鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

リチャード・フライシャー再考その1

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リチャード・フライシャー、あまり興味がない。ぶっちゃけ日本で過大評価されてる気しかしない。それでアメリカ含め海外で過小評価されていると被害者意識を抱いてる感じだ。個人的に何本か観ているが、あまり思い入れはない。ミア・ファロー「見えない恐怖」はマジに素晴らしい一方で、輪をかけてマンディンゴがダサいのでどうでもよくなった。が、クローン病という難病に罹り、どうにも暇になったので、何となくフライシャー作品全部観ていくかと思った。ということで今そのフィルモグラフィを前と後ろから観てっているので、ツラツラと思ったことを書いていく。

まず観たのは1948年制作の「ムコ探し大騒動」/ "So This is New York"だった。遺産成金のニューヨーク珍道中を通じお気楽なユーモアが楽しめる1作で、手練れた札束演出はもう既に!と驚かされた。だけども小品も小品なコメディとは言わざるを得ない出来だ。この後に初期作"Child of Divorce""Banjo"を観て、よりそう思う。妙なフリーズフレームには父マックスのカートゥーン的血をふと感じた。あと競馬が重要な要素なので、ウマ娘全盛期の今観るのは楽しいかもしれない。

フライシャー遺作の1987年制作「おかしなおかしな成金大作戦」/ "Million Dollar Mystery"はカーアクションが語り草の1作だが、正直車を頗る感情豊かに演出しているので、観てると胸焼けする平凡さがある。これならロバート・ゼメキス「ユーズド・カー」とかワイルド・スピード(MEGA MAX以降)の方が全然いい。むしろ不幸と痛みへ運命的に導かれる人間を、物として描く際の自壊的笑いが肝だと思えた。馬鹿、それが人間の本質という遺言。この辺り、名字同じなだけで血の繋がりとかはないものの、フライシャーの精神、割りと正統にルーベン・フライシャーに受け継がれているのではないかとふと思った。

Filmarksに"映画が終っても、2人の刑事がダラダラ喋りまくってんの、フライシャーが映画を終らせたくないって感じに見えて、遺作っていうのを考えると悲しい"みたいな感傷的なコメントを残してる人がいたが、割と共感した。こういうの蓮實一派とか唾棄するだろうけど、こういう感傷は切り捨てたくない。自分もルチオ・フルチの遺作「ヘル・クラッシュ!~地獄の霊柩車」には思わず感傷的になったし。

次は1948年制作のボディガード」/ "Bodyguard"だ。こっからフライシャーのノアール連作が始まる訳だが、目を見張るショットあり(闇から現れる秘書の顔!眼科!)、語りの経済性抜群(追跡/気絶/死体発見/列車事故の鮮やかな繋ぎ)、食肉業界の闇という社会派な主題を交えて、60分でこれを纏める手腕にはまあ確かに惚れ惚れするよ。だが面白いかと聞かれれば、何か、微妙だ。

戻って日本未公開の1947年制作"Banjo"を観た。楽しい野外探検から一転、壮絶の父親落馬自殺は本当に驚かされた。この乱高下は、そのまま少女と優しき愛犬がめぐる新しい家族の物語を象徴する訳だけども、犬、子供、大人/観客の視線の差が常に意識された撮影が本当に素晴らしい。子供たちが猟銃持ってる場面とか、本当にブルッとさせられる。そんでもってハッさせられる視点切替が随所随所で閃いて、画面から目が離せない。撮影監督はGeorge E. Diskant ジョージ・E・ディスカント(ニコラス・レイ夜の人々「危険な場所で」を担当。個人的には「優しき殺人者」がメチャいい)で、フライシャーとは今後「その女を殺せ」でしか組んでないのが残念でならない。彼が撮影してればこの時期のノワール群はもっとマシになった筈。この自由さは、フライシャーでも随一だ。

だけど本当、それ以上の発見だったのは1983年制作の悪魔の棲む家PART3」/ "Amityville 3-D"だった。ホラーは好きだけど、シリーズものは好きじゃないし悪魔の棲む家シリーズにも全然興味なしだった。あんまり期待しないで観たけど、あのデブと蠅どもの鬼気迫る、聖性すら宿る切り返しを見た時点で悟った、これ凄い映画だと。3-Dなんで3D描写もあるけど、全く嫌味がなくて驚く。特にフロントガラスに突進してくる鉄棒は年甲斐もなく驚いた。そして車炎上爆発ですよ。車炎上に遭遇したあの一般人は、あのもう純粋無垢の不条理を目撃して呆然とする一般人は、私だった。理解を越えた大いなる何かが人間をなぶり殺すことの崇高を、フライシャーは完膚なきまでに完璧に顕現させてみせる。これこそが傑作だ。言わせてもらうがマンディンゴを観てホラーとか言う映画批評家悪魔の棲む家PART3」を観て反省してくれ。

その後に1949年制作の「カモ」/ "The Clay Pigeon"を観ながら、初期フライシャーのノワール映画観てると"経済性""資本主義"という言葉ばかりが先立つなと思った。ボディガード」に続いての、記憶喪失/殺人冤罪というリサイクル脚本の時点で、物語の経済性を突き詰めすぎているのに、フライシャーの無駄がなさすぎる語りで贅肉どころか骨どころか、もはや何もない。加速主義の無って感じだった。フライシャーのノワールは、長編映画を60分くらいで収めりゃいいもんじゃないってことをまざまざと教えてくれる。

それから1983年制作「ザ・チャンプ」/ "Tough Enough"を観た。ボクシングで高みを目指すカントリー歌手志望という疑問符が浮かぶ主人公造型から「ロッキー」パロディの衒いなさに頬が緩むほどの、こうまで多幸感溢れる映画を作れることに思わず嘆息。この映画を観ている時、本当に幸せだった。劇中でボクシングしてるやつらマジで殴られてるようにしか見えないけど、それ見ててすら幸せを感じた。こう、リチャード・フライシャーが、大いなる何かに人間が屠られていくことの崇高を描く悪魔の棲む家PART3」と、人間存在への大いなる愛情と敬意に満ち溢れた「ザ・チャンプ」を完成させた1983年は、本当に神懸かり的な年だと思った。同時にノワール時代のフライシャー明らかに過大評価で、80年代のフライシャー明らかに過小評価だとも思った。

そして1949年制作の「静かについて来い」/ "Follow Me Quietly"も観た。フライシャーの初期ノワールとして語りの退屈な経済性は相変わらずだったが、マネキンの白色顔面やマネキン実は殺人鬼!という場面など、笑いと衝撃を同時に齎す外連味にハッとさせられる。後者なんかは、フライシャー作品における人と物の重なりの象徴のようだった。その後の1949年制作「罠を仕掛けろ」/ "Trapped"は、冒頭から"アメリ財務省さん、いつもありがとうございます!"みたいなプロパガンダ臭にいやはや苦笑って感じだった。とはいえ撮影が洗練されていく印象があり、白光と陰影の距離感がより鮮やかになって観ていて悪くない、まあ良くもない。

そんな中で1950年制作「札束無情」/ "Armored Car Robbery"は毎度お馴染みになった語りの経済性、そこから来る速さや素気なさがボディガード」やら「カモ」みたいな退屈さに繋がるのでなく、犯罪における生存闘争の容赦なさを忌憚なく暴きだす様が痛烈で割と気に入った。ヒゲの裏切り/主人公の手元の銃/ヒゲ銃殺という一連の長回しシークエンスにおける距離感覚もクールだ。フライシャーのノワール作では数少ない良作だと思った。

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だけど1979年制作のアシャンティ」/ "Ashanti"観たら、ドン底に落とされた。初期ノワール群における語りの経済性的な無とはまた異なる、湯水のごとく金を注ぎ込んだ果ての無をこのデヴィッド・リーン被れの大作には感じさせられた。本当つまんねえよ。何の外連味も、何の内省もない、無限の漠砂さながらの乾き。間違いなくフライシャーでもワーストの1本。あとフライシャー、黒人/アフリカ系のこととか別に何にも考えてないからマンディンゴとか作れたんだろうな。

その後、アメリカのマジでヤベえシネフィルLianaの力を借りてフライシャーのデビュー長編"Child of Divorce"を観た。親の離婚に直面する少女っていうそのテーマは確かに平凡だと思った。だけど実際はそこから想像しがたいほど切実で容赦がない映画だった。少女が離婚調停のために着飾らされて、双方の弁護士からマシンガン掃射さながら尋問される様は容赦なさというものを越えて、もはやインモラルだった。"目も当てられない"とはこのことだ。ここフライシャー史においてハイライトだなって思ったけど、違った。子供として余りに重すぎる決意を抱くラストの悲壮さ、壮絶さ、崇高さは一体何なんだ。こりゃフライシャーの、原点にして頂点だよ。

1951年制作の「替え玉殺人事件」/ "His Kind of Woman"はフライシャーのノンクレ仕事らしい。最初はミア・ファローの父親ジョン・ファローが作ってたけど(この繋がりでミア・ファロー「見えない恐怖」に起用したのか?)、ハワード・ヒューズが出来に納得行かず、フライシャーにお前の作った「その女を殺せ」公開させねえぞと脅して、今作の再撮をやらせたらしい。撮影中はヒューズが耳遠かったから、フライシャーはずっと叫んでたとかIMDBに書いてあった。その現場、映画化すればいいんじゃないの。

前半ノワール後半冒険活劇の歪なバランスにそういう制作裏のゴタゴタを感じるも、出色はシェイクスピア被れのアホ俳優役ヴィンセント・プライスだった。キング・ヴィダー屈指の駄作「剣侠時代」のパロディみたいな劇中映画に出てて思わず苦笑したけど、そっからクールに敵を銃撃し、体制に対して大見得張る様は主演ロバート・ミッチャムに対して影の主人公だった。「栄光の、死ッ!」ってセリフ、最高。ちなみにヒューズがファローと揉めた理由は、ヒューズがプライスの演技を気に入って出番もっと増やせと無理強いしたかららしい。

そして次に1951年制作「その女を殺せ」/ "The Narrow Margin"を観たが、本当ジョージ・E・ディスカントが撮影監督として戻ってきてくれて良かったわ、マジで。この時代のノワール群では明らかに際立ってる。ほぼ室内劇だけど上下、奥行きの躍動感を出すための創意工夫にいちいち驚かされる。ラストのドア越し射撃の戦略性なんか感動的。正直、ヴェーラのフライシャー・ノワール特集は「その女を殺せ」だけ観とけばいいと思う、面白いと思ったら「札束無情」観て終りでいいよ、十分。

現時点でのベスト(他も前に観たような気がするけど忘れた)

1.「悪魔の棲む家PART3」
2. "Child of Divorce"
3. "Banjo"
4.「ザ・チャンプ」
5.「見えない恐怖」
6.「その女を殺せ」
7.「おかしなおかしな成金大作戦」
8.「替え玉殺人事件」
9.「ムコ探し大騒動」
10.「ミクロの決死圏
11.「札束無情」
12.「罠を仕掛けろ」
13.「静かについてこい」
14.「ボディガード」
15.「カモ」
16.「アシャンティ
17.「マンディンゴ

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