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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Miko Revereza&"No Data Plan"/フィリピン、そしてアメリカ

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いわゆる紀行映画(トラヴェログ)というジャンルがある。ある人物がめぐる旅路の中で見る風景や体験する出来事を捉えていくことで紡がれていく映画のことだ。こういった作品を観ていると、自分たちも語り手と同じく旅をしているような、そんな心地を味わうことができる。Miko Revereza監督による長編作品“No Data Plan”はそんな紀行映画の系譜に属する作品だと言えるだろう。

今作の語り手はフィリピンからの違法移民である映画作家のRevereza自身だ。彼は列車で以てアメリカはニューヨークからロサンゼルスまで、長い長い陸路を旅することを決意する。そんな彼は映画作家としての性とばかり、旅の過程でカメラを回し続けるのだが、そんな旅路は自身の境遇について振り返るための大切な時間となっていく。

彼は字幕によって自身についてを少しずつ観客に語っていく。フィリピンからアメリカへとやってきた経験について、母親が不倫をして家族から離れては戻ってくるという経験について。字幕のみで綴られていく静かな語りの数々は素朴ながら、観る者自身にも人生を振り返させるような叙情性に満ち溢れている。

同時に描かれるのは監督の旅路である。例えばスクリーンに浮かび上がるのは乗客でごった返す駅のホーム、電車の席に身体を深く埋めて休む人々、窓にこびりついた真っ白い汚れや夥しい傷、車窓に浮かんでは消えていく風景。そういった何の変哲もない光景の数々を、監督は淡々と捉えていき、私たちの目の前に差し出していく。

しかしその光景たちがだんだんと美しさを獲得していくのだ。途中で監督が立ち寄る灰色がかった青に包まれた街では、そそりたつ電灯や駐車場で談笑する人々が見えてくる。夜の闇では宝石のような輝きを放つ灯りが、閃光のように車窓を駆け抜け、白い残像を残していく。そしてある時、監督は電車の最後部で遠ざかっていく風景を映し出すことになる。小さくなっていく木々や野原は何でもない風景のはずだが、そこには胸を締めつけるような感覚が宿っている。それはここに観る者それぞれの記憶を喚起するような郷愁が存在しているからだ。

そして物語を通じて、この郷愁はどんどん膨らんでいく。旅それ自体は広大なるアメリカを縦断するという大いなる旅路だ。しかし監督が朴吶と語る記憶の数々は個人的でごく小さなものばかりだ。この大いなる旅路とちっぽけな記憶が静かに重なりあうことで、郷愁が醸し出されていく様は切実であり、感動的だ。

“No Data Plan”は小さなものと大きなものが静かに重なりあうことで形を成していく、素朴だけども美しい紀行映画だ。この旅路の中に私たちはそれぞれの記憶を見いだすことによって、人生という旅の奥深くまで潜りこんでいく、そんな切なる映画体験に埋没することになるはずだ。

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