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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で

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2016年、トルコで軍事クーデターが起こったことは記憶に新しいだろう。こちらは未遂に終わったが、そんな未遂のものを含めてトルコでは幾度となく軍事クーデターが巻き起こっている。今回紹介するMahmut Fazıl Coşkun監督によるトルコ映画“Anos”もそんな過去を描き出した作品であるのだが、凡百の作品とは全く異なる視点からこれを描き出していると言えるだろう。

舞台は1968年のイスタンブール、男たちが夜の町を静かに潜行している姿からこの物語は幕を開ける。この時、アンカラでは軍事クーデター計画が進行していた。そんな中で男たちはイスタンブールのラジオ局を乗っ取り、軍の声明文をトルコ中に伝える任務を背負っていたのである。そして彼らは静かに計画の完遂へと近づいていく。

とは言え、計画がスムーズに行くなどということはまず有り得ない。偶然乗り合わせたタクシーではウザったいほどラジオから曲が流れるし、予期せぬ検問所の存在が男たちを苛立たせ、それを切り抜けてアジトに到着しながらも、こんな緊急事態に同志が時間を守らず遅刻して、彼のことを無駄に待ち続ける羽目になる。

あらすじからすると今作は政治的スリラー映画のように思えるが、実際見てみるとこれが実は妙なコメディ映画というのが段々と解ってくるだろう。アジトで男たちが計画について語っている中で背後では、作業員たちが延々とパン作りを行っている。同志の中の1人は韓国で北朝鮮の国歌を歌ってしまった南北分断ドジッ子エピソードを至極シリアスな顔で喋り、果ては皆の前でその北朝鮮国歌を歌う羽目になる。こういった何だか笑いを狙っているのか狙ってないのか判断しかねるエピソードが唐突に挿入されていくのだ。

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それに共鳴してか、演出も少し不思議な方向を指向している。撮影監督Krum Rodriguezのカメラはワンシーンワンシーン完全に固定され、その状態で何分にも渡る長回しが続くことになる。そういう訳でカメラは男たちの一挙手一投足を子細に観察し続け、その眼差しがあんまりにも真剣すぎる癖に、先述した変エピソードが急にブッ込まれるため、いわゆる真顔のユーモアがそこに生まれるのだ。

この演出で思い出されるのは“ルーマニアの新たなる波”、特に日本でも「トレジャー オトナタチの贈り物」が公開されたコルネリュ・ポルンボユ作品である。数分は当然続く禅的な長回しで以て目前で起こる光景をストイックに捉えていく。そして途切れることのない時間の中から、時間の流れや人間の滑稽さというものを浮き彫りにしていく。正にポルンボユ作品が指向する笑いと同じ種類の笑いが“Anos”にも存在しているのである。

しかし本作品はそれで終わることがない。男たちは同志が裏切り者と発覚すれば即抹殺し、それ故に同志たちは互いの腹を探りあい続けるとそういった張り詰めた駆け引きもあるのだ。滑稽な雰囲気がシームレスに濃密な緊張感へと移ろう、この2つを巧みに行ったり来たりを繰り返すのがこの映画の魅力とも言うべきだろう。

そして同志たちの受難は続く。ラジオ局を乗っ取ったはいいが、機械のオペレーターが不在故にわざわざ彼を連れ戻すために車を走らせる羽目になる。更にはアンカラからの電話を待つ間、偶然巡りあったおじいちゃんの世間話を延々と聞かざるを得なくなる。こんなことで任務を遂行できるのか?彼らの不安を他所に、夜は更けていく。

“Anos”はトルコの隠された現代史を描き出した作品だ。しかしシリアスな自己満足には陥ってはいない。誰も真似できない奇妙なアングルから歴史というものを描き出す、妙な娯楽性に溢れた作品なのである。監督が織り成すその巧みなリズムによって観客は時にニヤケを抑えられなくなり、時に顔を引き攣らせ、時に大いなる歴史と神のいたずらな采配に思いを馳せることとなるのである。

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