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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Eduardo Morotó&"A Morte Habita à Noite"/ブコウスキーの魂、ブラジルへ

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さて、チャールズ・ブコウスキーといえばアメリカで最も有名な無頼小説家だ。彼の破天荒な作品群や人生は幾度となく映画化されてきた。例えばバーベット・シュローダー「バーフライ」マルコ・フェレーリ「ありきたりの狂気の物語」などである。だが2020年、果敢にもブコウスキー作品の映画化に挑戦する人物が現れた。彼こそがEduardo Morotóであり、作り出されたブラジル映画"A Morte Habita à Noite"は、今までのブコウスキー映画とは一線を画する作品となっている。

今作の主人公はラウル(Roney Silveira Arruda)という中年男性、彼はブラジルのスラム街ファヴェーラでその日暮らしを続けるなくでなし野郎だ。リジア(Mariana Nunes)という若い女性と同棲はしているが、その生活はどこへ行きつくこともない自堕落なものだ。彼らはそんな生活を毎日続け、時は無意味に費やされていく。

まず私たちは、描かれる世界の汚さに驚くだろう。例えばラウルが住んでいる饐えた匂いが漂う狭苦しい部屋、リジアが働く薄汚れた陰に満ちた店、彼らが練り歩く猥雑な通り。それらには驚くべき生の汚さがこびりついている。私たちはその一周回って活気すら感じられる汚さに圧倒されるだろう。

そしてこの最低の環境において、ラウルたちは淀んだ倦怠感に漂い続ける。自己破壊的な生活を続ける彼らは負け犬と言えるかもしれない。キツい匂いのした部屋の片隅で互いの傷を舐めあう様は、正にそんな風だ。それでも監督はそこにこそ生の力を見出していく。ラウルたちは高貴なる犬なのだ。

しかし彼の住むマンションで自殺騒ぎが起き、2人がその死体を見てしまった時から全てが変わってしまう。リジアはラウルの元を離れる決意をし、更にマンションも差し押さえられ、彼は一人孤独にホテル生活を余儀なくされる。しかし彼はバーで少女(Rita Carelli)と出会い、彼女と同棲することになる。

ここから想起されるのはブコウスキー作品の女性嫌悪性である。彼の作品は女性の描写が浅はかだとして悪名高い。彼女たちの存在は常に客体化され、更には無意味な暴力にも晒されることになる。私自身はブコウスキー作品は大好きであるが、この側面においては非難を免れないと思う。

しかし今作はそんな罠を上手く切り抜けていく。監督は現れる女性たちを丁寧に描き分けながら、そんな彼女たちとラウルが関係性を築いていく様を余裕を以て描き出していくのだ。中年男と少女の関係性というのは危うさを感じさせるが、この余裕というべきものが互いの人生の奥深さを浮かび上がらせ、関係性に正当性を与えるのだ。今作の女性たちにはキチンと魂が宿っているのである。

そして今作には死の匂いというものが濃厚である。登場人物たちは今にも死んでしまいそうな脆さを秘めており、私たちはその繊細さに心を痛めることもある。さらに突然その瞬間が訪れる時がある。それは呆気なくも重苦しい。ブコウスキーの短くも切れ味ある文の数々が醸し出してきたような雰囲気を、今作は再現しているのである。

今作のMVPはラウルを演じたRoney Silveiraに他ならないだろう。ブコウスキー自身のように自堕落で無頼的な生活を繰り広げながらも、その根底には負け犬たちなど周縁にいる弱者への優しさが存在しているのだ。そして彼は何度も傷つき倒れながら、しぶとく立ち上がりその人生を続けようと足掻く。この姿こそが私たちを感動させるのだ。

"A Morte Habita à Noite"は救いを求める男の生きざまを鮮烈に描き出した作品だ。今作は正しくブコウスキーの魂を受け継いだ、ブコウスキー作品の映画化として最良のものと言えるだろう。

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