鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Z級映画派宣言

私はZ級映画を愛している、愛さざるを得ない。

支離滅裂な脚本を
例えば「赤い斧」の分裂症に冒されたかの如き脚本を、私は愛する。
大根の名を冠するのも躊躇われる演者を
例えば「猟奇!惨殺魔/ザ・ミューティレイター」のシロウト大学生軍団を、私は愛する。
やる気の欠片も無い音楽を
例えば「陰獣の森 ふりむくな!忍び寄る殺人鬼の影」のフヤけたティッシュの如きシンセサイザー音を、私は愛する。
観客の事を何も考えていない編集を
例えば「プラン9・フロム・アウター・スペース」での疾風怒濤たるベラ・ルゴシの使い回しを、私は愛する。
Z級映画を量産する監督たちを
例えば有り余る映画愛が映画の出来に致命的に結びつかないエド・ウッドを、大蔵貢を、コーマンの三賢人を、私は愛する。
そしてそれら全てが結実した果てに生まれ落ちたZ級映画という存在を、私は愛している、愛さざるを得ない。

皆は私に聞くのだ。
「貴方は何故そんなクソみたいな映画ばかり見ているの?」と
「“市民ケーン”“トゥモローワールド”“勝手にしやがれ”“黒水仙”“シンドラーのリスト”“自転車泥棒
 “雨月物語”“イレイザーヘッド”“花様年華”“アギーレ、神の怒り”“暗黒街の弾痕”を見た方がいいよ」と。
素晴らしい、確かに素晴らしい。これらはこの世の宝物だ。
これらを鑑賞する事は確実に精神の肥沃なるソイルとなり、私たちの世界を豊かにしてくれるだろう。
なら、私も私に問いかけよう。
「何故私は、彼らが言う“クソみたいな映画”ばかり見ているのだろうか?」
それは一重に、私がZ級映画を愛しているから!

私は世界に無数のZなる物に与する事を主張する。
そしてそのZなるものの美しさを主張する。
拙い幼子の狂想の如く怠慢を以て行使される長回し
「ブラッド・カルト/悪魔の殺人集団」に映し出される指入りサラダバイキングは
アンゲロプロスの「永遠と一日」よりも、美しい。

Z級映画とは後悔だ。
私は「ドライブイン殺人事件」を見たときの、心に芽吹いた退屈の芽を忘れはしないだろう。
Z級映画とは驚愕だ。
私は「サマーキャンプ・インフェルノ」を見たときの、心臓を握り潰されたかの如き衝撃を忘れる事など有りえるだろうか。
Z級映画とは戦慄だ。
私は「俺だって侵略者だぜ!!」を見たときの“こんな映画存在して良いのか?”というIconoclasmの戦慄を絶対に忘れるはずはない。

思えば、Z級映画とは現代芸術に似ている。
「これのどこがアートなの?」「これのどこが映画なの?」
彼らは、私たちの固定概念を破壊せんとして、赫々と瞳をギラつかせる魔物だ。
魔物に肉を貪られることを快楽として享受する者、それ以前に彼らと対峙することを忌避する者も多い。
だが現代芸術を楽しみたいならば、Z級映画を楽しみたいならば、それには武器が必要だ。
“知”という研ぎ澄まされた武器が。
私はこのブログにおいて、読者に“知”の干戈を、Z級映画の教養を教授したいと思う。

Z級映画という魔物を知り、その丁々発止の対峙の一瞬にでも知の戦慄きを感じたならば、
おめでとう、貴方も鉄腸野郎Zチームの仲間入りだ。
そう、長き90分の一瞬に快楽を見出すために、私たちはZ級映画を見るのだ。
共にそう思ってくれる、Z級映画を愛する、私のような者が増えることを願いながら、この宣言を終えることとする。

だが一つだけ、努々忘れないで欲しい。

Lasciate ogne speranza, Voi chi vedrete Un Z-Film——Z級映画を見る者、一切の希望を捨てよ