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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Shahrbanoo Sadat&"The Orphanage"/アフガニスタン、ぼくらの青春

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アフガニスタンと言えばアルカイダビンラディン、テロリストなど良くないイメージが現在付き纏ってしまっている。だが私たちは煽情的で憎悪をあおるメディアから遠く離れた場所から、この国を見る必要があるだろう。そんな時に寄り添ってくれるのが芸術というものである。ということで今回はこのアフガニスタンという国で生きる市井の人々を描き出した作品である、Shahrbanoo Sadat監督作"The Orphanage"を紹介していこう。

舞台は1989年、ソ連軍が撤退した後のアフガニスタンは首都カブールである。15歳の青年コドラト(Qodratollah Qadiri)は貧困に喘ぐ生活を送っていた。映画館の前でチケットのダフ屋をやりながら、路上生活を続けていたのである。だがこれは当然犯罪だ。長く続けることはできない。最終的にコドラトは警察に捉えられてしまう。

まず、監督はこの時代に生きていたアフガニスタン人の日常を淡々と綴っていく。貧困は誰の元にも降りかかり、容赦なく彼らを疲弊させていく。そんな中で彼らの救いとなるのが映画だ。映画館ではインド映画が上映されており、アクションに熱狂するかと思えば、豪華絢爛な歌に合わせて自分たちも踊り出す。映画はとても人気で、コドラトが正規の料金の数倍をふっかけても買う者が現れるほどだ。

しかし前述の通り、コドラトは警察当局に捕まってしまう。住む家がないと知った警察は、彼を孤児院に送ることとなる。そこには同じような境遇の少年たちが寄り添いあいながら、暮らしていた。そうしてコドラトはこの場所で15歳の時を過ごすことになる。そこでの生活は路上よりは悪くない、むしろかなり良好だと言ってもいい。動くと騒音が響くながらもちゃんとベッドがある。食事も毎回しっかりした料理が出てくる。更に学校にも通わせてくれるので、前と比べれば至れり尽くせりだ。

今作はここから群像劇的に進行していく。マシフラ(Masihullah Feraji)はチェスの達人で、この才能が思わぬ形で輝きを放つことがある。逆にファヤス(Ahmad Fayaz Omani)は気弱な青年で、それが仇となり窮地に追い詰められていく。そしてハシブ(Hasibullah Rasooli)は孤児院のガキ大将的な存在で、彼は青年たちの生活や物語を掻きまわしていく。

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そうして物語は紡がれていくが、そこにアフガニスタンの当時の状況は詳細に浮かび上がってくる。中でも興味深いのはアフガニスタンソ連の蜜月である。ソ連軍撤退後、二国は急速に接近を果たすこととなる。学校でもロシア語の授業が行われるくらいにはその緊密さは日常に波及している。更にコドラトたちはアフガニスタン代表として、ソ連へとサマーキャンプに赴き、この国の最新技術を楽しむことになる。そこまで親密な関係性が築かれていたとはと観客は驚くことになるだろう。

監督の演出は淡々としたもので、劇的な展開などはほとんど起こることがない。だが過酷な状況下において、それでも輝ける青春の時を彼女は鮮やかに描きだし、一瞬一瞬を優しく捉えている。背景にあるものは恐ろしい脅威であるにも関わらず、この時間が永遠に続けばいい、そう私たちは思うことになるだろう。

そんな淡々さの中で、時折際立つものが映画への愛である。例えばハシブが年下の少年から洋服を奪い取るのだが、そこにはあのランボーの姿がある!ランボー3/怒りのアフガン」はアフガンでソ連軍に囚われた上司トラウトマン大佐を、ランボーが源氏のゲリラ部隊と共に助ける物語で、終盤にはムジャヒディーンも登場する。この物語がどう受容されていたかは定かではないが、取り敢えずランボーかっけえ!という十代の想いは世界共通だということだろう。

そしてもう1つの欠かせない愛の対象がインド映画、特にボリウッドである。先述した物語の序盤にも作品が出てきたが、この時代アフガニスタンではボリウッド作品が熱狂的に受け入れられていたそうで、正にコドラトもファンの1人である。更に彼は感情が高ぶると、妄想の中でヒンディー語ウルドゥー語両方を駆使して歌い踊り始めるのだ、あのボリウッド作品のように!その場面は微笑ましいとしか形容しがたく、映画が超新星のように輝く瞬間である。

だがそんな輝きに影が差し始める。1989年はアフガニスタンにとって激動の時代である。ソ連の撤退によりムジャヒディーンが台頭を果たし、内戦の時代がやってくるのである。それは孤児院にも深く影響する。今までの親ソ連的な態度は国辱的として隠さなければならなくなる。食事も一気に貧しいものへと変わってしまった。コドラトたちが恐怖を感じる中で、運命の時がやってくる。

"The Orphanage"は過酷な状況下にあったアフガニスタンで逞しく生きる少年たちの姿を、深く暖かな優しさで以て描き出す作品だ。そしてどんなに辛い時にあっても、映画は傍にあってくれる。映画は勇気を奮い立たせてくれる。そんな力強い愛のメッセージを私たちの心に届けてくれる。

ちなみに今作はSadat監督が構想中の5部作の中の第2作にあたる。ちなみに第1作目である"Wolf and Sheep"でもQodratollah Qadiri演じるコドラトが主人公であり、彼はSadat監督にとってのアントワーヌ・ドワネル的な存在であるようだ。今後の作品がどうなっていくのか、彼女は激動のアフガニスタンをどう描いていくのか、そしてコドラトはそんな世界をどう生き抜いていくのか。今後が楽しみである。

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