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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Tamar Shavgulidze&"Comets"/この大地で、私たちは再び愛しあう

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昔から女性を愛し、女性に愛されてきた、いわゆるレズビアンという人々がいた。しかし彼女たちの愛と人生は平坦なものではあり得なかった。社会の同性愛者への不理解や偏見に晒され、そして個人的な苦悩にも苦しめられ、愛する者と別たれてきた人々も多いだろう。今回紹介するのは、そんなレズビアンたちに捧げられる作品、Tamar Shavgulidze監督によるデビュー長編"Comets"だ。

主人公はナナ(Ketevan Gegeshidze)という中年女性だ。彼女は娘であるイリーナ(Ekaterine Kalatozishvili)とともに、首都トビリシから自身の故郷へ休養に来ている。暑くなる夏にはいつもそうなのだ。彼女たちは実家の庭に出て、その豊かな自然を味わいながら、会話を紡ぎ始める。

まず際立つのは監督であるShavgulidzeの演出法である。彼女はナナとイリーナの会話を、カメラを固定しながら真正面から、一切の動きもなしに描き続ける。会話をしながら、ナナは集めてきた果物の処理をし、イリーナはどこか不機嫌そうに辺りを見回す。長回しであるが故に、この光景が一切の途切れなく続いていく。そうすることで彼女たちの表情や動作もまた途切れなく描かれ続け、親密な現実性が増していくのである。

この演出法は、映画史において元も偉大な人物といっても過言ではないシャンタル・アケルマンの演出法に似たものだ。彼女はその長大な傑作「ジャンヌ・ディエルマン」で同じような演出を使い、専業主婦の日常を異様な現実味と緊張感を以て描き出していた。監督自身、インタビューで彼女が24歳で作った作品「私、あなた、彼、彼女」は印象的だったとその敬愛を語っている。

そんな親密な時間が流れる最中に、1人の中年女性が現れる。彼女の名前はイリーナ(Nino Kasradze)、娘と同じ名前である女性とナナは旧交をぎこちなくも旧交を温めあう。2人は30年振りに再会を果たしたらしい。そして彼女たちは再び言葉を紡ぎ始める。

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だがそうして時間が進んでいく中で、何か不穏な化外が漂い始めるのにも観客は気付くだろう。2人は言葉の裏側にある意味を見通そうとし、互いの心の中に宿る感情を探り当てようとする。それは何故なのか、2人の間に何があったのか。そういった好奇心を私たちは擽られることとなる。

そして映画において、30年前に起こったことの数々が星の瞬きのように描かれることとなる。ドア越しに会話をしていたあの時、中年になった2人がいるこの庭で思い思いの時間を過ごしていた時、一緒に野外上映で映画を観ていた時。その親密な時間は、彼女たちが心から愛し合っていたことを饒舌に語るだろう。

だがその愛し合っていた記憶が、なぜ離れ離れになった今の距離感に繋がってしまうのか。監督はそれに答えを用意しないままに、しかし現在の2人の様子を静かに見据え続ける。彼女たちは近づいては離れていく。冷たい雰囲気を醸し出すかと思えば、息を呑むほどの官能性に包まれることもある。この余りにも複雑な変遷の流れを、監督はありのままに提示するのである。

そして最も印象的な光景の1つとして挙げられるのは、その微妙な現在の中で突如煌めく過去の一場面だ。ある時2人は野外上映へと赴き、SF映画を観賞する。その鑑賞している時の彼女たちを、監督は真正面から長回しで描き出す。並んで映画を観る姿、時おり片方が片方に甘える姿、そこには蕩けるような愛の美しさが存在している。

だがその愛は現在において再び燃え上がるのだろうか。物語はそれを宙吊りにしていく。だが今作が息を呑む美しさを魅せるのは、この宙吊りが思わぬ飛躍をする瞬間だ。今作の題名は"Comets"、彗星を意味する言葉であるが、その通り宇宙的な規模へと発展するのだ。その壮大さには思わず言葉を失った。"Comets"は個人的で小さな愛の風景を、驚きの地平へと接続する作品だ。"私たちは再び巡りあう。私たちは再び愛しあう。この大いなる大地で……"

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