鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

愛されるよりも、愛死体「ビヨンド・ザ・ダークネス/嗜肉の愛」

「君から始まる!山手線ゲーム!イェーイ!お題は映画に出てきた性的倒錯!パンパン!」

「えっ、えっ!?えっーと、アレ、『血を吸うカメラ』での主人公の窃視愛好パンパン!」

「『ジョルジョ・バタイユ ママン』での、イザベル・ユペールルイ・ガレルの近親相姦パンパン!」

「えーっと、『羊たちの沈黙』のレクター博士カニヴァリズム、パンパン!」

「『ブラッド・ピーセス/悪魔のチェーンソー』殺人鬼のアクロトモフィリア(訳:肢体欠損愛好)パンパン!」

「『ソドムの市』のスカトロジー……パンパン!」

「『邪淫の館・獣人』での獣ペニスにパイズリしたりする一連の獣姦行為、パンパン!」

「『セクレタリー』のマギー・ギレンホールマゾヒズム、パンパン!」

「『The Witch who came From the sea』の主人公のステノラグニア(筋肉愛好)パンパン!」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと………ああ!『キスト』のネクロフィリア!」

「それだよ、それ!!!」

「えっ………えっ?」

「今回取り上げる映画は、死体性愛がテーマのイタリア映画という訳なんだな」

「まーた教授、迂遠なことしやがりましたね……」

「パクリ、要素詰め込み過ぎ、そして最後のファクター、それがエログロである。
 リカルド・フレーダ、マリオ・バーヴァと連綿と継承されてきた、ホラーの耽美的グロティシズムを根本から覆し、いわゆるモンド映画や食人映画などの即物的にして壮絶なグロテスク描写をホラーに移植したことで、それ以後の即物的グロテスク潮流を決定づけたイタリアンホラーの分水嶺、それこそが――

『ビヨンド・ザ・ダークネス/嗜肉の愛』だ!

「最後のファクター、ということは今回でイタリアZ級映画界は終りという……?」

「そうだ、であるからして珠玉のZ級映画を取り上げてみた所存だ。
 さあ早速見てみよう。Z級映画のZは、俗悪のZだ!」

(90 Minutes Later……)

「どうだ「オェェェエッェェエエェッェェッェエxッェ……………」

「良い反応だな!」

「俗悪!俗悪!俗悪!俗悪!品性下劣も甚だしい、倫理観の欠片も見られない、余りにも、余りにも悍ましい変態共の慰み物!ゲロ以下の匂いがプンプンする……」

「それはもう惜しみなき賛辞をどうもありがとう。草葉の陰よりジョー・ダマト監督も喜んでいるだろう」

ジョー・ダマト………ジョー・ダマトって前にも出てきた、えっと……胎児踊り喰いの『猟奇!喰人鬼の島』とかあと………黒いエマニエルでしたっけ……そのシリーズの『猟奇変態地獄』の監督でしたよね……?」

「全く以てその通り!並み居るイタリアZ級映画監督の中でも、エクストリームなエログロを以て異彩を放つ彼の監督初期作がこの『ビヨンド・ザ・ダークネス』という訳だな。さてあらすじを見て行こう。

死んだ両親の遺産で裕福に暮らす青年フランチェスコ(英語版ではフランク)は、剥製作りが趣味であった。彼には若く美しい恋人のアンナがいたが、家政婦のアイリスはフランチェスコを独占するために、黒魔術でアンナを病死させる。これをきっかけに、フランチェスコは狂気へとのめり込む。彼はアンナの死体を盗み出し、血液と内臓を抜き取って防腐処置を施し自宅に保管する。さらに、衝動的に若い女性達を残忍なやり方で殺害する。その傍らで、アイリスは彼女達の死体を平然と処理していく。今やアイリスに依存しきったフランチェスコは、彼女の求婚に応じてしまう。そんなある日、アンナそっくりの女性が二人を訪ねて来る。それは、アンナの双子姉妹のエレナであった。彼女の出現は、フランチェスコとアイリスの関係を血にまみれた破局へと導く。
 http://www.geocities.jp/horroritaliano/V23.htm より引用

「何と言っても白眉なのは死体描写の精巧さだろう。
 フランチェスコの妻アンナ役シンツィア・モンレールの美しき白皙への偏執的フェティシズムも然ることながら、死体であろうと彼女を愛し続けるために施す、処理の悍ましさ!」

「腹部掻っ捌いて、内臓取るのはまだよくて……いや良くないですけど……それから鼻に管通して、桃色の何とも言えない体液を抽出するトコが妙にリアルで、何かオボロロロロロロロロロロ………」

「あそこには、細部を疎かにせぬ俗悪への真摯さ、リアル嗜好が顕されている。それでありながら主人公フランチェスコの死体性愛のマジっぷりや、更に内臓掻っ捌いてる途中に心臓取り出してムシャコラする人肉嗜好の存在も示唆される、変態的名シーンだ!」


内臓ペロロ〜〜〜〜〜〜〜ン

「思い出すだけで、吐き気が無限に湧いてくる……
 にしてもあの主人公の造形、多分『サイコ』に影響受けてますよね。剥製づくりを趣味としていたり、死体性愛なんかも……というか遡ってエド・ゲイン彼自身に当たっちゃうのでしょうか?」

「ふむ、これには原案がある。ジャコモ・グエッリーニ『猟奇連続殺人』というのがそうなのだが、このサイトに寄れば『猟奇〜』はサイコに強い影響を受けて作られ、それにのっとって映画が作られた故に『サイコ』の影響を感じるのは当然だろうな。それに、まあ、この作品もイタリアZ級映画の例に漏れず……」

「色々パクっていると……!」

「まあ、オマージュだ、オマージュと言おう!
 まず死体性愛というのが、1970年『愛欲のえじき』という作品でセンセーショナルに取り上げられた。意外と新鮮なネタ――死体に新鮮と言うのもアレだが――ではなかったりする。そして特に死体処理なんかは、先人のアイディアに依る所がある。焼却炉で死体を処理するのは『クレイジーキラー/悪魔の焼却炉』なんかが元ネタだろう」

「悪魔の焼却炉って(笑)」

「言っておくがマリオ・バーヴァ渾身の名作だからな!」

「あ、そういえば、1人目の死体を処理する下り。
 アレってロミー・シュナイダーの『地獄の貴婦人』ですよね。
 硫酸風呂で死体を溶かして、その肉汁を処理してから頗る汚くカレー貪るシーン!『地獄〜』でじゃナポリタンズルズル啜りまくりでしたけど、『ビヨンド〜』はカレーをグヂュグヂャムッチャムチャ!あそこの気持ち悪さと言ったら、何とも……
 というか、というかですよ、主人公も勿論のこと変態でしたけれど、あのカレークッチャクッチャ食ってた中年の女中さん、あの人が一番変態じゃあなかったですか……?」


女中さん、ただいま渾身の手コキ中

「『サイコ』にも『愛欲のえじき』にも『地獄の貴婦人』にもない、この『ビヨンド・ザ・ダークネス』唯一無二の魅力は、彼女の存在であると言っても過言じゃあない。フランチェスコへと異常なる絶愛を捧げ、彼の殺人の後処理も無表情でこなすあの恐ろしさ!」

「行き過ぎた歪な愛でしたね。別にそういうことはないのに、近親相姦的な背徳がピリピリしていました、赤ちゃんみたいに乳首を含ませたり、殺人を犯した後の主人公のペニスを愛撫していたり……」

「そして死体処理場面!おっぱいがそれはもうプルンプルンプルンプルンしている全裸死体を、包丁でドーーーン!包丁でドーーーーーン!!時々飛び散った血しぶきが顔にかかっても、そのまま包丁でドーーーーーン!!!包丁でドーーーーーーーン!!!!それを全て無表情でこなすからして堪らない」

「全て愛の成せる技なのですかね……
 まあそりゃあそんなにも壮絶な愛が崩れ去るとき、観るも醜悪な終局が訪れますよねっていう。
 と言ったって、いきなり妻に超似てる妹担ぎ出してくるっていう展開はちょっと……」

「その行き当たりばったりが良いんじゃあないか!それが無かったら稀代のラストシーンは生まれ得なかった!ブライアン・デ・パルマ師の『キャリー』をも超えた驚愕のラスト!」

「うわわわっってめっちゃ驚いてから、その全力のこけおどしっぷりに爆笑するラストなんて、私は初めて見ましたよ……」

Buio Omega

Buio Omega

「さてここで、少しジョー・ダマト監督について『ビヨンド・ザ・ダークネス』の製作背景も交えながら簡単に見て行こう」
 ジョー・ダマトはまず撮影担当として、映画界でのキャリアをスタートさせた。その撮影手腕は、特にジャーロなどのサスペンスやホラー作品で発揮されたんだ。例えば移植ジャーロ『ソランジェ/残酷なメルヘン』そして『レディ・イボリタの恋人 夢魔』など、この時は本名のアリステッド・マサセッジ名義でその名を轟かせた」

「へえ……そういえば私調べたのですけれど、時折名の上がるマリオ・バーヴァ監督も、元は撮影技師として映画界でのキャリアを歩み始めたのですよね」

「そうだな、そのキャリア形成を以てマリオ・バーヴァが確立させた『残酷さやグロテスクを直接打ち出さず技術で彩り仄めかす』撮影美学を踏襲した多くのフォロワーの中の一人が、ジョー・ダマトだった」

「えっ、でもそんな美学『ビヨンド〜』からは全く感じない所か、過激なグロテスクや品性下劣なエロティシズムが匂い立つ絵作りでしたよね?一体どうゆう心境の変化が?」

「そこは難しい所だ。私はダマト自身の心境が変化した云々ではなく、この70年代後半、観客たちが過剰なエログロを求めていたからだと考えている。
 ダマトが監督業を始めたのは、1972年『Sollazzevoli storie di mogli gaudenti e mariti penitenti - Decameron nº 69』というコメディ作品だった。そこから職人監督としての才能を開花――そしてZ級映画に直接繋がる“商才”も開花させたのだが――させて、とにかく映画を製作しまくり、その過渡において1977年爆誕させたのが、この『ビヨンド・ザ・ダークネス』という訳だ。
 この前年に件のエマニュエル食人映画『猟奇変態地獄』を作った余勢を駆ってグロテスクホラーの製作だったのかもしれない。しかしアプローチ方法は全く異なる。『猟奇〜』が蛮族の食人族というヤコペッティモンド映画に端を発する見世物映画風だったのに対し、『ビヨンド〜』はリカルド・フレーダやマリオ・バーヴァ、直近ではアントニオ・マルゲリティの『幽霊屋敷の蛇淫』など格調高い洋館ホラーの体裁を取っていたと違いは歴然だ。
 そして『ビヨンド〜』はイタリア北部の町ブレッサノネで撮影されたというのも注目すべきだろう。オーストリア国境に近い町で、イタリア国内でもドイツ語が用いられる場所だった。そんな文化の混成が『ビヨンド〜』に異様なる趣を付加させたと言っても過言ではないだろう。
 さてこれを製作した後、彼は『ゾンビ'99』『猟奇!喰人鬼の島』『Absurd』と製作映画は俗悪化の一途を辿る。これが悪かったと言えば、むしろ自身の製作会社『Filmimage』を設立するほどにダマトはイケイケな絶頂期にあった!
 そして監督の傍らで思製作もコンスタントにこなし、これはZ級映画ではないのだが、イタリアンホラーを語るに欠かし得ぬ傑作を製作したんだ。このことだけでも、ジョー・ダマトという映画人は偉大であったと言わざるを得ない程の名作、それがミケーレ・ソアヴィ『アクエリアス』だ!

何も云わずにホラーマニアックスから発売されたDVDを見て欲しい。ミケーレ・ソアヴィこそ、イタリアンホラー映画界の最期の希望であったのだから……今となっては遠い昔の話だが……
 と、話は逸れたが、ダマトは『アクエリアス』の成功後に、ジャーロ経験者であるウンベルト・レンツィを招聘して、『ゴーストハウス』や『殺しのヒッチャー/震える白い肌』を製作、まーこれは正直Z級とも言い難い中途半端さであんまりだ。そこからダマト自身のキャリアも下降傾向となり、晩年はポルノ映画で糊口をしのぎ、1999年1月24日、心臓発作で永眠、享年62歳だった………彼の死を以て、私はイタリア娯楽映画界は終わったと思っている…………これは懐古主義者の戯言かもしれないが、少なくと私はそう思っている……」


「この3回において、金の亡者オヴィディオ・G・アソニティス、Z級映画の匠アントニオ・マルゲリティ、そしてエログロの伝道師ジョー・ダマトと選抜して3人のイタリアZ級映画人を紹介してきた。誰も彼も珠玉のZ級映画を作っている故に、彼らの作品をこれから是非ともチェックして行って欲しい。
 勿論彼らの他にもウンベルト・レンツィ、ルッジェロ・デオダート、クラウディオ・フラガッソ、ヴィンセント・ドーン、マリオ・ランディなど錚々たるZ級なる面々がいるのだが、今回はここまでとしよう。
 さて次は、イタリアの隣国であるスイスのZ級映画界について見て行こうじゃあないか!!!」

「スイス……普通の映画さえ思いつかないんですけど……オスカー受賞した「ジャーニー・オブ・ホープ」のザヴィアー・コラーとか、あと「マルタのやさしい刺繍」くらいしか思いつきません……」

「日本では馴染みのないスイス映画界には、オヴィディオ・G・アソニティスに負けず劣らぬ金を稼ぎ、欧州全体にエロティカル・レボリューションを巻き起こした男がいるのだよ!
 その男こそ――それは今度のお楽しみとしておこう!
 それではArrivederci, Arrivederci, Arrivederci!」


こういう映画作らせたら、右に出る者がいないスイスのエロ事師がいた……!