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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

デヴィッド・ゴードン・グリーン悪ノリしすぎ!「ロード・オブ・クエスト」「ピンチ・シッター」

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デヴィッド・ゴードン・グリーン&「スモーキング・ハイ」/男の友情最高!ホモソーシャル万々歳!
デヴィッド・ゴードン・グリーン及び彼の過去作品についてはこちら参照。

さて、前回の記事で私はデヴィッド・ゴードン・グリーン「スモーキング・ハイ」を糞味噌に叩きまくった。もうDGGレトロスペクティブ続けらんねぇよ……くらいには追い詰められた。それでもグリーン地獄のコメディ三部作の残り2作「ロード・オブ・クエスト」「ピンチ・シッター」を気力を振り絞って鑑賞したのだが、負けず劣らず酷い代物だったよ、本当……そして私は思った、これ片方ずつのレビュー書けねえよと。ということで今回は2作品抱き合わせでレビューすると共に、三部作引いてはアメコメ映画の潮流について記していきたいと思う。

さあ、まずは“Your Highness”aka「ロード・オブ・クエスト〜魔法使いとユニコーンの剣」だ。ムール王国、そこにサディアス王子(「ピザボーイ 史上最凶のご注文」ダニー・マクブライド)というクソ野郎がいた。怠惰で堕落しきった道楽中年男である彼は国民からも、家来からも、そして何より王である父(「インモラル・ビーチ/灼熱の貞操帯」チャールズ・ダンス)から軽蔑される日々を送っていた。更に彼を卑屈にさせる存在が兄のファビウス王子(「狼たちの激闘」ジェームズ・フランコ)だ。戦場では勇猛果敢な活躍を見せ、数多くの武勲を揚げる容姿端麗なファビウスは誰からも愛される人物だ。そんな彼が再びの武勲と共に連れ帰ったのがベラドンナ(「我が家のおバカで愛しいアニキ」ゾーイ・デシャネル)という女性、すぐさま結婚式が開催されるのだが、そこに悪の魔法使いレザー(「殺人警官」ジャスティン・セロー)が現れ彼女を拐っていってしまう。ファビウスとサディアスは家来を引き連れベラドンナの救出に向かうが、そこには驚くべき陰謀が隠されていた……

今作は80年代に隆盛を誇った、いわゆる“剣と魔法使い”ものを現代に甦らせた一作だ。中世的な世界観を舞台として、剣を携えた戦士たちと不気味な魔法使いたちがしのぎを削るファンタジージャンルで、代表的な作品としてはシュワちゃんが主演のコナン・ザ・グレートが挙げられる。グリーンとマクブライドはこのジャンルの大ファンで、大学時代からこういった作品に耽溺、自分たちでも“剣と魔法使い”ものを作りたいとジョーク混じりに話していたらしい。その夢を叶えた一作がこの「ロード・オブ・クエスト」という訳である。そんな経緯もあってか、世界を構築する美術や衣装の数々は実際かなり気合い入っている。歴史と非現実が交わりあう空間で生まれるサムシングは、このジャンルのファンを喜ばせるには十分だ。レイ・ハリーハウゼンのような映画を作りたいと言いながら、CGバリバリ使ってるのもこの際関係ないだろう。

だが、正直言って今作は「スモーキング・ハイ」に比肩するほど酷い。まずとにかくネタの悪ふざけぶりが吐き気を催すレベルだ。前作に引き続きホモソーシャル内ではクソみたいな性差別ネタの数々がブチ撒かれる。彼女は処女だアイツは雌犬だ何だと無遠慮な言葉が飛び交い、俺はソッチじゃねーよ的なホモフォビアネタもふんだん、そこにトランスフォビアまで投げ込まれ差別のオンパレード。劇中、ある敵の男性キャラが正体を見破られ“コイツは裏切り者だ!卑劣な奴め!”と身ぐるみ剥がされると、彼は女性の体をしており、主人公らがそれを罵倒するという場面なんかは全方位的に酷い。そういうネタが全編続くので、もう突っ込むのすら疲れてしまう。

その癖、今作の出演陣はすさまじく豪華である。大物俳優チャールズ・ダンスを筆頭に、今では「ズーランダー2」の脚本家として悪名高いジャスティン・セロー、次期007として世界中から期待されるデミアン・ビチルブラック・スワン」でオスカー主演女優賞を獲得する前夜のナタリー・ポートマン、英国屈指の怪優としてお馴染みトビー・ジョーンズ、そして「スモーキング・ハイ」から続投のジェームズ・フランコ&ダニー・マクブライド(脚本も兼任)などなどこのキャスト揃えるのに幾ら予算を費やしたんだ?と思わされるほど豪華だ。更に注目すべきなのはベラドンナ役でゾーイ・デシャネルが出演していることだ。彼女はグリーンの第2長編“All the Real Girls”のヒロインであり、つまりマクブライドと本作以来の再共演を果たした一作がこれなのだ。

だが本当、そういうのがどうでも良くなるほど今作は酷い。展開の定石ぶり、盛り上がらない終盤の展開、アクションに慣れていないらしいティム・オールのグラグラ撮影、散々悪ふざけした後にマクブライドが辿り着く“身の程を弁えろ”という何だか悲しくなる結論(あのまま差別ネタ爆発されるのも問題だが)、そしてオチのマジで気持ち悪い貞操帯ネタなど、最後まで見切った自分を褒めたいほどだ。それは皆が思っていたのか、今作は2009年に撮影されながら何故か2011年まで公開が見送られ、公開した後には案の定批評家からボコボコに叩かれるわ、興行収入も微妙な結果に終わるわという散々だった。が、グリーンの心は折れていなかった。彼は同じ年にもう1本のコメディ映画“The Sitter”aka「ピンチ・シッター」を完成させていたのである。

今作の主人公はノア(スーパーバッド 童貞ウォーズジョナ・ヒル)という青年、彼は大学中退の後に惨めなニート生活を送り、片想いの相手であるマリサ(ダイアルはン〜フ〜」アリ・グレイナー)にはクンニ係としてこき使われ、セックスも出来なければ恋人にもなれない状況が続く。そんな中でノアは母親に頼まれ、夜だけ子守りをやる羽目になるのだが、3人の子供たちはどいつもこいつもとんでもない問題児だった……

3作目なのでグリーンもいい加減コメディのテンポに慣れたらしく、面白い!とは口が裂けても言えないが、前2作に比べればまだマトモなクオリティに仕上がっている。以前はコメディなのに2時間近いというジャド・アパトーの刻印は影を潜め、今回のランタイムは何と81分。そのおかげで話が早いし、テンポも見違えるほど改善されている。そして登場する3人の子供たちの魅力も捨てがたい。不安障害を抱えて外にも出ずテレビばかり見続けているスレイター(かいじゅうたちのいるところ」マックス・レコーズ)、顔面に極彩色を塗りつけてセレブになりたい!とはしゃぎまくるブライス(「いつだってベストフレンド」ランドリー・ベンダー)、エルサルバドルから養子に送られてきたはいいが気に入らないことがあるとすぐ何かを爆破するロドリゴ(「SEXエド チェリー先生の白熱性教育」ケヴィン・ヘルナンデス)、全員強烈にキャラが立っている(後で書くがこれは良い意味でも悪い意味でもだ)

そんな3人に翻弄され、ノアの心はもう序盤からボコボコだが、彼の元に○から電話がかかってくる。ムラムラしてるからパーティーに遊びに来てという誘いにノアは生唾を飲みながら、彼女の頼みでカール(「N.Y少女異常誘拐」サム・ロックウェル)という売人からコカインを買いに行かされることとなる。ノアはセックスに目が眩み、外に出たいという3人も連れてカールの元へと赴くが、そのせいで一生忘れられない間抜けで狂った夜が幕を開けてしまう……グリーンは三部作を作るにあたり80年代コメディに対する愛着をこれでもかと露にするが、今回参考にしたのはアフター・アワーズ「ベビーシッター・アドベンチャーなど一夜の狂騒コメディだという。更に自分にも双子が生まれたし、ある意味でファミリー映画という側面を持った作品を作りたいとも思ったそうだ。冒頭からジョナ・ヒルがクンニする映画が家族映画とは……と思ったりするが。

今作がまともな点は、ジョナ・ヒルが連れていくのはジェームズ・フランコダニー・マクブライドのような男友達ではなく子供たち故に、前2作のあのうざった過ぎる男の友情最高だぜ!的なネタ(“俺アイツ好きだぜ、だってアイツの彼女フェラしてくれたんだもん!”的なね)が全くないからだ。そして製作年が前作と2,3年離れているからか、ホモフォビアネタも影を潜めている。というか自分がゲイであることを認められないスレイターをノアが諭す場面の存在は、以前のグリーン作品からは考えられないほどの進歩に思える。つまり性差別的側面がかなりマシになってる訳だ。まあトランスジェンダーのステレオ表象などもあるし、良いとはお世辞にも言えないが。

だが「ピンチ・シッター」を含め、デヴィッド・ゴードン・グリーン地獄のコメディ三部作を一気見していくと、見えてくるものが存在する。私が思うに、ゼロ年代において幅を効かせていたネタは性差別ネタだ。女性差別ホモフォビアにトランスフォビア、そういったヘテロ男性以外の存在への嫌悪感がヘテロ男性の友情を保つための笑いとして踏みにじられていたのだ。セス・ローゲンジャド・アパトーが絡んでる作品はその傾向が顕著だが、つまりゼロ年代のアメコメ界を牛耳っていたのは彼らな訳で、性差別ネタは必然的にこの時代の根幹を担っていた。「スモーキング・ハイ」「ロード・オブ・クエスト」にはこの傾向がこれでもかと反映されている。

しかし2011年製作の「ピンチ・シッター」となると話は変わってくる。先述した通り今作からは劇的に性差別ネタが減っているが、その空白を埋めるように現れたネタがある。それが人種ネタ(エスニック・ジョーク)だ。顕著なのはヒスパニックであるロドリゴの絡んでくる場面だ。彼はギャング的な佇まいがスカーフェイスアル・パチーノなどを彷彿とさせるのだが、不必要なほど暴力的で過激な性格で、かつ彼が何かしようとする度にラテンギターがこれでもかと流れまくる。ステレオタイプ表象を内省することもなく、まんまブチ撒けて笑いを取ろうという意図が見え隠れしたりしているのだ。この三作におけるネタの変容はグリーンの作風の変化を反映する以上に、ある意味でゼロ年代からテン年代へと時代が移り変わる上での潮流それ自体の変容だと思える。セス・ローゲンたちがそうであったように、作り手側が性差別的な価値観を反省し、でもじゃあその代わりにどういうネタをやればいいのかという所でエスニック・ジョークが担ぎ出された訳である。

「ピンチ・シッター」は2011年製作で、エスニック・ジョーク隆盛の予感が満ちているのだが、この潮流を決定づけた作品は2012年製作のピッチ・パーフェクトだろう。今作のコンセプトはアパトーギャングらの“男の友情最高!女はすっこんでろ!”という価値観に“女の友情だって最高!”と中指を突き立てるというもので、同じ時期に作られたポール・フェイグブライズメイズ「デンジャラス・バディ」と並びコメディエンヌたちの将来を切り開く作品だった。私もその点は感動したし、部長と副部長のシップは最高だ。しかし観ていて違和感も抱いた。例えばアナケンのルームメイトの存在、彼女はアナケンに対して白い目を向けるばかりの性格悪い人間として描かれてフォローもない。更にベラーズメンバーの一員であるリリーは変人というか、もはやネタがシュールすぎて地球外生命体みたいな感じになっている。そんな2人は共にアジア系でちょっと悪意を感じたし、他にも悪ふざけとしか思えないエスニック・ジョークがあり、ちょっと鼻白んだのを覚えている(2なんかはもうこの悪ふざけしかなくて酷かった)

このピッチ・パーフェクトが爆当たりしたことによって、女の友情最高ものが爆発的に増えた訳だが、同時に白人以外の存在を他者化するエスニック・ジョークで笑い取っちゃっていいんじゃね?という総意が出来上がってしまった気がするのだ。メジャーどころからインディーまで、最近のアメコメの動向を見ているとそういう流れをヒシヒシ感じる。もちろん「21ジャンプ・ストリート」クリス・ミラー&フィル・ロード「ネイバーズ2」ニコラス・ストーラーなどの躍進、マンブルコア一派のメジャー進出によって価値観はアップロードされて来ているが、それでもどんどん白人の悪ふざけ感が露になっていってる。

これの1つの原因は多様性を謳いながらも、白人以外の作り手が全くピックアップされないことがあるのではと思う。白人作家ばかりが作品を作るからメインキャストは白人になり、取り敢えず脇に多人種揃えときゃ文句ないだろ?的に白人以外の俳優が据えられ、時には飛び道具的な笑いとして搾取される。更にもしタイラー・ペリーなどのアフリカ系作家がコメディ作っても、それはただのコメディ映画ではなく黒人映画みたいなレッテルを張られ、やはり他者化される状況が続いている。正直映画界はこの現状を変える気は余りないという印象しかないが、それを鑑みるにあたってテレビ界は完全に彼らの先を行ってるだろう。インド系コメディアンのアジズ・アンザリによる「マスター・オブ・ゼロ」に、アフリカ系のIssa Raeによる“Insecure”やドナルド・グローヴァー“Atlanta”などなど白人以外の作家がクリエイターを務める作品がどんどん作られ、広く評価されている。上述したマンブルコア一派の一人ジョー・スワンバーのドラマ作品「EASY」も(彼自身白人で映画においては余り多様性がないが)異人種間カップルやラテン系カップルなど様々な愛の形が描かれるなど、かなり進歩的だったりする。アメリカはトランプが大統領に就任し、人種差別の嵐が吹き荒れているが、アメコメ界は内と外のこの状況にどう対応していくのか見ものだ。

ということで全く話が逸れまくったが「スモーキング・ハイ」「ロード・オブ・クエスト」「ピンチ・シッター」デヴィッド・ゴードン・グリーン地獄のコメディ三部作にはこういった風潮や変化が濃厚に反映されていると言えるだろう。この流れを体感するに三部作一気見は正にうってつけと言えるが、正直どれもつまんないのでオススメはしない。あー本当、本当つまんなかったよこの三作は…………

参考文献
http://www.ifc.com/2011/12/david-gordon-green-the-sitter-interview-2(監督「ピンチ・シッター」インタビューその1)
http://collider.com/david-gordon-green-the-sitter-interview/(監督インタビューその2)
http://www.indiewire.com/2011/12/the-sitter-director-david-gordon-green-explains-his-move-to-the-mainstream-50667/(グリーンのコメディ期概括インタビュー)