鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

DVDスルーにこそZ級映画の原石「ネイバー 美しき変態隣人」その1

「皆さんは、先日反響を読んだこれらの呟きを覚えておられるだろうか?」

たまに「何で◎◎は配給しないの?」という質問が来ますが、世界で製作されている映画は本当に膨大で、そのすべてが日本に来ているわけではないことをまずご理解ください。そして映画を日本で公開する/しないは単に配給会社だけが決定するようなものでもないことをご理解いただければと思います

こちらとしては細かく説明できないケースもあり苦しいのですが「◎◎公開しねぇのかよ、パラマウントの野郎」と言われましても、何とも言えません。配給する会社があり、劇場があり、お客様がいて成り立つものですので、お気持ちは察しますし僕もそう思うケースもありますが、どうか冷静にお願いします

「これは……パラマウントの公式アカウントの方の呟きでしたっけ……?」

「そうだ。『〇〇は日本では公開しないのでしょうか?』という問いに際して、返答を越えて中の方の本音も込められた呟きだ。そしてその呟きはこう続く」

それから僕が言いたいのは、そんなこと言う前にちゃんと日本未公開DVDとか観てます?ってことです。こういうのをしっかり観るファンが一定数育つことが日本の外国映画の状況をさらに良くします。でないと来るものも来ません。個人的にくやしいのです ――以上、パラマウント100周年公式アカウント @Para100Japan 様からの引用

「この呟きを見た時、私はハッとなった。そう私はジャック・オーディアールやスザンネ・ビアの新作を早く公開!早く公開!とただ叫ぶ一方、日本未公開DVDも見ずにビデオでしか発売していないZ級映画を見続けていた。『バチェロレッテ ―あの子が結婚するなんて!』が公開決定にイエス!!イェェスッ!!!と喜ぶばかりで、未公開DVDなど気にも留めようとはしなかった……」

「『バチェロレッテ』って、教授が一番見なさそうな奴じゃあないですか……」

「去年のサンダンス映画祭で見かけた時から、ずっと見たかったんだ………そして私はキルスティン・ダンストの顔面をジャガイモの集合体と形容する輩に対し、義憤を抱かざるを得ない根っからのキキちゃんファンだ!好きな映画は『ガールズ・ルール! 100%おんなのこ主義』と『マリーアントワネット』だ」

「あんな『犯されたお嬢さま』言ってたのに、嗜好がキャッキャウフッフ乙女モード……」

キルスティン・ダンスト ブス、とグーグルで真先に出てくる日本の時代風潮FUCK…………!!!


これを見ても、キミは何らかのポテトに彼女を例えられるのか?

 と、話が逸れてしまったな。ともかくだ、彼の意見に賛同すると共に、DVDを見ることは勿論として他に、私のような若輩者が彼に対してどのように助力を成すことが出来るのか?それを考えた。
 だがそんなにも沈思黙考する必要もなかったのだ。
 私に出来ることは一つ。鉄腸野郎Zチームとして私が出来ることは、日本未公開DVDとして発売されるZ級映画を拾い上げて、皆様方に勧めることだ!ということで、今回は最近DVDスルーの憂き目にあった、日本において最新のZ級映画を紹介したいと思う!その一作こそ――

ネイバー 美しき変態隣人』だ!」

「志は立派ですのに、取り上げる映画がまた度し難いですね」

「早速あらすじの紹介だ」

静かな街で起こる連続失踪事件の恐怖を描いたホラー。ある街に連続殺人犯が逃げ込んでいるとの報道がされる。その街では、ひとりの平凡な女が隣人を誘拐し、激しい拷問の末に殺害を繰り返していた。ドンはこの女に自宅で監禁されていたが…。
――TSUTAYA DISCASより引用

「と、いう事でこの『ネイバー 美しき変態隣人』どうだった?」

「えーっと……あの、コレ200……何年の映画でしたっけ?」

「2009年だな」

「ん………あー、何と言うかZ級映画というのは、時代を経ても変わる事は無いというか……」

「それどころか、なまじ技術の発達によって誰でも映画が容易に撮れるようになった結果、ゼロ年代に入ってより後の方がZ級映画のQuality・Quantityとも加速度的に水準が高まっているだろう……私が言及していないだけで」

「でも、ちょっと、コレ何がしたいのか全く分かりませんでした……主人公の美しき(笑)変態隣人の強烈なキャラ設定とゴア描写の過激さで、何とか映画としての体裁は取り繕えてはいましたけれども……………あーーーーーーーーーーーーー!
 いや、色々言葉を選ぼうと思いましたけど止めました!!!これマジで酷いです!!!ブッチョブッチョの拷問ホラーなの!?なのに90分ダルダルダラダラダロダロ間延びしていて、こんな映画のレゾンデートルが私には!!!私には解りかねます、いや!!解る努力という力が存在するとしたならば、それの塵芥ほどの一片をも施したくはない!
 嗚呼、嗚呼、これが現代のZ級映画なんですね!!!全く解りません!!!」

「おやおや、その荒ぶり様、いたく気に入ってくれたようだな」

「貴方の皮肉の余裕ぶっこき加減にさえ虫唾が走る程、イライラしているのですけど」

「だが!“こんな映画の存在理由が分かりかねる”との言葉、Z級映画にとってはこれ以上ない賛辞だと言える!」

「惨事の間違いでしょうに……!」

「この映画を絶賛を惜しまない私は、その賛辞を骨に刻み付け、そして語っていくこととしよう」


変態とは、彼女に冠されるためにある言葉です。彼女は変態です。

「まず君の言った主人公のキャラ設定、そして過激なグロティシズム描写について詳しく聞こう。この二つについては、酷評の君も評価せざるを得ないという認識に違いはないか?」

「評価するだとか誉めるだとか、そんな甘っちょろい言葉を使う気はサラサラありませんが………良かったことはまあ良かったと認めます……
 まず、冒頭は確かに素晴らしかったです。主人公――確か役名“The Girl”でしたっけ、違和感バリバリですが――が陽気に歌を口ずさむ爽やかな朝。朝食を用意して、まだ微睡みに耽る誰か、多分夫と子供を起こしに行く様。そして彼女は朗らかに階段を踊るように上って、そして寝室のドアを開け放つと其処には――
 という流れから、血みどろの拷問風景にもつれ込む、などという緩急の付け方には『うわ……っ……』と怖気が走る程でした」

「変態隣人の二面性が、日常と非日常の対比によって表現される冒頭は確かに素晴らしい。そこからの拷問されたオッサンの胸にノズルをブッ刺して、蛇口を捻って、血液を搾取し、それをワイングラスに取って血を飲み干す、という一連の拷問描写のテンポ良さも良い!」


大樽から芳醇な赤ワインを捻り出す要領で。

「撮影の方法論として、日常に寄り添う冒頭はまさかのワンカット長回し、血の非日常は反してカットの多用。
 その対比関係も、良かったんですよ………ね……グロ描写にもゲゲェ……ってなりましたよネ……よネ……変態隣人………変態隣人ね………


そうです、私は変態隣人です

「その拷問好き好き大好き超愛してるキャラっぷりも魅力的でした……
 拷問した後に気軽にジョギングしたり、かと思えばその途中に纏わりついてきたイヌにブチ切れて、飼い主を拉致って電撃で嬲り殺しにしたり、主人公への人体破壊は壮絶なもので、足の親指ドリドリ、傷口にミミズ突っ込んだり、『時計仕掛けのオレンジ』のルドヴィコ療法をマジでやる、そのアグレッシヴさにメロメロになりました……
 前の『犯されたお嬢さま』や『エンゼルターゲット』から、思えばグロテスクの技術も遠くまで来たものだと、郷愁に晒されるほどには凄いと思いました……」

「そんなに褒める言葉が浮かぶというのに、君は何故このを映画を酷いと思うのか……?」

「ひとえに………ひとえに、脚本と!!編集が!!!余りに酷過ぎやしないでしょうか!!!!」

「ふうむ……」

「あの主人公を含めた三バカトリオに幾ら時間を割くの?それをさっぱりずっぱりすれば、もっとテンポが良くなった筈だのに!取り敢えずお前らバーに頻繁に酒を呑みに行くんじゃあない!主人公とヒロインの図書館での微妙な心のラブゲームも要らない!」

「あれはレンタルビデオ店で撮影する予定だったが、そういう類の見せが近くに一軒もないことに気づいて、止む無く図書館でのロケにしたそうだ」

「ハーイ見切り発車ご苦労様ですウフフ………!
 そして、脚本と編集の合わせ技で、
 何が現実?
                                        何が夢?
   何が妄想?
                                何が過去?
 中盤から訳が分からなくなっていることに、意味が全く見出せないヘタクソな演出が最悪!!!
 ただ拷問を娯楽に還元することに集中すれば良かったのでは?良かったのでは!?
『わざと分かりにくくしていた方が、もう一回見てくれると思ったんだ(笑)』とは『チェイサー』『哀しき獣』のナ・ホンジン監督が仰っていましたが、この作品を作り出した監督はそういう意図も何もないままにぐちゃぐちゃになってしまった感がハンパないんですよぉぉっぉぉぉぉおぉぉ!!!…………はぁ…………はぁっ………」

「ふむ、確かに中盤からの展開のツイスト加減には、私も度胆を抜かれた。あの支離滅裂さには、人によって困惑しか生み出さないかもしれないな。君の嫌悪の大部分は、この捻じれすぎたメビウスの輪の如き展開に拠る訳だ」

「他にも………他にも、クリストファー・ノーランのアクション描写が凄まじき一大スペクタクルと見紛うほどに、ヘチョヘチョなアクション演出にも、ゴア描写に入れ込み過ぎて疲れちゃったの?ねぇ、ねぇ………答えろ!!!と『ゼロ・ダーク・サーティ』式拷問を施したくなりましたが、まあ嫌悪の大部分は……あの展開ですね………」

「だが、私はその脚本と編集の錯綜にこそ、この映画の価値を見出した。
 そういう意味では君とは逆に、むしろこの類稀なる錯綜の美を私は称揚せずにはいられない………」

「正気ですか!?」

「私はここで、鉄腸野郎Zチーム諸君ひいては映画ファンの方々に提言したいと思う。
 私は『ネイバー 美しき変態隣人』は、現代に蘇ったH・G・ルイスの世界的傑作『血の魔術師』なのだと!
 そして『ネイバー 美しき変態隣人』に、再び来たるZ級映画の血の黎明を見た!
 さあ、次回までに、Z級映画新時代の嚆矢となるだろう『ネイバー 美しき変態隣人』を見ようじゃあないか!
 今ならTS〇TAYAにて新作料金で借りることができるぞ!」

「新作料金クソ高いんですよね………まあ、良ければ見て下さいということで、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ………」


ギュスターヴ氏、またの名を血の魔術師といいます。