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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」のルーマニア語原題を訳す!

さて4月23日から日本でも「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」が上映されている。今作はルーマニアで今最も注目される映画作家Radu Jude ラドゥ・ジューデの最新作で、かつベルリンで最高賞の金熊賞を獲得している。ジューデ監督作が日本公開されるのは初めてゆえに、ルーマニア映画に衝撃を受けルーマニア語まで勉強し始めた私としては感慨深い。だがここで語りたいのは今作やジューデについて以上に、その異様な題名についてだ。

今作のルーマニア語題は“Babardeală cu bucluc sau porno balamuc”という。初めてこの題名を見た時、一応かなりルーマニア語を勉強していたのに、マジで全く意味が分からず驚いた。というのもこの題名、えげつないスラングまみれなのである。ルーマニアの友人ですら戸惑い、少なくとも他言語に翻訳は難しいと匙を投げるレベルだ。単語に関しては後で詳しく見ていくが、とりあえず、まあえげつなさを反映するなら“すっちゃかめっちゃかファックまたはキチガイエロ動画”という、下品さ差別的ニュアンスましましなものになる。

だがこれはあくまでニュアンスを汲み取っただけで、もう1つ重要な要素が欠けている。よく見てもらえば分かるかもしれないが、この題名は子音“b/l/c”と母音“a/u”を多用して韻を踏みまくってるというか、凄まじくリズミカルなものになっているのだ。カタカナで表記すれば“ババルデアラ・ク・ブクルク・サウ・ポルノ・バラムク”という感じだ。私もこれを連呼するのはかなり気持ちがいい、爽快感すらある。つまりこの題名は、死ぬほど“ルーマニア語的”という特徴があるのだ。

ここでちょっと英題と邦題を見てみよう。英題“Bad Luck Banging or Loony Porn”は意味としてはある程度近づけたうえでの妥協を感じる一方で、しかしより重要なのは先述した子音“b/l/c”と母音“a/u”のリズムを可能な限り再現した語彙を使っていることだ。冒頭を“Ba”で始めたり、“balamuc”にあたる言葉には綴りは違うが“lu”発音で意味も同じ“loony”を使ったりと芸が細かい。ルーマニアの友人たちはこれは訳すのが難しいと言う一方、この英題はかなりルーマニア語のニュアンスが再現されているとも言っている。おそらくこれはジューデらスタッフ陣が頑張って捻りだした英題なのだろう。

そして「アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ」という邦題だが、まあこれは英題から重訳したことは明らかで、ゆえに言葉遊びがないしえげつなさがない。そして英語ばっかで日本語になってる感がない。なので私としては物足りなさを感じる。ということで、何の因果かルーマニア語ができる日本語ネイティブとして、この題名の日本語訳に挑戦してみたい。

まず前節の“Babardeală cu bucluc”だ。これはニュアンスとしては“トラブった無秩序なファック”みたいなのを、更にスラング使って俗っぽくした響きを持っている。そして子音“b/l/c”と母音“a/u”を連呼するのがマジで気持ちいい。この2つをいかに両立するのかが問題だ。実をいえば最初の“Babardeală”が一番の曲者だ。オンライン辞書dex.roで確認すると、意味は“act sexual / 性に関する行為”という妙なまでにそっけない記述しかない。だが友人に聞けば“ファック”とか“ブチこみ”とか、相当強烈な意味で使われていると思える。しかも他に検索すると“ラクダのコブ”みたいなのもでてきて何が何だかサッパリだ。dex.roの記述はあまりに意味がカオスすぎるので、編纂者が匙を投げたって印象だ。まあスラングに関して辞書を頼るというのもアレだろう。

だから“babardeală”には“セックス”を意味する強烈な日本語が望ましいと私には思えた。そこでリズムも勘案すると、ここにはオノマトペ的な言葉を入れるべきと思えたんだった。エロに関するオノマトペとか日本の右に出るものないからね。で、最初の候補は“パコパコ pacopaco”だった。母音“a”と子音“c”、そして“b”に準ずる破裂音“p”を使ったオノマトペで“セックス”を意味するスラングだ。一見すると“セックス”って意味に結びつかず、しかしよくよく考えれば“ファックしてる時にちんことまんこがぶつかりあう音”と連想が働く。そういう思考の流れはルーマニアの人が見ても一瞬意味が取れず、しかしいつしかあの“ファック”を意味するスラングか!と分かる“babardeală”に近い、と思う。実際これはルーマニアの人に馴染みがあるとは言えないスラングで、その証拠に今作がルーマニアで公開された月、先述したdex.roで“babardeală”の検索回数がトップになったって記録が残っている。検索しないと意味が分からないって人が一定数いた訳だ。

だが正直“パコパコ”では物足りない自分がいるのに気づいた。そこで考えて思いついたのは、いっそ“p”を“b”に変えて“バコバコ”にするかってことだった。正直“バコバコ”がそういうスラングとして使われているのは見たことないが、これを検索したらケンドーコバヤシケンコバのバコバコテレビ」というバラエティ番組が出てきた。ケンコバとセクスィな女の子が何か色々エッチなことやるってエロ番組らしい。これは明らかに“パコパコ”と“コバヤシ”をかけたやつで、総意とまでは行かないが“バコバコ”を“パコパコ”に準じた言葉として使うことがない訳ではないってことと受け取った。そして個人的にはネットで検索するとこのケンコバの番組が出てきて、ニュアンスが理解できるって過程が気に入った。それに後述の言葉と組み合わされば“バコバコ”が“セックス”を意味してるってのは分かるという確信もある。なので俺は“babardeală”を“バコバコ”って訳すことにする。

そして“cu bucluc”だ。これは直訳すると“不幸、厄介事、無秩序と一緒に / with bad luck, trouble or disorder”という意味だ。つまり英題も邦題も形容詞として訳しているが、微妙に違うのだ。ここでわざわざ“cu”という前置詞を使ったのは、子音“c”と母音“u”を使うため、かつ同じくリズムのいい名詞“bucluc”を使うためだろう。後者の形容詞変化は“buclucaș / ブクルカシュ”であり、語尾でリズムが乱れる訳だ。そして“bucluc”は“不幸、厄介事、無秩序”という意味だが、実際これらを表現する時はそれぞれ“nenoroc”、“necaz”、“turbulare”という標準語彙を使うことが多く、これはあまり使われない。用法を検索するにしろ明らかに数が少ない。使わないということはないが、使用頻度は落ちるというそんなスラングなのだ。

これらの背景を勘案しての日本語の候補だが、俺の頭には2つ思いついた。“すっちゃかめっちゃか succhaca mecchaca”と“むちゃくちゃ mucha cucha”だ。どちらもまずリズム、そして口に出して気持ちがいい語彙というのを優先したうえで、“不幸、厄介事、無秩序”という意味に関しては、どれかでなくどれも包括したような感じを目指した。俺としてはどっちも悪くない気がするが、前者は“cu bucluc”と比べると長すぎる感が否めない。促音“っ”に関しても言ってて気分はいいが、原語にその音がないので少し齟齬がある。なので、まあ“むちゃくちゃ”だろうか。母音“a/u”と子音“c”で構成、そして“cu”が共有される。比べて発音すると、何か違うかな?とも思えるが、他にいい感じのが思いつかない。

ということで“Babardeală cu bucluc”は、これらを組み合わせて“むちゃくちゃバコバコ”で、どうですかね。ルーマニア語の語順を尊重して“バコバコむちゃくちゃ”にしようかとも思ったが、やっぱり変なので流れは“むちゃくちゃバコバコ”の方がいいという結論だ。

そして次は“porno balamuc”だ。“porno”はそのまま“ポルノ”か“エロ動画”でいいとして、問題は“balamuc”だ。今までスラングが4つ出てきたが、そのなかで一番の問題児がこいつだ。この意味は“精神病院”なのだが、かなり差別的なニュアンスがあるので放送禁止用語を使った“気違い病院”の方がより近い。そしてお気づきの通り、元々は名詞であり、ここでは例外的に形容詞的用法で使われている。そうなると、まあ“気違いの”みたいな、これまた相当ドギツい意味になる訳である。

で私が考えたのは、まず“いかれポンチ”だった。正直“気違い”をそのまま使うというのは抵抗感があるので、その意味を緩めた言葉としてこれを挙げた。邦題で唯一“イカれた”は悪くないと思っている、まあ“loony”の方が音という意味では上だがね。私も正直ここに関しては音と韻に関して最適解が思いつかなかったので、色々と意訳を試みている。でこの“いかれポンチ”に辿りついた訳だった。

だがここで怪我の功名というべきか、私は“いかれポンチ”のなかに“ポルノ”の“ポ”が隠れていることに気がついた。これを絶対に利用したいと思って、何気なく“ポンチ”をひっくり返したんだけども、ここで私はマジで驚いてしまったね。だって“ポンチ”を逆から読むと“チンポ”になるからだ。確かに元の“porno balamuc”に“チンポ”の意味はない。だけどさ、今作を観た人なら“チンポ”がどうやって劇中に出てくるか分かってるだろう。この“チンポ”は絶対に入れるべきだと思った。そうして完成した訳が“イカれチンポルノ”だった。ひらがなとカタカナの配分も考えたんだが、“イカ”をカタカナ表記にしたのは“イカ”ってのが“イカ臭い”みたいな言葉が精液関連で使われて、つまり性的な含みが存在するからだ。

と、いうことで私の考えた“Babardeală cu bucluc sau porno balamuc”の日本語訳は「むちゃくちゃバコバコまたはイカれチンポルノ」となった。スラングを多用しながらルーマニア語の意味へと近づけていった上で、前半に関しては子音“b/l/c”と母音“a/u”のリズムを優先しての“muchacucha bacobaco”とした。後半に関してはどうしても意味とリズムの両立ができず、かつ私のなかで“イカれチンポルノ”がガチッと嵌まりすぎて捨てるのは惜しく、このまま使った。正直、最善とかそういうものでは断じてない。しかし私の持てる日本語とルーマニア語の知識を余すところなく注ぎこんだとは思っている。だから私は「むちゃくちゃバコバコまたはイカれチンポルノ」を深く誇りに思うよ。