鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

2020年代、期待の新鋭映画監督110!

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さて、このサイトでは2010年代に頭角を表し、華麗に映画界へと巣出っていった才能たちを何百人も紹介してきた(もし私の記事に親しんでいないなら、この済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!をぜひ読んで欲しい)だが今2010年代は終わりを迎え、2020年代が始まろうとしている。そんな時、私は思った。2020年代にはどんな未来の巨匠が現れるのだろう。その問いは新しいもの好きの私の脳みそを刺激する。2010年代のその先を一刻も早く知りたいとそう思ったのだ。

そんな私は、2010年代に作られた短編作品を多く見始めた。いまだ長編を作る前の、いわば大人になる前の雛のような映画作家の中に未来の巨匠は必ず存在すると思ったのだ。そして私は半年をかけて百数十本の短編を鑑賞し、未来のための新鋭映画監督リストを作った。ここにお披露目するのはその結果である。ということで少しだけ説明をするが、このリストに現れるほぼ全員が、まだ短編映画しか作ったことがない映画作家である。ほぼ、というのは記事執筆に半年をかけたせいで、その間に長編を発表してしまった作家がいるのである。彼らを私の怠慢を理由にこのリストから除外するのは忍びなかったので、1,2人ほど例外的に長編を1作だけ作った作家もいる。ご承知いただきたい。

最初から長編を製作してデビューしたという作家は少ない。ジャン=リュック・ゴダールシャンタル・アケルマンヴェラ・ヒティロヴァクエンティン・タランティーノアピチャッポン・ウィーラセタクンも短編映画から始まった。映画作家はここから始まるのだ。ということでここに記した100人の名前をぜひ覚えて、2020年を迎えて欲しい。それではどうぞ。

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私的2019年ベストチューンであるInsanの"Biseri"とともにどうぞ。

Khin Waso キン・ワソ (ミャンマー)
自由が私の信じるもの。これは翼なしで飛ぶ詩なのだ……彼方に輝ける夕日、砂浜の上を歩く女性、色褪せたホームビデオ、空を飛ぶ少女のアニメーション。様々な要素を行き交いながら生と自由についての思索を巡らせていく"Letter to a Bird"がデビュー短編。当初はジャーナリストだったが、2014年から映画製作を学び始め、今に至っている。

Nida Mehboob ニダ・メフブブ (パキスタン)
アフマディーヤはイスラム教の宗派の1つであるが、異端と見做されておりパキスタンでは迫害の対象となっている。彼女の短編ドキュメンタリー"298-C"はそんな迫害によって世界中に離散したある一族が再会を果たす姿を描き出した作品である。そこからはアフマディーヤの過酷な歴史の一端が見えてくる。ちなみに題名の"298-C"は彼らを弾圧する通称"反アフマディー法"を指している。

Los ingrávidos ロス・イングラビドス (メキシコ)
メキシコを拠点に活動する映像集団。まるで破壊された液晶画面に映る極彩色の狂気のような、見ていると脳髄が溶けていく実験映画を多く製作している。描かれる過激な抽象絵画は、観客を激烈な思索へと誘うだろう。数ある実験映像集団でも、指折りの狂熱ぶり。公式vimeoから多数の作品が鑑賞可。

Zoljargal Purevdash ゾリャルガル・プレヴダシュ (モンゴル)
モンゴル出身ながら、日本の桜美林大学でも学んでいた期待の映画作家。2010年には桜美林の卒業制作として「街の上、空の下」を監督、その後はモンゴルに戻り短編"Bungundy"(2013)や"Outliers"を製作する。最初は普通の劇映画を監督していたが、だんだんと実験的な側面が強くなってきている。現在は初長編"If Only I Could Hibernate"を準備中。

Phạm Ngọc Lân ファン・ゴック・ラン (ベトナム)
東京でもその作品が上映されている、ベトナム映画界期待の新人監督。最新短編"Một Khu Đất Tốt"は郊外の砂丘で繰り広げられる奇妙な人間関係を描き出した作品。優雅な長回しで綴られる物語は、禅的な問答を誘う。今作はベルリン国際映画祭でも上映された。

Sara Nanclarez サラ・ナンクラレ (コロンビア)
老人トニョはコロンビアの港町で漁師をしている。彼の親族はみな海で消息を絶っている故に孤独だ。ルスという想い人は居ながらも、頑固な性格のせいで距離は近づいていかない。そんな中で、彼は海失踪した弟の姿を目撃するのだが……1人の老人の生き様を繊細に描き出した短編"Todos los peces que maté"カルタヘナ映画祭で話題を博した。

Hanis Bagashov ハニス・バガショフ (北マケドニア)
2000年生まれ、正に2020年代に巣立っていくだろう北マケドニアの若き才能。2015年製作の"Faces"北マケドニアの辺境の村が舞台、この村に生きる人々の日常を通じて国の明と暗を描き出していく作品だ。最新作は2018年製作"Mishko"、現在未だ19歳である。
インタビューはこちら→北マケドニアに生きる~Interview with Hanis Bagashov

Joanna Cristina Nelson ホアンナ・クリスティナ・ネルソン (ベネズエラ)
経済的に深刻な状況が続くベネズエラ、そこでとある母子が暮らしている。母が香水を欲しいと求めるので、息子は雑貨店を経営する友人の元へ行くのだが……ニュースでもその惨状が伝えられるこの国の現実を描き出した"Harina"がウエルバ映画祭で最高賞を獲得するなど話題になる。現在は長編デビュー作を製作中。

Carlo Francisco Manatad カルロ・フランシスコ・モナタッド (フィリピン)
激しい嵐に見舞われたフィリピンのある街、そこでは様々な人々がそれぞれの想いを抱えながら、日々を生きていた。フィリピンに根づく豊かで色とりどりの文化を実験的な作劇で描き出した作品が彼の最新短編"Baga't Diri Tuhay Ta't Pamahungpahung"だ。トロントで上映され、話題を博した。

Kim Schneider キム・シュナイダー (ルクセンブルク)
土の中から植物を生み出すことのできる少女、手のひらから炎を出すことのできる少年。ある時2人は出会い、互いの不思議な力に魅了され、恋に落ちる……少し不思議なロマンスを描き出した"And Then You"が代表作。色とりどりの想像力が飛翔する様を楽しむことができる。

Raed Alsemari ラエド・アルセマリ (サウジアラビア)
大事なパーティの日、従業員たちが全員ボイコットを起こして逃げてしまう。苦境に陥った邸宅の主ドゥニャは友人たちを従えて、何とかパーティをものにしようと奮闘する。そんな様を軽快な笑いのセンスと共に描き出した"Dunya's Day"が代表作。今作はサンダンス映画祭において審査員賞を受賞するなど広く話題となった。

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Sajra Subašić サイラ・シュバシッチ (ボスニア)
監督の家族はサラエボ紛争の戦火を逃れて、ドイツで長い事暮らしていた。そんな中で監督はボスニアへと戻り、かつて両親が住んでいた家へと赴く。そこでの想いを呟きながら、ボスニアの現在を眺める短編"Gomila materijala"が最新作。サラエボ映画祭で審査員賞を獲得することになった。

Eileen Cabiling アイリーン・キャビリング (フィリピン/アメリカ)
フィリピンとアメリカのミックスであり、2つの国を股にかけながら作品を作っている人物。最新短編"Basuero"はドゥテルテ政権の麻薬戦争を背景として、その被害者たちの死体を遺棄することを余儀なくされた漁師の若者の姿を描いている。すさまじく鮮烈で息苦しく、今作を観ている時、私たちはまるでマニラの闇深い奥を旅しているような心地になるだろう。

Ivana Vogrinc Vidali イヴァナ・ヴォグリンツ・ヴィダリ (スロヴェニア)
スロベニアの奥地では、現在でも古くから伝わる宗教的な儀式が執り行われている。今作"O luni, mesecu in njunem odsevu"はその儀式について、スロヴェニアに広がる荘厳なる自然を背景としながら描き出すドキュメンタリー作品だ。1997年生まれで、2014年から実験的なドキュメンタリー作品を作り続けている。
インタビューはこちら→スロヴェニアの豊穣たる大地を行く~Interview with Ivana Vogrinc Vidali

Kostis Charamountanis コスティス・ヒャラムーンタニス (ギリシャ)
コンスタンティノスとエルサ、彼らきょうだいは熱い熱い夏を愉快に爆発的に楽しもうとする。そんな大騒ぎ的な様を実験映画的な手法で描き出した作品が"Kioku before summer comes"だ。撮影機器は古いビデオながら、方法論は音楽ジャンルでいうVaporwaveのそれであり(字幕で意味不明な日本語を使う辺りも完全にそうだ)、暴力的なまでの郷愁を味わうことができる。

Adriana Barbosa アドリアナ・バルボサ (ブラジル/メキシコ)
主人公はニューヨークに生きるトランス女性、彼女は来たるべき式典の為に仲間であるメキシコ移民たちと準備を進めるのだったが……1人のトランス女性の逞しき姿を通じて、アメリカに根づくメキシコ文化を描き出すドキュフィクション"La flaca"が最新短編。メキシコとブラジルの文化を横断しながら、映画を製作し続けている。

Héctor Silva Núñez エクトル・シルバ・ヌニェス (ベネズエラ)
テン年代に入り、俄に頭角を表し始めたベネズエラ映画界の新人作家その2。何故か乳首なしに生まれるという不条理に見舞われた青年ハイロ、彼はそれを取り戻すために手術をしようと決意するのだが……1人の青年の彷徨を柔らかな映像と共に描き出した作品がこの"El destetado"だ。

Wassim Geagea ワシム・ジャアジャア (レバノン)
ベイルートを拠点とする映画作家。最新短編"Ome"は母を失ったばかりの少年が主人公。彼はキリストに母が戻ってくるようお願いするが、彼女はもう戻ってこない。業を煮やした彼は聖母像を盗み出すのだが、それが村に騒動を巻き起こす……レバノン人と宗教の難しい関係性を1人の子供の目から描き出した作品だ。

Kovács István コヴァークス・イシュトヴァーン (ボスニア/ハンガリー)
ハンガリーボスニア人という少数派として、育った映画作家。短編"Ostrom"は1994年ボスニア紛争下のサラエボで逞しく生きようとする中年女性の姿を描き出した作品だ。外に水を汲みにいくだけで狙撃酒に狙われる状況で、彼女は恐怖と哀しみに心を蝕まれながら、独り生きる。監督はそんな彼女の苦闘を、寒々しい叙情性と息詰まる臨場感を以て綴っている。

Lucia Kašová ルチア・カショヴァー (スロヴァキア)
過渡期にある都市ブラチスラヴァ、摩天楼が建設される中でその麓に広がる風景に思いを馳せる……東欧の一都市であるブラチスラヴァの過去と現実を詩的に描き出す短編"Concrete Times"が現時点での代表作。現在は長編ドキュメンタリー"The Sailor"を製作中。

Zhanna Ozirna ジャンナ・オジルナ (ウクライナ)
オデッサ国際映画祭に選出された彼女の最新短編"The Adult"は、仲間たちのマッチョな価値観に馴染むことができない少年の直面する暴力の連鎖を通じて、ホモソーシャル的な共同体の毒性や恐ろしさを描き出した作品だ。暴力の先には何とも言えない苦い余韻が待っている。映画祭のプログラマーとしても活躍している。

Austėja Urbaitė アウステヤ・ウルバイテ (リトアニア/フランス)
ボートに乗り仲睦まじく会話する男女、しかし少女の方はフランスへの移住を控えていた……少年少女の淡い恋心と別離の哀しみを繊細な形で描き出した作品が"Tiltai"だ。現在は初長編を準備中。メッセージを送ったら色々なリトアニア映画を教えてくれたので、優しい。

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Irene Moray イレーネ・モライ (スペイン)
1組のカップルは友人たちと共に避暑地のコテージで休暇を楽しんでいた。だが彼らにはある悩みがあった。彼女がセックスでオーガズムに達しないのだ……カップルの不安定な関係性を繊細な筆致で描き出す作品が彼女の最新短編"Suc de síndria"だ。スペイン映画界期待の星であるElena Martinも主演を果たしている。

Moldovai Katalin モルドヴァイ・カタリン (ハンガリー/ルーマニア)
ルーマニア出身のハンガリー人作家。ある日、娘は母親が末期がんであることを知る。娘は彼女がそのことで苦悩しないよう、医師と共に嘘をつくことになるのだが……1つの嘘が女性たちの人生を少しずつ変えていく姿を描いた作品が今作"Ahogy eddig"だ。感情の機微、人生の複雑さというものが繊細に描き出されている。

Vytautas Katkus ヴィタウタス・カトクス (リトアニア)
息子は久しぶりに故郷のリトアニアへ帰ってくるが、父との関係はあまり良くない。というより父は息子に無関心なのだ。そんな中、近所で火事が起こり、彼らはそれを見に行くのだが……"Kolektyviniai sodai"は父と息子の微妙な関係性を、妙に弛緩した浮遊感とそこはかとない不穏さと共に描き出している。何とも忘れがたい余韻を残す一作で、カンヌ批評家週間にも選出されている。

Ivana Bošnjak イヴァナ・ボシュニャク (クロアチア)
女性は動物の死体を剥製にすることを生業にしていた。だが本当の目的は死体の中に隠されている"フィルム"を手に入れることにあった……自然と人間の関係性を、奇妙な質感を持つアニメーションで描き出した"Udahnut život"が代表作。ザグレブを拠点とするクロアチア期待のアニメーターだ。

Zgjim Terziqi ズジム・テルジチ (コソボ)
アナは盲目の中年女性だ。彼女は4人の姉妹を盥回しにされながら、日々を何とか生き抜いている……1人の女性の姿を通じて、コソボの困窮した現状を描き出す短編作品"A month"が代表作。現在は新作短編であるブラックコメディ"Salon"が世界各地の映画祭を巡回中である。

Mercedes Arturo メルセデス・アルトゥーロ (アルゼンチン)
ファッションデザイナーからキャリアを始めた美術系映画作家。1人の歌姫が大舞台に臨むこととなるが……という導入から思わぬ飛躍を見せるミュージカル・コメディが彼女のデビュー長編"Traviata"だ。現在VR作品から長編作品まで多数の計画を進行中。今後が楽しみなアルゼンチン人作家。

Gregor Valentovič グレゴル・ヴァレントヴィチ (スロヴァキア)
4人の男女は若い頃からいつも一緒に過ごしていた。しかし結婚や国外移住などで彼らは離れ離れになってしまう。その中の1人である青年はこの現実をどうにも受け入れることができなかった……短編作品"Kid"は20代の男女が抱く曖昧な不安や哀しみを描き出した作品だ。

Veronica Balduzzi ベロニカ・バルドゥシ (アルゼンチン)
アルゼンチンの新鋭実験作家。監督の公式vimeoにアップしてある短編作品"Espera""En busca de un rostro"は、ブエノスアイレスを舞台として様々な風景とそこに生起する音を組み合わせて綴られる詩のような趣を湛えている。

Ivan Orlenko イヴァン・オルレンコ (ウクライナ)
東欧のユダヤ人コミュニティに生きる少年は、ある時シナゴーグに謎の生物がいるのを見つける。彼は好奇心に駆られて、その生物を追ってシナゴーグの中を彷徨うのだったが……フランツ・カフカによる未完の作品が原作である”In Our Synagogue”は在りし日のユダヤ文化を描き出した作品であり、イディッシュ語が使用されている珍しい作品でもある。

Laida Lertxundi ライダ・レルチュンディ (バスク/アメリカ)
アメリカ実験映画界の大家ピーター・ハットンペギー・オーウィッシュに師事した気鋭の実験映画作家。拠点とするロサンゼルスを描き出した"Cry When It Happens"(2010)、自身"抽象的自伝映画"と呼ぶ"025 Sunset Red"(2016)、ラウル・ルイスの映画論"For a Shamanic Cinema"を引用した最新作"Words, Planets"などが代表作。

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Jeannette Muñoz ジャネット・ムニョス (チリ/スイス)
16mmフィルムを使って映画を製作し続ける、スペインで特集上映も行われた気鋭の実験映画作家。主にチリにおける人間と自然の関係性を描き続けており、例えば2010年製作の"Envío 24"ではチリの先住民族が辿った苦難を人類学的な見地から描き出した作品で、この一連の"Envío"シリーズは現在も続いている。監督公式vimeoから作品の抜粋が試聴可能

Saeed Jafarian サイード・ジャファリアン (イラン)
「アンダー・ザ・シャドウ」ババク・アンヴァリに続くだろうイランホラー映画界期待の星。最新短編"Umbra"は1人の女性が主人公、恋人が帰ってこないのを心配した彼女は独りで外へ出かけるのだが……優雅なまでに不気味な撮影、悍ましいまでに空っぽな街並み、観客を震えさせる雰囲気。それらが美しく織りあわされ、見事なホラー作品が生まれている。

Jorge Sesan ホルヘ・セサン (アルゼンチン)
当初は俳優として活躍しながらも、映画作家としても活動を始めた新進監督。最新短編"Los aridos"はアルゼンチンの広大な荒野が舞台。ここを歩き続ける2人の男女の微妙な関係性を、荒涼として崇高な自然を背景としてユーモラスに描き出している。カルタヘナ国際映画祭で上映され、好評を博した。

Florian Fischer&Johannes Krell フロリアン・フィッシャー&ヨハネス・クレル (ドイツ)
影というものは光あるところに必ず現れる。世界の営みとはすなわち影と光の縺れあいなのだ。彼らの短編作品"Umbra"はそんな世界に欠かすことならざる存在である影を、様々な形で描き出す祝福する実験映画である。その尖鋭さが認められてか、今作はベルリンで短編金熊賞に輝くという名誉に浴した。

Signe Birkova シグネ・ビルコヴァ (ラトビア)
ラトビアはリガ出身の新鋭映像作家。青年は宇宙人に連れ去られた後、正気と狂気の狭間を彷徨う生活を送り始める。ある日彼は1人の科学者と出会いこのトラウマの深部へと潜行していくこととなるのだが……奇抜な設定と独特の美意識に裏打ちされた実験的な短編作品"Viņu sauca Haoss Bērziņš"が現時点での代表作。

Ajitpal Singh アジトパル・シン (インド)
2人の少年は境遇が違うながらも、サッカーへの愛で結ばれていた。しかし1人が新しい靴を手にしたことから、その友情が試されることとなる……彼の監督作"My Friend's Shoes"は身分の格差などインドにおける諸問題を2人の少年の目から描き出した作品だ。だがどんな障壁があろうとも友情は永遠だと教えてくる。

Laurynas Bareiša ラウリナス・バレイシャ (リトアニア)
外国からリトアニアへと帰ってきた母と娘、そして彼女らを迎える祖母。彼女らの間に満ちる微妙な雰囲気は娘の失踪によって緊張感を増していく。1つの欠落からリトアニアの荒涼たる現実が浮かび上がる短編"Caucasus"は、この若きリトアニア人監督が現代に蔓延する不穏の語り手としての実力を証明している。

Nazlı Dinçel ナズル・ディンチェル (トルコ/アメリカ)
アメリカの豊かな実験映画史の最先端に位置する映像作家。2018年製作の"Between Relating and Use"ローラ・U・マーカスドナルド・ウィニコットの著作を引用しながら、文化や身体性への洞察を深めていく1作。テキストと映像詩が美しく重なり合いながら、唯一無二の実験映画が創り出されている。

Peter Cerovšek ペーテル・チェロヴシェク (スロヴェニア)
自宅の窓からはホテルの建設現場が見えてくる。監督はそれを撮影し始めた。歩く作業員、移動する鉄骨、現場の周りを歩く通行人たち。彼は恋人と他愛ない会話を繰り広げながら撮影を続けるが、時と共に全てが変わっていく。思索的なドキュメンタリー"Fundamentali"を筆頭に、彼は静かにスロヴェニアの今を見据えていく。

Senad Šahmanović セナド・シャマノヴィチ (モンテネグロ)
旧ユーゴ圏に属する小国モンテネグロ出身である映画作家。2018年製作の短編"Put"はユーゴ紛争が原因で故郷を離れた中年男性が主人公、病によって人生が残り少なくなったその時、彼は故郷に戻り救いを追い求めることとなる……繊細な描写から豊かな感情が溢れだしてくる美しい作品だ。現在は初長編"Sirin"を製作中。

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Vasilis Kekatos ヴァシリス・ケカトス (ギリシャ)
中年男性マキスは、ある朝、友人から自分が死んでしまい明日には葬式が行われるということを聞く。自分が死んでないことを証明するために、彼は村中を駆けまわるのだが……彼の最新短編"The Silence of the Dying Fish"は正にギリシャの奇妙なる波正統派といった趣で、奇抜な設定でシュールな笑いを生みだしている。アテネ国際映画祭で賞を獲得するなど話題になった。

Letiția Popa レティツィア・ポパ (ルーマニア)
ルーマニア映画界期待のドキュメンタリー作家。彼女の短編作品”Marie”は、ドナウ川沿いに位置する小さな村が舞台。監督はここに住む1つの家族の日常を丹念に描き出していく。中でも家族の長女であるマリアはきょうだいの世話に追われるなど、最も辛い状況にある人物で、物語が進むにつれ監督の眼差しは彼女に注がれていく。ルーマニアに広がる日常の美が印象的な作品である。
インタビューはこちら→ルーマニア、日常の中の美しさ~Interview with Letiția Popa

Leon Lučev レオン・ルチェフ (クロアチア)
俳優出身ながら映画作家としても活動を始めた人物。初短編"Malo se sjećam tog dan"の主人公は中年男性ゴラン、彼は娘の誕生日パーティーを直前に控えていたが、家族からの電話で父が危うい状態に居ることを知る……静かな作品ながらも、その裏側には親の死への哀しみや家族への暖かな愛など、深く複雑な感情が横たわっている。それらを繊細に描き出す監督の才覚は本物だろう。

Camille Tomatala カミーユ・トマタラ (スイス)
14歳のルシー、彼女の母は病院で詩を迎えようとしている。1人の彼女は孤児院へと預けられるのだが、不満や怒りを露わにし続ける。だが庭師である青年ヤニスと会った時、彼女の心は変わっていく……1人の少女が生と死を見つめる短編作品"Zenith"が彼女の代表作。

Malu Janssen マル・ヤンセン (オランダ)
双子の姉妹はある集団セラピーへと赴く。そこで発覚するのは妹が姉の束縛から逃れたいという悲しい真実だった……インテリア・コーディネーターである女性の自宅が泥棒によって荒らされてしまう。友人たちの助けもあり家は奇麗になるが、彼女は深い喪失感の正体が分からないでいた。女性たちの繊細な心を、空間への尖鋭なセンスとともに描き出す作品群"Eigen"(2016)と"Stuffs"(2019)が代表作の、オランダ気鋭の映画作家

Adi Voicu アディ・ヴォイク (ルーマニア)
年間長編映画製作本数20~30本、しかし短編製作数は膨大でその層はすこぶる厚い。そんな中でも注目の作家が彼。最新短編"Ultimul drum spre mare"はバカンス地に向かう列車が舞台、乗客たちが会話を繰り広げるうち禍々しい何かが彼らに迫りくる……不気味な予感が全編に満ちる奇妙な短編はカンヌ批評家週間にも選出されるなど話題になった。

Rajesh Prasad Khatri ラジェシュ・プラサド・カトリ (ネパール)
ネパールの山間部、ある日そこに珍しい白人が来たことからパニックが起こる。そんな中で牛飼いの少女が彼の落としたストローを拾い、宝物を独り占めしたくなり……少女の無邪気な好奇心の行方を、ネパールの崇高なる風景の数々と共に描き出した作品。ベルリンのジェネレーション部門で審査員賞も獲得している。監督がプロダクション・デザイン出身とあって、画力は抜群。長編作ったら大化けは間違いない。

Lucija Mrzljak ルチヤ・ムルズリャック (クロアチア/エストニア)
クロアチアエストニアを股にかけて活躍する映画作家。1人の中年男が女性の股から生まれたことで起こる騒動を描いた作品"Briljantsuse Demonstratsioon Neljas Vaatuses"が最新作。頗る奇妙なアニメーションに不気味なのに笑える展開に、と変な要素がてんこもりだ。

Felipe Gálvez フェリペ・ガルベス (チリ)
都会の真ん中で起きたスリ事件が、人々の生活に不穏な細波を起こす様を不気味に描き出した短編作品"Raptor"は、観客たちに倫理についての思索を深めさせる1作だ。スマートフォン的な画角によって息苦しい臨場感が高まる様を目撃させられる。現在はトリノ・フィルム・ラボに参加、初長編を準備中である。19世紀末から20世紀初頭にかけてのチリを描き出した作品だそう。

Maddi Barber マッディ・バルベル (バスク)
ピレネー山脈の麓では90年代に巨大ダムが建設され、そのせいで環境が激変してしまった。その後に広がる人間と環境や動物たちとの環境を描き出したドキュメンタリー作品が"592 Metroz Goiti"だ。バスク地方に根差した文化を描き出す作品を多く製作している。

Jurgis Matulevičius ユルギス・マトゥレヴィチウス (リトアニア)
地下世界に住む2人の狂人の姿を追った実験的な異色作"Absurdo žmonės"、あるアパートの住民の奇妙な生態を追った短編"Anima amus"などで頭角を表し始めたリトアニア人作家。デビュー長編は2019年のタリン・ブラックナイト映画祭でお披露目予定だという。 監督の公式vimeoから作品が鑑賞可。
インタビューはこちら→リトアニアの裏側にある狂気~Interview with Jurgis Matulevičius

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Joshua Gen Solondz ジュシュア・ジェン・ソロンズ (アメリカ)
日本でも作品が何本か紹介されているアメリカ気鋭の実験作家。ロカルノでお披露目された最新作"(tourism studies)"は、10年間で撮影されたホームビデオの集積が、猛烈なまでに極彩色を輝かせる超新星の瞬きへと変わる。この暴力的な変形は別次元に存在する芸術を目の当たりにするかのよう。

Irfan Avdić イルファン・アヴディッチ (ボスニア)
主人公である青年アレムは祖母と貧困に喘ぐ生活を送り続けている。そんな彼は学校で開催される旅行の代金が払えず苦悩するが、その果てにある凶行に打ってでることとなる……社会に追い詰められる弱者の構図、それが生みだす暴力の行く末を描き出した"Majkino Zlato"が彼にとっての代表作だ。

Martin Gonda マルティン・ゴンダ (スロヴァキア)
少年ロマンは家庭でも学校でも疎まれ、辛い生活を送っている。どこにも逃げ場のない彼に、救いは存在するのか……苦境にある少年の眼差しを通じて、スロヴァキアの田舎町に広がる逼迫した状況を描き出した代表作が"Pura vida"、カンヌのシネフォンダシオン部門に選出され話題となった。

Aleksey Lapin アレクセイ・ラピン (ロシア)
ロシア生まれだが、ヨーロッパ各地で作品製作を行う映画作家。最新作"100 Eur"はオーストリアに住むルーマニア人移民の兄弟が主人公、彼らの苦闘を通じて、現在のヨーロッパにおいて最も大きな問題である移民問題を描き出している。アンジェ国際短編映画祭で作品賞を獲得。

畠山佳奈 ハタケヤマ・カナ (日本/アメリカ)
現在アメリカを拠点に活動している映画作家。彼女の短編作品"Okaasan (mom)"は日本を舞台とした作品で、外国から帰ってきたばかりの娘と彼女をずっと待っていた母が、大切な人の死を想いながら再び交流をするという作品。日本の原風景の根づいた土地を背景にした繊細さが印象的。俳優として「オレンジ・イズ・ザ・ニュー・ブラック」にも出演している。

Diego Céspedes ディエゴ・セスペデス (チリ)
1人の少年が姉と共に、ある男の元へと向かう。彼女はその男の7人目の花嫁となる運命だった……彼の代表作"El verano del león eléctrico"は何かの終わりを静かに、だが黙示録的に描き出した作品だ。美しくありながらも不穏であり、複雑な感情が喚起させられる詩的一作だ。

Elene Noveriani エレネ・ノヴェリアニ (ジョージア/スイス)
スイスを拠点に活動するジョージア映画作家。主にクィア的な主題を描いているが、新作短編"Red Ants Bite"は幸せを求めてジョージアへと移住した2人のナイジェリア男性、彼らの間に現れる微妙な関係性を描き出した作品。移民や同性愛といったイシューが繊細に描かれている。

Nikolas Kolovos ニコラス・コロヴォス (ギリシャ)
スウェーデンギリシャを股にかけながら映画を製作している人物。最新作"Index"はヨーロッパにおける移民問題を反映した短編で、過酷な現実をミニマルな演出と力強い長回し映像で描き出している。今作は、2020年のヨーテボリ映画祭で観客賞を獲得した。

Moira Lacowicz モイラ・ラコヴィチ (ブラジル/アルゼンチン)
実験映画が隆盛するラテンアメリカで活躍する新鋭映画作家。2018年製作"Let's Take a Walk"はおそらく監督自身の家族によるホームビデオを再構成し美しく神秘的な風景を綴った作品、そして2019年製作の"Lich Every Drop"は近年発掘されたポルノ映画のフィルムを使い不穏な黙示録を描き出した作品。どちらもある種の郷愁を他の何かに変容させる手つきに満ちた作品。

Chelsie Preston Crayford チェルシー・プレストン・クレイフォード (ニュージーランド)
俳優としてもニュージーランドで活躍する映画作家。最新短編"Falling Up"はシングルマザーの女性が主人公。彼女は子育てに悩み、その精神はだんだんと崩壊していく……自身が主演も兼任した本作は、シドニーメルボルン映画祭で上映され、話題となった。

Maja Novaković マヤ・ノヴァコヴィッチ (ボスニア)
ボスニアのスレブレニツァ出身、セルビアで美術史を学んだ後、映画作家になる。彼女の最新作"A sad se spušta veče"ボスニア東部の小さな村を舞台に、身を寄せ合いながら生きる2人の女性の姿を描き出したドキュメンタリー。飾らない、ありのままのボスニアの美しさを直接感じることができる1作だ。
インタビューはこちら→ボスニアの大地に立つ2人~Interview with Maja Novaković

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Carla Melo カルラ・メロ (コロンビア)
実写とアニメーションを行き来しながら作品を製作する映画作家。最新のアニメーション短編"Por ahora un cuento"は、コロンビアを彷徨う1羽の鳥がめぐる奇妙な旅路を描き出した作品。ユーモラスでありながらどこか不気味さも感じさせる独特のアニメーションが特徴的、生というものへの複雑な感情を喚起してくれる。

Agustina San Martin アグスティナ・サン・マルティン (アルゼンチン)
発電所からあのサイレンの音が鳴り響く時、誰かが消え去る……神として屹立する発電所の存在が、近隣の村を不穏なる脅威で包み込む。そんな不気味な物語を無機質な断片の数々で以て描き出した短編"Monstruo dios"が現時点での代表作、カンヌにも選出されている。初長編"The Abysses"は既に撮影完了、上映が待たれる。

Wiep Teeuwisse ウィープ・テーウウィッセ (オランダ)
人々はバスに乗って、観光地へと赴く。自撮りをして、地面に寝そべり、金属探知機で何かを探し……最新短編"Intermission Expedition"は観光客たちの奇妙な生態とその行く末をカラフルなアニメーションで描き出した作品だ。1993年生まれながら既にアヌシー国際映画祭の常連で、2016年製作の"Depart at 22"は最高賞を獲得している。

Anu-Laura Tuttelberg アヌ=ラウラ・トゥッテルベルグ (エストニア)
メキシコの原生林を舞台に、生と死が踊り狂う様を奇妙なアニメーションで以て描き出した"Talv vihmamentsas"が代表作。不気味さと精密さを兼ね備えた印象的なアニメーションは、彼女の明るい将来を予言しているだろう。

Cecilia Ștefănescu チェチリア・シュテファネスク (ルーマニア)
最初は小説家として活躍しながらも、テン年代から映画作家に転身した人物。最新短編"Morski briz"は60歳の女性が主人公、彼女がバカンス地で若い男と肌を重ねたことから起こる騒動を描き出した作品。老いゆえの孤独と残酷さを繊細に美しく綴っている。

George Sikharulidze ゲオルゲ・シカルリゼ (ジョージア)
スターリン63回目の命日、ジョージアのある町では彼を聖人に列挙するための記念式典が行われていた。その最中、人々は紛れもないスターリンその人の姿を目撃することとなる……ジョージアの知られざる歴史と暗部を、現代の奇妙な寓話として描き出した"Fatherland"サンダンス映画祭にも選出され話題に。重苦しく謎めいた余韻を与える1作だ。

Edison Sánchez エディソン・サンチェス (コロンビア)
1人の少年が暖かな空気の中で目を覚ます。彼は愛用のリアカーに乗って、いつものように村を駆け抜ける……愛らしい少年の何気ない、だからこそ大切な日常を優しさを以て描き出した短編作品"Yover"が現時点での代表作。たった14分の短編だが、その心地よさにはこの世界を永遠に見ていたくなること請け合い。

Magdalena Froger マグダレナ・フロガル (スイス)
2人の少年少女が街中を、森の中を歩き続けている。その果てに、夜の闇の中で彼らは巡りあう……最新短編"Abigaïl"は2つの孤独な魂の彷徨を描き出した実験的短編。情報量を極限まで排した映像には生の詩情が宿ることとなる。その様は正に魔術的としか言い様がない。

Carol Nguyen キャロル・グエン (カナダ/ベトナム)
カナダとベトナム、2つの国を行き来する映画作家。最新短編である"No Crying At The Dinner Table"は自身の両親と姉へのインタビューで構成された作品。彼らが心に秘めていた過去や死、そして愛についての声が日常の何気ない風景と重なり合う様は印象的だ。トロント映画祭で上映され、話題となった。

Samir Karahoda サミール・カラホダ (コソボ)
写真家や映画祭のプログラマーとして活躍しながら、近年になって映画製作にも進出し始めたコソボ映画界期待の人物。最新短編"Në Mes"は海外へ移住していった子供たちへの親たちの思いを、コソボの大地に立つ家々の姿から浮かび上がらせるドキュメンタリー。写真家らしい精緻な構成からは、コソボの苦難に満ちながらも、豊かな歴史と文化が現れる。

Marcela Ilha Bordin マルチェラ・イラ・ボーディン (ブラジル)
1人の人類学者がブラジルのアマゾンへと赴く。彼の目的は不遇の科学者によって人工太陽が輝き続けることとなった呪いの場所だった。そんな彼の旅路を幻想的な筆致で描き出す作品がこの"Princesa Morta do Jacuí"だ。ジャングルの旅はまるで月を旅するかの如く不穏で美しい様相を呈し始める……

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Curtis Essel カーティス・エッセル (ガーナ)
ガーナを拠点とする映画作家"Sodom & Gomorrah"はこの国の有名な都市ジェームズタウンに生きる娼婦やギタリストなど4人の住民、その生きざまを彼らの証言を通じて描き出したドキュメンタリー。ここにおいて言葉はまるで音楽のようであり、今作を観るというのは魅惑的かつ催眠的な体験に近い。アメリカのKharik Allah作品を彷彿とさせるものがあるだろう。

Tóth Luca トース・ルカ (ハンガリー)
1人の男性、彼の脇の下にあるニキビから1体の小人が生まれる。それは部屋に潜伏し、男性の生態や身体を調査し始めるのだったが……短編作品"Mr. Mare"は奇妙な設定や色とりどりのアニメーションと共に、人間の身体や男性性を繊細に描き出している。そこから醸し出されるクィアな愛も印象的だ。

Pinar Yorgancıoğlu ピナール・ヨルガンジュオール (トルコ)
トルコとドイツを拠点とする映画作家。彼女の最新短編"Ms. Nebile's Warmhole"は1人の専業主婦が主人公、退屈な日常に嫌気が差した彼女は家にトンネルを作り、隣家へと侵入する。そこで写真家の男と出会い……今作はとある女性の冒険を笑いや官能性と共に描き出している。現在デビュー長編を準備中である。

Makbul Mubarak マクブル・ムバラク (インドネシア)
ハリムは敬虔なイスラム教徒であり、2人目の妻を娶ったばかりだ。彼はこれを慈善事業なのだと主張するが、第1夫人はそれに猛烈に反対する。しかし娶ったはいいがこの状況を上手くコントロールできず……マレーシアの複雑な文化と、男性性の繊細さや毒性を詳らかに描き出した作品が2017年製作の"Ruah"だ。現在はデビュー長編を準備中。

Roni Bahat ロニ・バハット (イスラエル)
父と息子は1頭の馬と共に、イスラエルの街中を彷徨い歩く。そこで得られるものは一体何なのだろうか……父と息子の日常の風景や複雑な関係性を、郷愁深い映像美と共に描き出した作品が、短編デビュー作"Old Thing"だ。この卓越した雰囲気が長編へ拡張された時、どうなるか楽しみである。

Hira Nabi ヒラ・ナビ (パキスタン)
パキスタンアメリカを股にかけて活躍する映画作家。最新短編はドキュメンタリー"All That Perishes at the Edge of Land"、今作はパキスタンの港で解体されていく貨物船の姿を、それに携わる労働者の語りとともに詩的に描き出していく作品。解体されていく貨物船の姿に、諸行無常という言葉を深く思い知らされる。

Nevena Desivojevic ネヴァナ・デシヴォイェヴィチ (セルビア/ポルトガル)
セルビア出身、ポルトガルリスボンを拠点に活躍している映画作家。彼女の短編”Napolju cvetaju narandže”ポルトガルの寒村を舞台として、人間と自然の営みを豊かな筆致で以て描き出した作品。その中でもカメラは1人の中年男性を追っていき、彼が抱く苦悩の数々からこの関係性の複雑さを浮き彫りにしていく。

Kostis Theodosopoulos コスティス・テオドソプロス (ギリシャ)
元々はアテネ国際映画祭でプログラマーとして活躍していたが、映画監督に転身し、初短編"Rouz"を製作する。今作の主人公たちはギリシャに広がる家父長制にそれぞれの形で反旗を翻す少女たち、中でも印象的なのは赤毛の少女役Sofia Kokkaliで、顔には残酷な現実への不満が満ち渡りながら、同時に反抗の活力も刻まれている。

Lasse Linder ラッセ・リンダー (スイス)
1994年生まれ、チューリッヒ大学で映画製作について学んだ人物。卒業制作である短編„Nachts sind alle Katzen grau”は2匹の猫と暮らす中年男性クリスティアンの姿を静かに追った作品。撮影スタイルは怜悧で観察的だが、あまりにも仲が良くデレデレなクリスティアンの姿からは愛おしさが溢れてくる。小品ながらも、親密な1作だ。

Chintis Lundgren シンティス・ルンドグレン (エストニア)
夫はクビになったことをきっかけに、自身の肉体を駆使してジゴロやポルノ男優として活躍し始める。一方で妻は妊娠時の疲労を解消するためSMにのめり込み始める……現代に生きる男女の不満をユーモラスに描き出した"Toomas beneath the valley of the wild wolves"が代表作だ。

Erlendur Sveinsson エルレンドゥル・スヴェインッソン (アイスランド)
1組のカップルが車でアイスランドの道路を走っている。彼らの間には険悪なムードが漂っているのだが、その状況が一瞬にして激変してしまう……繊細な関係性についての思索から、激烈な生存闘争へと一転する劇的な短編作品"Kanari"が現時点での代表作。現在は長編作品を準備中。

Davit Pirtskhalava ダヴィト・ピルツカラヴァ (ジョージア)
1987年トビリシ生まれ、大学で脚本執筆について学んだ後、映画監督としての活動を始めた。初制作の短編作品"Father"ロカルノ国際映画祭で作品賞を獲得した。最新短編"Sashleli"ジョージアの日常に根差した荒涼として豊かな詩情を以て、1人の中年男性と彼の周囲に広がる風景を描き出したミステリアスな作品だ。

Adinah Dancyger アディナ・ダンサイガー (韓国/ポーランド/アメリカ)
韓国とポーランドのミックス、現在はニューヨークを活動拠点とする映画作家。最新作の"Moving"は引っ越し先の部屋にマットレスを運ぼうとする女性の姿を描いたそれだけの作品だが、彼女の姿からは怒りや悲しみ、不安、そういった複雑な感情が豊かに溢れてくる。たった8分間の中にそれらを凝縮することのできる今後期待の映画作家だ。

Sonia K. Hadad ソニア・K・ハダ (イラン)
イラン・テヘラン出身の映画作家、当初は数学やグラフィック・デザインについて学んでいたが、舞台俳優・小説家としての道を歩み始め、アメリカに留学してからは映画製作を始める。最新短編"Exam"はコカイン密輸を行う学生が思わぬ騒動に巻き込まれる様を、息もつかせぬ緊張感で描き出した作品だ。

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Sky Hopinka スカイ・ホピンカ (アメリカ)
影に黒く染まった手が、色とりどりのイメージの欠片を集めていく。その背後では緩やかな波動を伴ったバンドミュージックが流れ、そして1人の男がそう遠くはない過去について朴訥と語り始める……そんな繊細な感覚に裏打ちされた実験映画"Lore"ロカルノ映画祭で話題の気鋭作家。ネイティブ・アメリカンであるルイセーニョ族の血を引く人物で、アメリカの各地を舞台として作品を製作している。

Laura Huertas Millan ラウラ・ウエルタス・ミジャン (コロンビア/フランス)
コロンビアで1,2を争うだろう新進気鋭の映像作家が彼女だ。その作品群は"民族誌学的"と評されているが、最新短編である"El labirinto"はコロンビア南部のジャングルで一大勢力を築いたドラッグ王の栄枯盛衰を描いた一作。現在では荒廃した宮殿、ドラマ作品のフッテージ映像などのコラージュに当時を知る者の言葉が重なり、私たちは大いなる迷宮へと誘われることとなる。

Pedro Neves Marques ペドロ・ネヴェス・マルケス (ポルトガル/アメリカ)
ポルトガル出身、現在はニューヨークで活躍する映画作家。蚊を媒介とした不治の病が人類を殲滅しようとしている近未来、3人の男女はサンパウロの郊外で静かな時を過ごすのだったが……クィア的な繊細な雰囲気が、熱帯に満ちる黙示録的な予感へと接続されていく様は不気味だが魅力的だ。メロドラマ、SF、クィアもの。様々な要素を包括した野心的な1作が彼の最新作”A mordida”である。

Nadia Masri ナディア・マスリ (ルクセンブルク)
ジェシカ・ハウスナー作品などのスクリプターとして活躍しながら、映画作家としても活動する人物。2016年に製作された代表作"Aus den aen"アメリカの作家Richard Langeの短編が原作、平穏な家庭を築いた兄と刑務所から出たばかりの弟、2人の間に張り詰める緊張感を描いた作品。複雑微妙で、繊細な兄弟間の関係性が豊かに描かれていく。
インタビューはこちら→ルクセンブルク、兄弟の行く末~Interview with Nadia Masri

Malena Szlam マレーナ・ツラム (チリ/カナダ)
チリ出身、ラテンアメリカに広がる宏大な自然を舞台にした実験映画を製作する人物。最新短編"Altiplano"は山脈間に広がる標高の高い高原地域を舞台として、世界の始まりと黄昏、天国と地獄の季節を描き出した幻惑的な実験映画だ。彼女は黙示録を宿命づけられた世界に捧げる挽歌を作り続けているよう。

Diana Cam Van Nguyen ディアナ・カム・ヴァン・グェン (チェコ/ベトナム)
親が死ぬというのは人生においてどんな意味を持つのだろう。その時に心はどれほど大きな痛みに苛まれるのだろう。短編"Apart"は、そんな痛切な問いを、親との死別を経験した若者たちの語りを通じて描くアニメーションだ。絵の具の繊細な色遣いと濃厚な質感が、そこに親密さを与えてくれる。監督はベトナムチェコのミックスで、現在はプラハ芸術アカデミー映画学部に在籍。

Thanasis Neofotistos タナシス・ネオフォティストス (ギリシャ)
今話題のギリシャの奇妙なる波の最先端にいるだろう映画作家。最新短編"Patision Avenue"は舞台のオーディションに向かうシングルマザーが主人公、だが電話越しに息子が外へ出ていってしまったことを知り……というあらすじからは予想できない方向へと舵を切るストーリーテリングの巧みさには舌を巻く。クレルモン=フェラン短編映画祭で特別審査員賞を獲得している。

Pavel G. Vesnakov パヴェル・G・ヴェスナコフ (ブルガリア)
ゼウスと呼ばれる青年は父の死によって家族を支えなければならなくなってしまう。その最初の関門は父の葬式代を捻出することだった。彼は何とか金を掻き集めようと奔走するのだが……現代のブルガリア映画は隣国ルーマニアの影響を多分に受けたリアリズム描写が特徴的だが、今作は正にその系譜にある作品。そしてブルガリア独自の荒涼たる詩情もここには宿っている。

Eldar Shibanov エルダル・シバノフ (カザフスタン)
写真家である青年は、恋人が居ながらも満たされない生活を送っている。ある日彼は少女を自宅に招き入れるのだが、テロの戒厳令が出され2人は部屋に閉じ込められてしまう……抑圧された男性性の不気味な行く末を冷えた筆致で描き出した作品が"Sex, Strakh I Gamburger"ヴェネチア国際映画祭で上映され話題となった。
インタビューはこちら→カザフスタンの男と女~Interview with Eldar Shibanov

邱阳 チウ・ヤン (中国)
1989年生まれ、既に2015年製作の"小城二月"で短編パルムドールを獲得している中国の実力派作家。最新作である短編"南方少女"はダンススクールに通う少女ユウが主人公。コーチの徹底的なシゴキに耐えかねた彼女は静かに抵抗を始めるのだったが……厳格にして洗練された美意識に裏打ちされた物語は、中国の現在を静かに力強く映し出している。

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Victor Orozco Ramirez ビクトル・オロスコ・ラミレス (メキシコ)
"僕の祖母は確信していた。同じ間違えを2度繰り返す動物は、人間だけだと"――モノクロの荒々しい質感を伴ったアニメーションで以て、人間が犯す間違いの数々とその最たる存在であるインターネットについての洞察を深めていくのが、彼の短編作品"32-Rbit"だ。インターネット時代の過ちの数々がアニメで再現される様はひどく衝撃的だ。

Lia Tsalta リア・ツァルタ (ギリシャ)
植物がほぼ絶滅してしまった近未来、しかしある島では生き残った植物たちが博物館で展示されている。観光客たちは現在には失われてしまった生命を見に、その島へとやってくる……無機質で潔癖的な映像で以て綴られる、不気味なディストピアSF"O fovos"は、ギリシャの奇妙なる波が更なる隆盛を誇る未来を高らかに語っていると言えるだろう。

Zhannat Alshanova ジャンナ・アルシャノヴァ (ウズベキスタン/イギリス)
彼女の短編作品"End of Season"の主人公は50歳の女性ローサ、彼女は夫が所有するホテルへとやってくるのだが、彼女を包む孤独が癒されることはない。しかしこの場所で過ごし、人々と出会ううち、過去に秘めていた泳ぐという情熱が再び湧き上り始める……今作はカンヌ映画祭のシネフォンダシオン部門で上映されて話題となった。

Camila Kater カミラ・カテル (ブラジル)
ブラジルと英国で映画製作を学んだ人物。プロダクション・デザイナー、人形の操り師としても活動している。最新短編"Carne"は5人のブラジル人女性が自身の身体について語る様を、様々なアニメーションで描き出す一作。それぞれの形で身体について考え、それぞれの形で身体を愛そうとする様はすこぶる感動的だ。ロカルノトロント映画祭で上映され話題となった。
インタビューはこちら→私の身体、私の言葉~Interview with Camila Kater

Cristina Haneș クリスティナ・ハネシュ (ルーマニア/ポルトガル)
様々な国を股にかけて、ドキュメンタリー製作について学んでいる映画作家。現時点での代表作は中編ドキュメンタリー”Antonio e Catarina”だ。リスボン郊外の狭苦しい部屋に住む70代の老人と20代である監督の交流を描き出した作品。明確に引かれた境界線を、互いに危うい形で踏み越えようとする様がスリリングな一作。現在はインドを舞台とした長編ドキュメンタリーを製作中。

Orxan Agazade オルハン・アガザデ (アゼルバイジャン)
1988年生まれ、アゼルバイジャンとイギリス両方で活躍する映画作家。ケリムとレナは愛しあいながらも、今は別の人物と結婚していた。それでも愛は消え去ることなく、彼らは夜毎に明かりを瞬かせて密やかに愛を語りあう……短編作品"The Chairs"は、アゼルバイジャンの峻烈な自然の数々を背景として綴られる極上のメロドラマだ。

Mariana Gaivão マリアナ・ガイヴァン (ポルトガル)
少女ルビーは愛犬が居なくなったのをきっかけに、ポルトガルの山奥を彷徨い始める。それと同時に彼女は、自身の親友がイギリスに行ってしまうという寂しさをも募らせていた。彼女の最新短編"Ruby"は崇高なポルトガルの風景、生命力に溢れた人々、言葉では形容しがたい神秘的な雰囲気、様々な要素が結い合わされて生まれた破格の短編作品だ。

Johanna Pyykkö ヨハンナ・ピューッコ (ノルウェー)
スウェーデンフィンランドのミックス、現在はノルウェーを活動拠点とする映画作家ノルウェー人男性が仕事先のフィリピンで人妻と一夜を共にするが、実は彼女が……という筋書きの短編作品"The Manila Lover"は男性の醜いプライドや男性性の繊細さを赤裸々に描き出した意欲作だ。カンヌ批評家週間で上映され好評を博した。

Roxana Stroe ロクサナ・ストロエ (ルーマニア)
1991年生まれ、ブカレストを拠点とする映画作家。最新短編"O noapte în Tokoriki"は田舎町に位置する小さなディスコが舞台だ。気怠そうに建物内を彷徨う青年の視線の先には気弱そうな男と彼にキスする女、視線が交わっては離れるうちに奇妙な三角関係が浮かび上がってくる……そんな愛の鍔迫り合いを無表情のユーモアや静かな緊張感と共に描き出している。

Erenik Beqiri エレニク・ベチリ (アルバニア)
血腥い裏稼業に手を染める息子、その姿を見ていることしかできない父。息子の身体は見る間に傷つき疲弊していく中で、彼らの関係性は……アルバニアの寒々しい現実を、暴力的なまでに生々しいリアリズムと救いがたいほど深い絶望で描き出す"The Van"アルバニア映画界の更なる発展を予告していると言えるだろう。

Dušan Zorić ドゥシャン・ゾリッチ (セルビア)
恋人に振られたばかりの青年は、友人と共にバーへと赴く。そこで出会った女性と一夜を共にするのだが……短編作品"Strano telo"において長回しで紡がれるセックス、その様相は少しずつ異様なものとなっていく。女性に翻弄される男性、女性をコントロールしようとする男性、この複雑なジェンダーポリティクスにユーゴ紛争の傷が重なっていく様は正に圧巻としか言い様がない。セルビア映画界から凄まじい才能の登場だ。

ということで、2020年代期待の新鋭映画監督100はどうだっただろうか。知ってる名前はあっただろうか。私は私以外の日本人は誰も知らないリストを目指したので、誰もいないことを願う。彼らの何人が2020年代に長編作品を作り、そしてそれが映画祭で喝采を浴びるだろうか。そのうちの何本が日本で公開されるだろうか。自分としては1本もないのではないかと思うし、それでいいとも思う。世界はいつも日本の外でこそ動いているのだ。だからぜひとも皆さんも、様々な方法を使って日本未公開映画を観漁ることをオススメする。日本で公開されない映画にこそ真の世界があるのだ。この記事を読んで、未知への好奇心を刺激されたのなら幸いだ。ということで、よりよき未公開映画ライフを!

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