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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Tyler Taormina&"Ham on Rye"/楽しい時間が終わったその後

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例えば友人たちとカラオケに行ったりパーティーに行ったりした時、こんなことを想ったことはないだろうか。こんな楽しい時間、いつまでも終らなければいいのにと。それでも終りのないものは存在しない。どんなものにも終焉はつきまとう。さて、今回紹介するのはそんな終りの感覚を鮮烈に描き出した奇作、Tyler Taormina監督作"Ham on Rye"を紹介していこう。

3人の少女が、美しい白いドレスを着ようとしている。彼女たちはMonty'sというレストランで行われるパーティーに参加するつもりでいたのだ。両親や祖父母たちに写真を撮られたりと予想外のことは起きながらも、彼女たちは一路Monty'sへと向かう。

だがそこに向かっているのは彼女たちだけではない。町中の少年少女がMonty'sでのパーティーを楽しみにしていた。瀟洒で高級なスーツやドレスを身に纏って、少しの緊張と共に彼らはMonty'sに行く。そこにはそれぞれの目的がある。女子と一緒にダンスが踊りたい、友人たちとダンスが踊りたい……

監督はまずそんな彼らの姿を断片的な筆致で以て描き出す。明確なストーリーラインはほぼ存在しない。少女の1人が便意を催し、見知らぬ他人の家に行く姿。ある少年グループが自分たちのカッコよさを他のグループに見せつける姿。ロックを爆音で垂れ流しながら道路を駆け抜ける姿。そんな取り留めのなさはリチャード・リンクレイタースラッカーズなどを彷彿とさせるものだ。2010年代に今作を再構築しようとする意図もあったのかもしれない。

そして演出は煌びやかで爽やか、かつキッチュである。少年少女の姿はいつだって青春の輝きに満ち溢れていて、その眩さに思わず目を覆ってしまうほどだ。彼らが抱く浮足立った高揚感というものがこれでもかと伝わってくる。監督のTaorminaは子供番組製作出身であり、その瑞々しい感性が今作の演出に寄与していることは想像に難くない。

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今作の要となっているのは50年代という時代に対する甘ったるい郷愁だ。デヴィッド・リンチブルーベルベットなど80年代にはこの時代への憧れや愛を否定する批評的な視点を持った作品が多く現れたが、今作にその批評性はない。ここにあるのはそれらが否定した率直なまでに甘美な郷愁である。安らかなる郊外の風景、50年代特有の快活な歌声、そういったものがふんだんに描かれることとなる。

Monty'sに着いた少年少女はパーティーを始める。まずここの美味しい料理を食べて、次に踊りを始める。そして男女でペアになり再び踊り出す。そんな中で白く眩い光をその目に映した彼らは、弾けるような笑顔と喜びの中で、跡形もなく消え去ってしまう、文字通りに。

そして今作は全くの急旋回を遂げる。彼らが焼失した世界に広がる風景を描きだし始めるのだ。それはアメリカの夜である。闇に満たされた公園、空っぽになった駐車場、誰もいないファストフード店。淀んだ空気に支配された夜を、監督は静かに見据えていくのである。その様はデボラ・ストラットマンなどを思わせる、アメリカ実験映画の感触に近い。

そこではパーティーに行かなかった若者たちが、淀んだ空気を吸いながら夜を彷徨い続ける。車に乗って適当に道を走り、酒を飲み続ける大人たちに混じり賭けをしたりする。だがそこに確固たる目的は存在しない。何もやるべきことがないから、暇な時間を殺し去るために彷徨っているといった風だ。

ここに現れるのは余りにも深すぎる絶望感である。楽しい時間が終わった後に残るのは、全てが終焉を迎えた後に残るのは、この荒涼たる風景であるのだと監督は私たちに語る。前半の輝ける青春群像の鮮烈さも相まって、その絶望はひどく深く心に刺さってくる。これが唯一無二の真実なのであると監督は容赦なく叩きつけてくるのだ。

今作は終りの後に広がる果てしなき虚無の光景を、実験的なスタイルで描き出した異形の傑作だ。そしてここに描かれるものこそが、世界に訪れる静かなる黙示録であるのかもしれない。

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