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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び

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老いることは恐ろしいことなのだろうか?テレビCMや広告では若さこそが至上とするような内容が喧伝され、私たちに恐怖を撒き散らしていく。そして老いゆく人々、老いた人々には人生の終りがやってきたとばかり軽蔑の視線が向けられていく。だが果たして本当に老いることは恐ろしいことなのか?今回はそんな風潮を軽やかに否定する素敵なドキュメンタリー映画Sofia Bohdanowicz監督作“Maison du bonheur”を紹介していこう。

Sofia Bohdanowiczトロントを拠点とする映画作家だ。2009年に短編"Falling with Force"でデビュー後、2012年にポーランド移民である女性の姿を描いた"Dundas Street"を、2013年にはやはり自身のルーツであるポーランドに材を得た"Modlitwa""Wieczor"などを製作した後、2016年には初の長編作品"Never Eat Alone"を手掛ける。主人公の祖母が過去の恋人と再びの交流を果たす姿を描き出したドキュドラマで、バンクーバー国際映画祭においてカナダ新人監督賞を獲得するなど話題になる。2017年にはブエノス・アイレス国際インディペンデント映画祭(BAFICI)で特集上映が組まれた後、第2長編である"Maison du bonheur"を完成させる。

このドキュメンタリーの題材となるのは、パリのとあるアパートメントに住む77歳の老女ジュリアーヌ・セラム Juliane Sellamだ。彼女は占星術師として多くの人々の人生を占いながら、人生を楽しく過ごしていた。カナダ人の監督はフランスへと旅行の後、同僚の母親である彼女と出会い、その生きざまに惹かれて、一緒に生活を共にしながらその姿をカメラに捉えていく。

まずジュリアーヌが監督に語り始めるのは、子供時代の思い出話だ。小さな頃おばに止められながらもおばあちゃんから飲ませてもらった苦いコーヒーについてのこと、昔から親が作っていたパンのこと。そんな子供時代について、ジュリアーヌは些かの記憶の混濁もなしに饒舌に語っていく。彼女の快活な言葉の数々は聞いているこちらの心も明るくしてくれる。

そして次に語るのは美についてだ。彼女を美しくしてくれる唯一無二のスタイリストについての話、ネイルを楽しむきっかけを作ってくれたおじについての話。その後も化粧についてなど様々な話題が現れては消えていくが、老いてなお美しくあることを謳歌している彼女の姿に勇気付けられる女性たちは多くいるだろう。

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これらを語る際、監督は自身の持つカメラで以てジュリアーヌの姿を撮し続ける。例えばお気に入りのゼラニウムに水をやる姿、ネイリストに足を差し出して爪を美しくしてもらっている姿。16mmフィルムによって紡がれるその映像には、まるで夕日の湛える暖かさが常に満ちているようだ。ジュリアーヌの笑みはその中では一際明るい。それらは私たちに監督の眼差しの暖かさに思いを馳せさせることとなる。

カメラには色々なものが映るが、特に印象的なのは出てくる料理の数々だ。ジュリアーヌが器用に料理するこんがりと焼けたパンからは香ばしい匂いが今にも漂ってきそうだし、更に載せられた色とりどり形様々なテリーヌやチーズたちは観客の食欲をこれでもかと誘ってくる。そして劇中にはジュリアーヌがケーキを食べる姿だけを延々と撮した場面がある。美味しそうに食べるジュリアーヌ、それを親愛と共に見守る監督、2つが混ざりあうことで、映画は深く優しい情感を獲得していく。

そんな中で今作は監督自身の旅路をも描き出すことになる。写真や映像には異邦人である監督のフランスの街並みへの憧憬が滲み渡り、観客をその旅路に招き入れていく。そして久しぶりにやってきた思い出の地ドーヴィル、その閉じたパラソルの立ち並ぶ海岸線からは彼女の抱く郷愁が静かに溢れ出している。今作は紀行映画としても優れた側面を備えているのである。

だがもちろんこの“Maison du bonheur”の核となる存在はジュリアーヌに他ならない。瀟洒な佇まいをしたパリで老いを、美を、人生を謳歌する彼女の姿は私たちにこう語る。“老いることは怖くない、老いることもまた1つの喜びなの”だと。

今作はバンクーバー国際映画祭でプレミア上映されると共にカナダ・ドキュメンタリー映画作品賞を獲得、その他レイキャビックモントリオール、サラソタなどで上映されるなど話題になる。最新作は2018年の"Veslemøy's Song"で、20世紀のカナダにおいて名声を馳せたバイオリニストKathleen Parlowの姿を追った作品で、ロカルノトロント、ニューヨーク映画祭などで上映される。現在はヨーク大学で映画製作の美術学修士号を取得途中であると共に、第3長編を製作中だそうだ。ということでBohdanowicz監督の今後に期待。

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