鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

斯くも美しきはZ級邦題「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」その1

「唐突にも、そして時節を悉く欠くようで恐縮だが、『クリスマス』と聞いて連想する映画は何だろうか?」

「……ワタシにとって思い出深いのはやはり『ホームアローン』でしょうか」

「『悪魔のサンタクロース』!ふむ、残虐サンタは作れるっ!を世に示し得た記念碑的な作品だな。
 去年公開されたリメイク版『Silent Night』にも期待せざるを得ないだろう。他にはあるだろうか?」

「…………他はディケンズ原作の『クリスマス……」

「『宇宙大戦争!サンタVS火星人』アレは素晴らしい!米国が現出せしめた最高のクリスマス映画だ!
 あれを見れば、レヴィ=ストロースもひれ伏すに違いない!」

「いやいやいやいや、『素晴らしき哉「『サンタが殺しにやって来る!』そうだ、世の中にはサンタを以てZ級を成さんとする 無数の作品が存在する!その素晴らしきZ級映画群でも、この記念すべき第一回に紹介するZ級映画とは

 ――――『犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼』!!

「私の初めてのZ級映画がそれとは……何とも度し難い…………そして何て反吐が出る邦題……煽情的な単語をツギハギすれ ば良いって物じゃないでしょうに……」

「そこが良いんじゃあないか……!と、まずはZ級映画に欠かせぬ要素『邦題』について、語らねばなるまい」

「まず、そこからですか……」

Z級邦題は大別して3つに分けられる。
 まず一つ。既存の有名作品と間違えて借りるよう仕向ける、パチモン邦題が挙げられる。
 もっとも有名なのは『トランスモーファー』『アルマゲドン2007』辺りだろうか。
 他にも『ランボー者』『コマンドー者』 という志村語尾語尾ィ!といった邦題や、
 そして『危険な事情』『チャタレイ婦人の恋人を読む婦人』など一見すると何が間違っているのか分からない邦題もある。
 斯く言う私も、ポランスキーの『おとなのけんか』と『かぞくのけんか』を間違えてレンタル代を無駄にした……」

「『トランスフォーマー』と『トランスモーファー』間違える方々を嗤えませんね」

「二つ目は『〜の〜』というフォーマットの邦題が挙げられる」

「『悪魔のいけにえ』とかそのような邦題でしょうか?」

「Exactly! Z級映画においては『悪魔のはらわた』を筆頭に『死霊のかぼちゃ』『悪霊のえじき』『地獄のいけにえ』と、
 基本的に[漢字2文字]+[ひらがな3〜4文字]という形式の物が多い。という印象はあるが『セックスのえじき』に
 『ファラオのはらわた』『炎のいけにえ』『美女のうごめき』『地獄のサブウェイ』と基本的に何でもアリは否めない」

「どれもこれもクソ紛らわしいですね……」

「そして三つ。ともかく名前長ぇよ!洒落臭ェ!……という邦題だ。例を挙げれば
 『首狩り農場 地獄の大豊作』
 『マドリード美女連続殺人/独身姉妹の歪んだ欲望』
 『ウォーターパワー/アブノーマル・スペシャル』
 『マイドク/いかにしてマイケルはドクターハウエルと改造人間軍団に頭蓋骨病院で戦いを挑んだか』etc……
 そして今回紹介する『犯された〜』もこのグループに属すると言えるだろう」

「その邦題付けた方々は、揃いも揃ってバカばかりなのですか?」

「そう、バカなんだ………………いやいや、一概にそうとは言えない。
 中には、遠い昔、TVで放送する番組がまだ少なかった頃、新聞TV欄は深夜枠の空白を埋めるため、必死こいて単語がブッ込まれた末にこんなにも長い邦題になってしまった――そんな背景を持つ物もある。想像して欲しい……丑三つ時、新人記者がデスクに向かって、ウンウンと唸りながら、深夜まで起きているエロい大人の股間をグッと掴むワードの数々を繋ぎ合わせようと苦しむ姿を……」

「正直毛髪のズルムケた中年男性が、酔った勢いそのままに10〜20秒で書き上げたくらいにしか思えません」

「『先天性欲情魔』『虐殺SEX現場/スナッフ・ポルノ』『超能力セックスウォーズ/エンジェルH.E.A.T』ならまだしも…」

「うわッ、下衆の極み!煩悩の権化!そんな猥褻邦題考えてる奴ら全員地獄に堕ちろ!」

「ともかくだ、ともかく……
 昔はZ級映画にとって、邦題とは命脈だった。
 何せネットが存在しない。情報は「The Horror Movies」の多いとは言えない解説や、レンタルビデオパッケージのちっぽけなスチール写真一、二枚。そんな飢餓なる状況下において邦題はそれ自体が独立して、それ一つで十全に役割を果たし、
“俺と言うZ級映画は存在する!存在しているんだ!”と高らかに声を揚げる。例えそれが他者から贈与された物にしろ、商業的打算が多分に含まれる邦題だったとしても、その邦題たちは鉄腸野郎Zチームと繋がる為の一本の細き線だった……
 そうZ級邦題とは、詩だ。何よりも痛烈で、届くとも知れぬまま響き続ける一篇の詩。
『女切り裂きチェーンソー狂団』『生体ジャンク!狂殺の館』『若妻恐怖の体験学習』『ドラゴンVS7人の吸血鬼』
『ニンジャリアン』『ゾンゲリア』『ゲロゾイド』『帰ってきたあぶない看護婦』『巨乳ランドリー/もみ洗い』
巨乳ランドリー/もみ洗い』!
巨乳ランドリー/もみ洗い』!!
巨乳ランドリー/もみ洗い』!!!
巨乳ランドリー/もみ洗い』!!!!
 それら一つ一つに<マスカーニのアヴェマリア>のような……
 哀切の最中に一筋の希望を願うような……
 救済の祈りを感じてしまうのは私だけだろうか?」

「センチメンタルにも程があります!
 そんな酷い邦題よりも『明日に向かって撃て!』や『晴れた日に永遠が見える』の方が素晴らしいに決まってます!」

「ナンセンスだ!一方を称揚するために、もう一方を貶めることはいけない。
 今も昔もついそのような表現を使ってしまう者も多い。
 しかし、AよりBの方が素晴らしい、ではなくAもBも素晴らしいとは思えないだろうか。
 それら名邦題も美しい、そして『巨乳ランドリー/もみ洗い』というZ級邦題も美しい、それで良いじゃあないか」

「……巨乳が私の謝意と貴方への敬意を邪魔します」

「故に『犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼』というZ級邦題もまた素晴らしい……
 犯された・お嬢さま・女子寮……その下衆さ加減が、嗚呼、なんて美しい……
 これぞ正に声に出して言いたくなるZ級邦題だ、さあ、君も一緒に!」

「言ってたまる物ですか、この蛆虫野郎!」

「…………ということで、Z級邦題について語り過ぎて、残念ながら紙幅が尽きてしまった様だ」

「度し難いですね……」

「最後に言いたいのは、邦題に『犯されたお嬢さま』とあるが、別にお嬢さまは犯されない」

「それ狙って観るだろう変態方もいらっしゃるだろうに、それって酷過ぎる……」

「ウソも誇張もZ級の華さ!君のファーストZ級エクスペリエンスは、次の機会!
 それでは、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ………」