカ『哀しみの青春』……
 だがしかし!!!
 その文芸寄りの嗜好を一気にZ級映画LOVEへと変節させたあの素晴らしき映画が、突然私の目の前に現れたのだ。忘れもしない1986年ゴールデン洋画劇場放送!それが今回私が紹介するZ級映画
 
 ――『キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群』だ!

「うわー………如何にもにして如何にもなZ級映画っぽぉい………」

「娯楽性を余りにブチ込み過ぎた二郎系マシマシギトギト映画に、私はTVの前で爆笑を抑えることが出来なかった、いや出来る訳が無かったのだ!こんな映画を作ったのは一体誰だったのか!そして私は辿り着く!
 この監督こそイタリア娯楽映画界の頂点に君臨し、またイタリアZ級映画界においても最古参に当たる!
 彼の名はアンソニー・デイジィ!
 またの名をアンソニー・マシューズ!
 そしてまたの名をアンソニー・M・ドーソン
 しかしてその本当の名前こそアントニオ・マルゲリティ!!!」

「別名多すぎじゃあないですか?!」

「いやいや、彼は少ない方だぞ。多い監督なら10数個もの別名を持つ物もいる。
 例えば前に語った『猟奇変態地獄』や『インモラル家政婦』でもお馴染みジョー・ダマト監督は、サラ・アスプルーン、ジョン・シャドー、デヴィッド・ヒルズ、ダニエル・デイヴィス他計12の別名を使い分けている」

「そんな別名持ちまくってどうするっていうのですか……」

「これはZ級映画界の知恵と言っていいかもしれない。
 アングロサクソン系の名前を名乗ることで、あたかもこの映画はアメリカ人スタッフが作った純粋なアメリカ映画なのだと、世界にマーケティングできるわけだ。その方が外貨を稼ぎやすいのだと言う経験から来ているのだろうな」

「はぁ、これも金のためですか」

「そうだな。このマルゲリティは監督としての生涯を二番煎じ映画製作に費やした崇高なる匠であった。SFよりキャリアが始まり、ホラー&史劇でその名を高め、70年代はゴシックからマカロニ・ウェスタン、そして犯罪映画と精力的に二番煎じ映画を作り上げ、80年代は『地獄の謝肉祭』からはじまるフィリピン戦争アクションシリーズを撮りまくった!」

「ホント節操なく何でも作ってしまうのですね。前のルイジ・コッツィ監督といい、この頃のイタリアZ級映画界には映画に対する真摯さが微塵たりとも感じられない……」

「真摯さだけでは映画は作れない。金を稼ぐ!という商魂があってこその、イタリア映画なのだ。
 だがその中でマルゲリティ作品に通底する掛け替えのない魅力がある。それは観客を楽しませようとする心意気だ!ハッタリでも外連味でもない、己の手練手管を存分に発揮し、そして低予算であっても有り余るその技術を以て、人々を楽しませんとするマルゲリティの心意気が、その全ての作品にある。
 今回観ていくのは、その心意気がとんでもない方向に行ったことによって大傑作と成り得た『キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群』なのである。早速みていこう!」

キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群
監督: アントニオ・マルゲリティ 『幽霊屋敷の蛇淫』 『ジャングル・レイダース/黄金のレジェンド』
製作: アレックス・ポンティ『ふたりの女』 『オスカー』
    エンツォ・バローネ
脚本: マイケル・ロジャース
撮影: アルベルト・スパニョッリ 『超人ヘラクレス』 『禁断のインモラル/魔性に彩られた処女喪失の館』
音楽: グイド&マウリツィオ・デ・アンジェリス 『E.T.と警官』 『ザ・サムライ/荒野の珍道中』
編集: ロベルト・ステルビーニ 『イル・ポスティーノ』 『サンゲリア2

ラスキー: リー・メジャース 『悪夢のウィークエンド/恐怖の尼僧誘拐』 『最凶家族計画』
ケイト・ネヴィル: カレン・ブラック 『マーダーライドショー』 『超能力学園Z Part2/パンチラ・ウォーズ!』
ガブリエル: マーゴ・ヘミングウェイ 『スキャンダラスな女/愛と欲望の私生活』 『ニュー・アメリカン・ヒーロー/笑龍密使』*1
ポール・ディラー: ジェームズ・フランシスカス 『アロハはさよならの意味』 『暗黒殺人指令』
アン: マリサ・ベレンソン 『アスファルト・ウォリアーズ/鮮血ストリート殺人』 『ミラノ、愛に生きる
オリー: ロイ・ブロックスミス 『トータルリコール』 『町でいちばんの美女/ありきたりな狂気の物語』
トム: ゲイリー・コリンズ 『大空港』 『フロリダ・ハイジャック/衝撃!人質は世界の美女たち!!』
ウォーレン: フランク・ペッシ 『マッドフィンガーズ』 『マニアックコップ3/復讐の炎』

(100 Minutes Later)

「うわーー〜〜〜〜〜〜………スゴいですね……」

「なあ!これ凄いだろコレ!!!」

「キラーフィッシュ、という題名からして『ジョーズ』だとか『ピラニア』みたいな魚介類パニックものを創造したのですけれど、まさかの怪盗アクションから幕開けて、犯罪&ラブサスペンスに至り、そして災害パニックと来て、やっと魚介類パニックになったら今度は心理サスペンスになる、そんな観客の注意力を持続するための涙ぐましい娯楽要素テンコ盛りの内容に悪酔いしそう………確かに観客を楽しませようという心意気は感じる、というかもうコレ観客が当惑するレベルの心意気ですよ……」

「それが良いんじゃあないか……」

「まず冒頭からして、高山施設からダイヤ強奪の為の007的アクション、そして何ですかあの妙に精巧で迫力あるミニチュア特撮は!アレ、何か他の作品のフッテージを借用しているんじゃないですか?」

「そのツッコミを何千回、何万回聞いたことか……嘆かわしい!!!
 高山施設の爆発炎上!巻き上がる炎の数々!これらは全てマルゲリティ監督が自分で作りだし、自分で演出し、そして自分で撮影した代物だ!
 彼は小さなころからミニチュアを愛し、それが高じて自身のミニチュア工房を持つほどに特撮のプロ!
 コンビナートに、ヘリコプターに、空港に、発電所に、高層ビルなど自分で作っては爆破し、時には息子であるエドアルドと共に作っては爆破する。そんな一流のテロリストめいた技能が存分に発揮されたのが、この冒頭のシーンな訳だ」

「へぇ……物語の後半、ピラニアそっちのけでダム爆破したり、洪水で施設を爆砕させたり、冒頭以外でもやりすぎ感がありましたが確かに凄い事は凄かったですね」

「そんな犯罪アクションで映画は幕開け、次はチマチマした内ゲバ問題が勃発する訳だが」

「このクソ長い下りの中盤で初めてピラニア出て来るのでしたっけ?抜け駆けした兄弟がダイヤの隠し場所行くときに」

「そして潜ったら喰われる」

「そうですよ!あのピラニア、特撮に比べるとチャチすぎません???
 ピラニアただのゴムの塊で、血だまりも何かボールペンの赤インクをブチ撒けたようなヘチョヘチョさで、力入れる所ここじゃあない?と当惑せざるを得ませんでした」

「落差が素晴らしいんだ……!」

「落差っていうか、いきなり出てきたカメラクルーとすったもんだとか落差とかそういう問題では……」

「デブのオネエの異様な存在感だけでご飯三杯は行けるな」


この顔面力!実際の映画を見ると、すごくムカつきます

「あとカレン・ブラックのペチャパイで更にご飯五杯行ける」


水着画像はありません、あしからず

「正直どうでもいいトコばかり………!!!」

「どうでもいいところに変な魅力がある、それこそZ級映画の醍醐味だろうが!」

「というかホント脚本に問題がありすぎですよ!大味すぎですよ!
 ダイヤ隠した湖にピラニア放っといて『どうやってダイヤ取るの?』という問いに対して

 『生肉でピラニアの気を反らせている間に、ダイヤ取れば何とかなる』って!!!

 そんな荒い物言い適当以外の何物でもないですし、それで意外と取れちゃいますし、でも取ったら取ったでダムが崩壊してまさかの超小型ポセイドンアドベンチャー突入には口あんぐりですよ!あの展開全体的に酷い!」

「デブのオネエがピラニアに喰われてすごく悲しかった……」

「アレは……まぁそりゃあ死にますよね感があまりに強すぎて……」


オネェよ、永遠に……

「そして飛行機も墜落して哀しかった……」

「操縦者がバカすぎるんです」

「ピラニアそっちのけで痴話喧嘩も哀しい……」

「カレン・ブラックでしたっけ、あのヒロインの貧乳版峰不二子っぷりがドイヒー……」

「主人公決死の攻撃も悲哀に充ちていた……」

「えっバカなの主人公、ピラニアいるの分かってて飛び込むのバカなの???と思ったら結構頑張っていましたね………ってあーーーーーーーーーもう全部超どうでもいい!ホント密度は濃いのに、その内容一つ一つが下らない!それって正直一番タチ悪くありません?!」

「それもこれも全て、イタリア仕込みの小粋なラストで全てチャラという奴さ」

「私には『ペテン師とサギ師』とかそういうイギリス映画の小粋さをパクッたようにしか見えませんでしたが」

「それを言うなら『黄金の七人』の小粋さをパクったと言え!」

「パクったという本質は変わりませんからどうでもいいですよそんなの……」

「ともかくだ、私が言いたいのはだ、正にこの映画自体、特にこの終盤の交錯した展開の数々にイタリア映画の素晴らしさが象徴されていると思われてならないのだよ。
 Z級映画、特にこれらイタリアZ級映画群の核には、“カオス”があるのだと思われてならない。
 それはまるで、8時間休まず煮込んだ特濃とんこつラーメンに、GODDIVAのチョコレートケーキをブチ込み、そこに1g4000円の最高級キャビアをドボドボッドボドボ流し込んだ末に結実する、極限の混沌なる食い合わせのような……!」

「旨い物でも相性を考えずに、ただただブチ込んだらとんでもないゲテモノでしかないですね」

「『ドラキュラVS7人のドラゴン』『空手アマゾネス』『悪魔の人間釣り』『アルマゲドン・オブ・ザ・デッド』『女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』etc……
 ゲテモノになると分かっていながら、合体され完成するZ級映画の何と甘美なカオスだろうか!
 だがマルゲリティ作品はそれらとは一線を画す、高次のZ級映画なのだよ」

「高次もクソもあるんですかね……」

「彼は細部の演出を徹底することで、ゲテモノを万人受けする料理に仕立て上げる事に関しては天才的だった。どんなにも潜在的トラッシュ映画さえも、彼の手に罹れば金の成るゲテモノに仕上がるのだ。
 ミニチュア撮影などの唯一無二の技巧を以て、それを低予算で成し遂げる。その手腕で彼は魑魅魍魎の跳梁跋扈するイタリア映画界というパンデモニアムを生き抜いてきた!
 いうなれば、アントニオ・マルゲリティの作品にはカオスの美学がある!!美学が!!!
 そんな彼の生き様を最も色濃い形で反映しているのが『キラーフィッシュ 恐怖の人喰い魚群』という訳だ。
 近年彼と同時期に活躍した『吸血鬼』『カルティキ/悪魔の人喰い生物』のリカルド・フレーダは、中原昌也氏らにより紹介される事で日本での再評価を果たしているが、マルゲリティについては一切語られることはない!
 全く嘆かわしい事だ!下記にマルゲリティについての資料を付記するゆえ、この記事とそれら先人の手による素晴らしきマルゲリティ考察によって、彼の作品に興味を持ち、正統なる評価がされんことを願いながら、この記事を終える事とする!
 それではArrivederci, Arrivederci, Arrivederci!

参考サイト
http://angeleyes.dee.cc/anthony_dawson/antonio_margheriti.html
「イタリア映画黄金期を代表する職人監督 アントニオ・マルゲリティ 〜Antonio Margheriti〜」
日本語サイトではおそらくこのサイトが一番詳しいだろう。マルゲリティの来歴、そして主要作品についてのレビューが簡潔に語られている。

http://www.geocities.jp/horroritaliano/V30.htm
この記事など足元にも及ばない『キラーフィッシュ』レビュー。イタリア語の資料を総覧した方が書いているので、超参考になります。

http://www.antoniomargheriti.com/english_version/enghome.htm
アントニオ・マルゲリティ公式英語サイト。ここにマルゲリティの全てが詰まっていると言っても過言ではないので必読である。

*1:御存じアーネスト・ヘミングウェイのお孫さん。しかし鎮静剤の過剰摂取で41歳の若さで死去