鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

鮮血の美学より彼方へ「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」その3

ということで、第三回である。
今回正にZ級映画を教養として扱っていく所存だ。故にその1、2よりも味気なき文とならざるを得ない事をご承知戴きたい。特に覚えるべき映画・人物については黒で強調してあるので、是非とも皆様の脳の片隅にでもこの知識を住まわせてあげて欲しい。では早速「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」のスタッフを紹介していこう。


監督のデヴィッド・ヘスについては後述するとしてまずは、脚本のアレックス・レバーについてだ。
代表脚本担当作としては、エクソシストをパクった挙句35万ドルの製作費で1500万ドルを荒稼ぎしたパチモン映画の王
デアボリカ」、中年女性版「バイオレンス・レイク」とも言える「ブロンドの鬼/レイプが妻を鬼にした」
そしてエイミー・マディガンマイケル・アイアンサイドという絶妙な名優が共演する「怒りの裁き」などが挙げられる。

デアボリカ』から一コマ。ゲロは緑と相場で決まっている

だが中でも注目したいのは、彼が俳優として演じたあるZ級映画のことだ。その名も「溶解人間」断じて妖怪人間ではない!その恐ろしきドロドロトロトロモンスターである溶解人間を演じた者こそ、何を隠そうこのアレックス・レバーなのである。諸行無常のラストは何よりも必見だろう。「溶解人間」は素晴らしきZ級映画であり今後必ず特集したいと思っている故に、Stingrayから今年DVDが発売するので是非見て欲しい所だ。

溶解人間』より。後ろが脚本を書いたAlex Rebar氏

そして撮影担当のビル・ゴッドセイは「マリー・メンダム/セックスプロ」「マリー・メンダム/ハード・テクニシャン」とポルノ出身のカメラマンらしい。だがこの後「Cold River」という冒険物を撮影してからの消息は不明だ。

音楽はリチャード・テュフォ。「ブロンドの鬼/レイプが妻を鬼にした」に続きレバーとは二回目のタッグらしい。

編集は第二班監督も兼任のリチャード・J・ウィリアムス。
何とN.Y.鬼畜派は急先鋒ラリー・コーエンの「悪魔の受精卵」を編集したという経歴もある。

プロダクションデザイン&美術は何とジョン・ヴォイト主演の「暴走機関車」からエミリー・ブラントエイミー・アダムス共演「サンシャイン・クリーニング」そして未だ日本未公開の現状が度し難いケヴィン・スペイシー主演コメディ「Father of Invention」と、未だ意気軒昂たるジョン・M・ギャリティだ。

特殊メイク担当は「猟奇!惨殺魔/ザ・ミューティレーター」や「エイリアン・プレデター」のZ級作品から、「フロム・ビヨンド」「パラダイム」そして「死霊のはらわたⅡ」まで幅広く担当するマーク・ショストロム、これがデビュー作だ。
正直後の片隣は微塵も見当たらないが、あのリック・ベイカーさえ「吸盤怪人オクトマン」では冴えない特殊メイクだった。それを考えれば彼の経験不足からくるショボさも不思議ではない!

マーク・ショストロム氏が赤ちゃんにゲロをブチ撒けるの図。ゲロはもちろん緑だ。


キャストについても紹介して行こう。
ヒロインであるナンシー役のジェニファー・ラニヨンは、何とロジャー・コーマンの甥であるトッド・コーマンの配偶者!つまりは法律上、彼女はコーマン大帝の姪御という訳だ。「爆走ギャル!U.S.ロックン・ロード」やメナヘム・ゴーラン製作&マイケル・パレ主演「キリングストリート」でヒロイン役を演じたは良いのだが、コーマン家との縁で、コーマン大帝製作総指揮の恐竜だけヘボい恐竜映画「恐竜カルノザウルス」に出演したのを最後に出演作は無し。そのまま2007年には引退してしまった。

ゴーストバスターズ』にも女生徒役で出演。モブにしたままには惜しい美貌だ

アレックス役のフォレスト・スワンソン、メロディ役のリンダ・ジェンティル、T.J.役のウィリアム・ロイアー、ミセス・ジェンセン役のキャサリン・ヘリントン、ラルフ役のバック・ウェストなどは出演作品がこの一作だけ。
Z級映画にはこのような事が良くある。Z級映画界は予算の都合上スタッフの友人・親族を出演させるなどが多い故、彼らもそんな即席俳優の一人かもしれない。

だがそんな知名度皆無な俳優陣の中でも、その出演に驚かざるを得ないのがパイロット役のハリー・リームス!ダン・ストライカーという偽名で出演しているのだが、彼は古き良き日の洋ピンを知る者にはお馴染み――「巨乳ランドリー/もみ洗い」知っているような方々だ――米国ポルノ界随一のチンコを持った、洋ピン男優界の大スターだ!正直何故彼がポルノ映画でなく、このホラー映画に出演しているのか?何の縁があったのか私にも解りかねる。
彼の作品で最も有名な作品といえば何をおいてもまず「ディープスロート」だろう。喉の奥にクリトリスが存在するという主人公に、苛烈激烈なるディープスロートをされて昇天する巨根の医者を演じたのが彼だ。

ちなみにアマンダ・セイフリッドがその「ディープスロート」に主演したポルノ女優リンダ・ラブレースを演ずるという伝記映画「Loverace」においては、そのハリー・リームス役を「The O.C.」でオタクのコーエン役を演じた、そして私の敬愛するジャン=クロード・ヴァン・ダム主演コメディ「Welcome to the Jungle」にも出演するアダム・ブロディが演じるという。個人的にとても楽しみだ。


右がチンコがデカいことで有名なハリー・リームス。左が彼氏にしたいオトコの子No.1のアダム・ブロディ。
日本で言えば、清水大敬生田斗真が演じるようなものである。違うかもしれない。
個人的にはトム・ハーディが適任だったのではないかと思われる。ああ、でもハーディのはユムシ(ry


そして私が「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」において、一番語りたかった人物こそ、この映画の監督を務めるデヴィッド・ヘスである。鉄腸野郎Zチームひいてはホラーフリークの方々にとっては、ある映画における狂演に心を奪われた方も少なくないに違いない。その映画とは「エルム街の悪夢ウェス・クレイブン×「13日の金曜日」ショーン・S・カニンガムという悪魔合体を以て、この世に生れ落ちてしまった稀代の傑作――「鮮血の美学」である。


鮮血の美学」より。天然パーマにも悪い奴はいます


これはイングマール・ベルイマンの「処女の泉」をベースとして作られた映画であるが、少女たちが嬲られるその不快さに胸が無数の蛆に貪られる錯覚に陥るほどのストーリー展開、デヴィッド・ヘス演じるクルッグをリーダーとした脱獄囚たちの残虐非道さ、それに対し激烈なる決意を以て行われる復讐の凄絶さの何たるか!「処女の泉」のエピゴーネンという域を脱して、独立した古典名作としてレイプ・リベンジというジャンルを打ち立てた。そのジャンルには「発情アニマル」「天使の復讐」「ウィークエンド」という名だたる作品が並ぶ。そして近年では「REPEAT リピート」がDVDスルーになってしまったスティーブン・S・モンロー監督がリメイクを製作&ジェイソン・アイズナー監督作「ホーボー・ウィズ・ショットガン」において悍ましき血文字の刻印としてオマージュが捧げられたのも記憶に新しい。


実は「悪魔のいけにえ」に先駆けて、「鮮血の美学」ではチェーンソーが使われる。
このチェーンソーでブチ殺されるのは何を隠そうデヴィッド・ヘスなのである。

そこまで「鮮血の美学」が名作と成り得た背景には、デヴィッド・ヘスという名優の貢献が多分にあると言わざるを得ない。何の罪もない少女二人をリンチにかけ最後には嬲り殺しにする、正に外道の極みたる所業には、胸が煮えくりかえる他ないだろう。彼の作曲した音楽もその凄絶さに一役買っている。彼の狂気が無ければ、凡俗とは言わねども、まあまあ面白いホラー作品として、Z級映画の塵埃に埋もれたままだったかもしれない。

だが大いなる狂気には大いなる責任が伴う。映画デビュー作で余りにも図抜けた狂人を演じてしまったが故に、それ以後オファーされる役が狂人ばかりになってしまった。それは「サイコ」におけるアンソニー・パーキンス、「ハロウィン」におけるドナルド・プレザンスとホラー寄りの俳優には特に顕著にみられる問題だ。勿論開き直って狂人役を引き受けまくった「猟奇!喰人鬼の島」のジョージ・イーストマンや、ホラーに限らずともとにかく暴力を全面に押し出すキャラばかりあてがわれる所か嬉々としてその役を演じるレイ・リオッタというジャンル名優もいるが、それは例外中の例外という物だ。


「猟奇!喰人鬼の島」より。喰人鬼イーストマン渾身の内臓踊り食いは必見である。

デヴィッド・ヘスは「鮮血の美学」より後、
ヒッチハイク」ではコリンヌ“O嬢”フレリーを犯す変態強盗犯を演じ、
真夜中の狂気」では、パーティに入り込み暴力・強姦・殺人と最早何でもありの狂人と、
印象に残る演技は斯くの如きものばかりだ。その中でも「スイス・コネクション」「アバランチ・エクスプレス」などにも出演しているらしいのだが……いわゆる“お察しください”という物ばかりだ。

さて本人もその状況をマズいと感じていたかは分からないが、映画界でのキャリアのテコ入れとして何をしたかと言えば、それこそが1980年「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」監督就任という訳である。
1980年は正にスラッシャー映画全盛期であった。「13日の金曜日」「序曲・13日の金曜日」「プロムナイト」「マニアック」「猟奇!喰人鬼の島」と後世にその名声を轟かす傑作が続出した年である。当時はこのような映画でも、いやこのような映画だからこそ観客に受けたホラー映画全盛期。そのような背景において、ヘスの監督願望とプロダクションの思惑が見事に合致したことで、前述の名作を含めた26作のスラッシャー映画たち、その先陣を切って「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」が生まれたのであった。

結果は「デヴィッド・ヘスはカメラの後ろじゃあなく、前に立つべきだったな!HAHAHAHA!」とレビューサイトに書かれる始末、世間的には散々な評判であった模様だ。確かにヘスの俳優としての狂演は悍ましいほど魅力的だが、逆に俳優を演出する力は無かったと断言せざるを得ない。「鮮血の美学」の折、クレイヴンとカニンガムから得る物は何もなかったのか?とネチネチ詰問したい所ではあるが今となってはその術も無い…………演出力の無さを自分でも恥じたか、監督作品はこの作品と後はドキュメンタリーのみである。

その後、映画監督はないが映画出演は時折果たしていたようである。
イタリアパチモン映画の重鎮ルッジェロ・デオダートの「ブラディ・キャンプ/皆殺しの森」、ウェス・クレイブンとの再タッグ作品「怪人スワンプ・シング/影のヒーロー」そして特攻野郎Aチームにも出演していたらしい。
ゼロ年代にも、ドイツきってのZ級職人ウリ・ロンメル監督作「ゾディアック・キラー」、そして「バイオ・クリーチャー ライジング」では、特殊メイクの生々しき凄絶さにおいては右に出る者のいないトム・サヴィーニ、そして「007/私を愛したスパイ」「スタークラッシュ」で思春期男子の股間を鷲掴みにしたキャロライン・マンロー、そしてファイナル・デスティネーションシリーズ皆勤賞のトニー・トッドと共演している。


キャロライン・マンロー。日本よ、これが70年代エロだ

そして何より忘れてならないのは、ヘスが主演を務めた日本未公開作「Smash Cut」(2009)だ。そこでは何とヘスはホラー映画監督を熱演している。自分の映画に迫真性を持たせるために、実際に人殺しをして死体をこさえようと躍起になるのである。共演者にも注目すれば「カサンドラⅠ・Ⅱ」「デビルズ・リジェクト」今後はロブ・ゾンビの「Lords of Salem」も控えるマイケル・ベリーマン、「悪魔のかつら屋」や「血の魔術師」では魔術師ギュスターヴ役を演じたレイ・セイガー、果てはH・G・ルイス自身がカメオ出演というホラーフリークには垂涎のキャスト陣だ。ヒロインにはスティーブン・ソダーバーグの「ガールフレンド・エクスペリエンス」で主役を務めたポルノ女優サーシャ・グレイなのだから、また驚きである。

ヘス自身にとって、この作品は過去の「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」において味わった苦渋をもしかすると昇華できたのやもしれない。上の予告を見て欲しい。予告の彼はあんなにも楽しそうではないか!私にはそれが嬉しくて堪らない。

デヴィッド・ヘス&サーシャ・グレイ。看護婦コスプレがキュート!


だが更なる活躍を期待したその矢先、2011年9月10日心臓発作で彼はこの世を去った。享年75歳。
彼の狂気は後世に語り継ぐべき偉業だと、私は信じて憚らない。そう、私たちには語り継がなくてはならない義務があるのだ。もし彼が「犯されたお嬢さま/女子寮を襲う聖夜の殺人鬼」を黒歴史と思っていたとしても……


David・A・Hess R.I.P.