鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ハイパーオリンピックと同年公開「エンゼル・ターゲット」その1

「君はオリンピックが東京で開催されることを良しとするか?」

「また突然ですね……」

「今度はキチンと時事ネタを仕込んできた私の歩み寄りに感謝すべきじゃあないか!」

「犯された云々の時節のズレは酷過ぎたと思いますけれどね……
 うーん、忌憚なく言わせて頂ければ、私スポーツには微塵も興味ありませんので、オリンピックが東京で開催されようとされまいとどうでも良いですね。勿論リーフェンシュタールの「民族の祭典」もしくは市川昆の「東京オリンピック」的な映画が公開されるとすれば、確信を以て見に行くとは言えますけれども」

「ふむ……私は良しとしない一択だ」

「へぇ……理由をお聞かせ願っても宜しいでしょうか?」

「東京からZ級映画が消えてしまう」

「は……………?」

「オリンピックを鑑賞しに来た外国の方々の中に、もし鉄腸野郎Zチーム海外支部の人々がいたとしたら……!
 慧眼をその瞳に備えた海外組が、東京の至る所のみならず埼玉は越谷辺りまで穴場ビデオスポットを探りに探った結果、私さえもまだ見ぬZ級映画を見つけ奪ってしまうかもしれない……探せど探せど未だ巡り合えぬ『肉欲のオーディション 切り裂かれたヒロインたち』『ハロウィン1988/地獄のロック&ローラー』『2069:惑星遊女』……すべて奪い去られてしまうやもしれない、そんな事態に日本が陥ることを私は耐えられそうにない……」

「はぁ、被害妄想どうもお疲れさまです、教授」

「この前も『マーターズ』『トールマン』を監督したパスカル・ロジェが舞台挨拶に来日した際、ヘナチョコ映画の雄グレイドン・クラークの名作『ニンジャリアン』のVHSをカッ攫い、国外へと流出させてしまった。江戸末期の浮世絵国外流出の悲劇が再び巻き起ころうとしている!!!」

Z級映画のVHSが、現代にマネやゴッホを生み出すとは思えませんけれどね」

「オリンピック東京招致はんたァァァーーーーーーーーーーいッ!
 私たちからZ級映画を奪うなぁぁあああああぁあぁぁぁあっぁあぁあx!!
 私たちから『ヘルクラッシュ・地獄の霊柩車』をォォォォオォォォッォォ!!!
 私たちから『金髪ドラゴン/ブロンド・フィンガー 悩殺篇』を奪うなァアアアアアアアァァアアァァx!!!」

「そんな理由ではPhotoShop都知事も迷惑でしょうし止めて下さい!度し難い!」

「という遺恨をドロリと引き摺りながらも、今回紹介する映画はこれだ

――――『エンゼル・ターゲット』!!!(デデェーーーーーーーーーン)

「妙な効果音を付けるのはやめて下さい、殊更にヘボく見えますから」

「…………気を取り直してあらすじを」

調子ぶっこいたオリンピック候補生が一杯殺されます。以上

「と読者方があらすじを読んでいる間に、私たちは本編を観終わるというパラドックスを経て後、この『エンゼル・ターゲット』君にはどう感じられた?」

「これ……前の犯されたお嬢さま云々に比べれば、格段と良い作品なんじゃあないでしょうか……?」

「そうだろうそうだろう!確かに素晴らしい!それどころか、私的には時代背景を脚本に反映したり、バカ学生の殺害方法のこだわりなど80年代のスラッシャー映画でも頭一つ秀でた魅力を持ち合わせた作品だと思っている!」

「ええ、確かにストーリー展開は考えられていましたね。
 1983年当時の冷戦構造を軸に、アメリカVSソ連の対立をオリンピックという疑似戦争に仮託し学生たちをその駒として扱っている、そんな背景が伺える脚本には驚きました……言ってはなんですけれど、このような俗悪映画に似つかわしくない程に練られていましたね」

「描かれるアメリカ内部においても、オリンピック候補生たちに薬物を使うべきか否か?という対立構造が形成されている、そんな二重の対立がまた興味深かったな」

「あの看護婦と医者の……ですか。あのころはまだドーピングについての認識が緩かったのでしょうか?と隔世の感を抱いてしまいました」

アメリカにおいてベン・ジョンソンのドーピング問題が持ち上がったのが1988年、この『エンゼル・ターゲット』の製作年は1983年という所からも、まだ甘かったのではないかと私は思う。それ以前にもミュンヘンオリンピック時に競泳400m自由形でリック・デモントがエフェドリンを摂取した事で金メダルを剥奪という事件が1972年に起こった。が、しかし喘息の治療薬として使われていたエフェドリンに対する、利用者とIOCの認識齟齬という事態に立脚した事件ゆえに、この件とは少しベクトルが違う事件だと思われるな。
 ちなみに、あの薬物推進派であるジョルディン医師を演じたのは、監督のマイケル・クレイトン師だ」

「えっ……ヒッチコックやシャマラン的なカメオとしてでなく、ガッツリ出ちゃってましたけど…………
 まあ、そんな対立の渦中にいる若者たちがトコトン馬鹿丸出しというのも、背景とのギャップで良かったのではないかって思います」

脳筋というステレオタイプめいた偏見に依拠したアホっぽさは、普段ジョックスにイジめられているナードの悪意がミッチミチだったな。国体出場記念祝賀パーチーで、ふざけていたと思ったら唐突に綱引きに発展するのは前半の迷シーンと言わざるを得ない」

「そういう類の脳筋が一気呵成に嬲り殺しにされるのを見て、ナードが日々の溜飲を下げると」

「まあそんな所だ」

中尾彬のネクタイよりも捻くれた心理体系ですね、それは」

「君に言われる筋合いは無い」

「…………………ぐぬぬ…………」

「そんな我らの溜飲を下げる救世主!『エンゼル・ターゲット』における殺人鬼は、良い意味で新鮮な驚きがあったとは思わないか?」

「んまあ………前の『犯されたお嬢さま/……何チャラかんちゃら……』ああ邦題がクソ長ったらしくて覚えられない!
 前のに比べれば、まあ悪くは無いと思いますけど………前述の対立構造に立脚した犯人像とも言えますし、殺し方も頗る酷いヘッポコサンタよりかは派手で良い……
って精一杯褒めようとしてしまっていますが、あくまで前のと比べれば!ですから!Z級の烙印を押されるに相応しい代物なんですからね、これも!」

「……ほう!その態度ッ!それが俗に言う“ツンデレ”という奴だな!」

「……若者文化が曲解される瞬間を、私は目撃してしまいました……」

「して“ツンデレ”君、君の意見を聴こう!」

「………………まず殺し方が派手でおおっ!となりました。オリンピックに関係して、殺傷能力があり、視覚的興奮もある点において“槍”という着眼点は良いと。そして最初の殺害シーンm重量挙げの女子選手のドテッ腹をズパーーーーーーーーーーーン!と貫いて、その勢いで壁にブッ刺さるなんて、わざとらしく上半身だけしか映されない工夫も含めて、製作者たちの試行錯誤が目に見えてヤダ………何これスゴい……と感銘を受けました」

「物理法則を無視してこそのスラッシャーだな!一体手に持って居たダンベルはいつ手から落ちたのか、など細かい事はNo Thank You精神が漲り過ぎて私も好きな場面だ!死体の処理についても雑だしな」

「私にも色々言及したいことはありますけれど、第一印象としてはこれ以上ない驚きの殺り方だと」

「まだZ級映画を2作しか見ていないのに、その思考と嗜好のZ化、“ツンデレ”君、キミという奴は…………
 にしても、そしてこの監督の素晴らしい所は、エロっとグロを殺しの中で両立させている所だろうな」


殺人鬼、装備:ジャージ、槍、調子に乗っている学生共への怨恨

「まるでキリストか釈迦が降臨したかの如き後光だな」

「こう恰好良くサウナに登場しておいて、全裸少女に逃げられるというのがまた度し難い……」

「逃がす意味は君にも分かるだろう!
 全裸少女を無駄に走らせる、それは全てがエロのため!殺られる前にエロを全開!エロスリル!スリルエロ!」

「これまた暗くて良く見えませんけれどね、乳房も何もかも」

「だがエロをスクリーンにトコトンまで焼き付けようとするその凄まじい心意気に、エロス万歳と快哉を上げざるを得ないだろう!」

「そしてエロ担当も槍をブッ刺されて血反吐ブチ撒いて死亡となる訳ですけれど、その役割も何て儚いのでしょうね(笑)
 ところで教授、少しご質問があるのですが」

「何だ?」

「スラッシャー映画というのは、バカガキが無残にブチ殺されるのを楽しむ、とは前にも言いましたが、槍殺人はこの無残を十二分に充たしているとは思います。しかし第二にその無残さはヴァリエーションに富んでいなければならないと思えてならないのです」

「ふむ、スラッシャーについてやはり良く勉強しているな……!」

「その点に於いて『犯されたお嬢さま』は意識的に多種多様にブチ殺していたと思えます。しかしこの『エンゼル・ターゲット』は槍で殺り、そして槍で殺り、はたまた槍で殺り、雨後のタケノコさながらに槍でグッサグッサグッサグッサと、その殺害の派手さに凭れ掛かり過ぎではないかと思うんです。スラッシャー映画に殺害方法のワンパターン化は許されるのでしょうかそれとも否でしょうか?」

「私はそのワンパターン化も勿論是とする。そもそも殺害方法が槍ばかりな理由は、おそらく製作者たち全員の思惑が一致したからだろう、そう――面倒臭い、と」

「えぇぇぇええええぇぇぇえええ………」

「というのは冗談だ。私がワンパターン化を是とするのは、彼らの魂の込められた“こだわり”という物が感じられるからだ。それについてはこの稀代の殺害方法を見ながら語るとしよう」

「素晴らしいとは思えないか!もしかして彼が犯人なんじゃあないのか……?と観客に猜疑心を抱かせたところで、数十m離れた地点から槍投げで狙い刺しと来た!」

「いやいやいやいや!これは一番酷いと思った奴ですよ!
 ヘチョ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んって飛んでってグサッ!って!
 ペニョヘロ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンって飛んでってグザァッて!
 何かちょっと格好良い演出を狙った小賢しさが、この前代未聞の殺害シーンを生んだと思われてならない!ならないんですよ!」

「君はそうかもしれない。だが私はこの描写に監督たちの並々ならぬ思いを、そしてその躍動にある一枚の絵画作品を見た」

「えっ……また前のドグマ的な………」

「この英国はラファエル前派のローレンス・アルマ=タデマの『戦士の舞』を見よ
 この雄大豪壮、目前に湧き立つ砂塵と死に肉薄する闘志たちの轟声が見える、聞こえてくるだろう!
 そして命を懸けて揮われるこの一本の槍の躍動は斯くや!私はあの翔ける槍に戦士の槍を見出した!!!」

「やだ………教授の深読力が怖い………」

「ああ、深読みは良いぞ……深読みは思考の楽しみを遥か彼方へと押し広げてくれる……
新世紀エヴァンゲリオン』であっても数々の秀逸なる深読みが集積したことによって、今の地位を得たと言っても過言ではないだろう。深読みは良い……Z級映画が生んだ文化の極みだ……」

「行きつく先はただの誇大妄想でしょうから程々にしてくださいね、教授」 

「ということで今回はここまでだ。
 次回はネタバレ全開で犯人の正体についてと、スラッシャー映画における犯人像について語っていこうと思う。
 それではサヨナラ、サヨナラ、サヨナラ………」


日本版ビデオジャケット。そもそもエンゼル・ターゲットってどういう意味だという話である