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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Jodie Mack&"The Grand Bizarre"/極彩色とともに旅をする

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さて、今はコロナウイルスによって前代未聞の隔離の時代がやってきている。満足に外に出ることもできず、それは映画館で映画を観ることすらままならないことを意味している。だがそんな時こそ配信で映画を観るにはうってつけの時とも言えるし、そんな時のために私は未公開映画を多数紹介してきた。そして今回はこの隔離の時代にこそ世界へと旅をすることのできる作品、気鋭の実験映画作家Jodie Mackによる初長編"The Grand Bizarre"を紹介していこう。

私たちはまずこの映画にいかに鮮烈な色彩が溢れているかに驚かされるだろう。色とりどりの布地が画面に現れては消えていき、私たちの瞳を楽しませていく。その光景はまるでおもちゃ箱をどしゃあんとひっくり返したかのような有様で、観ていると心がワクワクに満たされていく筈だ。それが"The Grand Bizarre"の鮮やかなる始まりである。

今作はストップモーションという手法を使うことによって、無数のカラフルな布が躍動する様を描きだした作品だ。布たちが命を得たかのように地面を歩くかと思えば、壁を動きまわり、空を漂っていく。赤い布、黒い布、青い布、黄色い布。その色彩は多岐に渡り、名前も知らない色彩さえもそこに存在し、その美しさを煌めかせているのだ。

監督であるMackは5年の歳月をかけ、15もの国を旅することでこの作品を完成させたのだという。それほどの時間と熱意を賭けて作り出された本作は正に意欲作というに相応しい作品であり、長年実験的な短編作品を作り続けてきた彼女にとっては集大成というべき作品ともなっているだろう。

15ヵ国を旅してきたというだけあって、この作品には様々な世界の風景が焼きついている。バスの窓から見えてくる青い空、船の甲板から見えてくる無限の広がりを持った海、建物の屋上から見えてくる喧騒と活力に満ちた雑踏。そしてそこに極彩色の布たちがまるで渡り鳥のように重なっていく。私たちはその渡り鳥たちとともに、世界を旅するのである。

Mackの紡ぐアニメーションは例えばヤン・シュヴァンクマイエルブルース・ビックフォードなどの奇妙で超現実的なアニメーションを彷彿とさせるものだ。それらは頗る奇妙なビジョンを作り上げることで、そこから生の眩いほどの美しさというものを掬いあげていくが、Mackも正にそんなアニメーションを紡いでいく。それが余りにも奇妙なまでに鮮やかすぎて、狂気にも似た熱意が感じられるのだ。

そして私たちはこの映画を観ているうち、この世界にはいかに多くの色彩と質感が存在しているかに思いを馳せることになるだろう。私たちが気づいていないだけで、それらはこの世界を輝かしく躍動しているのである。それをMackのアニメーションは教えてくれるのである。"The Grand Bizarre"という作品を観るのは、極彩色とともに世界を旅するようなものだ。この素晴らしい作品の後には、隔離の時代が終わった暁に、この広大な世界を再び旅しようと思えるだろう。

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