鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある

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死によってある人の生が終わりを告げてしまったとする。しかしその人にとっての大切な人の人生は未だ終わることなく続いていくはずだ。そんな時、人々はどうやって喪失の悲しみや苦しみと向き合えばいいのだろうか。ミカエル・エール Mikhaël Hers監督は第2長編「サマー・フィーリング」において時間の流れの中に生まれるそんな苦しみと、しかしいつしか訪れる癒しを類い希な優しさを以て描き出していた。彼は3年の時を経て再びそのテーマに舞い戻り、前作とは異なる視点から洞察を深めようとする。そうして出来た作品こそが第3長編“Amanda”だ。

今作の主人公は24歳の青年ダヴィド(ヒポクラテスたち」ヴァンサン・ラコスト)、彼はマンションの管理人や公園の剪定人をしながら自由気ままな生活を送っていた。遠くイギリスに住む母親とは疎遠だが、姉のサンドリーヌ(Ophélia Kolb)や彼女の娘であるアマンダ(Isaure Multrier)との仲は良好で、アマンダを送り迎えしたり3人で一緒に遊んだりと、日々は穏やかに過ぎていく。

まず監督はダヴィドたちの過ごす日常を緩やかに描き出していく。例えばダヴィドが仕事に勤しむ姿、彼が自転車でパリを駆け抜ける姿、3人がサンドリーヌの部屋で賑やかに過ごす姿。そしてダヴィドはマンションに新しく住み始めたピアノ教師のレナ(ニンフォマニアック」ステイシー・マーティン)と交流を深め、急速にその距離は狭まっていく。こういった何の変哲もない日常が積み重なることで、この作品は形を成していく。

印象的なのはSébastien Buchmannによる息を呑むような美しさを誇る撮影だ。緑が溢れる路地裏には安らぎが満ちており、瀟洒なパリの街並みは洗練された美を観る者に披露する。だが何よりも美しく描かれるのはダヴィドたちが家で雑用をこなしたり、余暇を楽しむといった些細な出来事の数々だ。特に英語教師であるサンドリーヌが持っていた本から始まる、エルヴィス・プレスリーの曲に乗せた母と娘の快活なダンスには得難い幸福感が滲み渡っている。微笑みと歓声は、私たちにも笑顔を届けてくれるだろう。監督はそういった日常に宿る無二の輝きを見逃すことはない。

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しかしその幸福は長く続くことはない。ある日サンドリーヌは友人たちを連れだって公園へピクニックに赴く。しかし遅れてその場に到着したダヴィドが目の当たりにしたのは、血まみれの身体がそこかしこに転がる酸鼻に耐えぬ光景だった。この場でイスラム過激派が銃を乱射するという事件が起こったのだ。そしてテロによって命を落とした被害者の中に、サンドリーヌがいた。

それ故悲しみに暮れるダヴィドは叔母のモード(Marianne Basler)と共に、一時的にアマンダを預かることとなる。役所の職員からは後見人の座についてアマンダを成人するまで育てるという選択も可能だと言われるのだが、自分でも深い傷を抱えながら彼女を育てることなど出来るのだろうか?とダヴィドは悩み続ける。

ダヴィドとアマンダの関係性は、サンドリーヌの死をきっかけに大きく変わってしまう。アマンダは気丈に振る舞っているのか現状が理解できていないのか定かではないが、様子はいつもと余り変わらないように思われる。しかし時おり感情を爆発させて、涙を流し、悲しみを叫ぶ。それに対してダヴィドはどう対応していいのか分からずに狼狽えるばかりだ。そんな状況で、それでも彼女の傷を理解しようと寄り添ううちに、彼は自分の心に刻まれた傷とも対峙せざるを得なくなる。

監督の演出は、内容の劇的さとは裏腹に頗る淡々としたものだ。起こっていく出来事の数々を素朴に繋げていきながら、彼は2人の間に流れる時間をそのまま捉えていこうとする。その際に大仰な描写は極力排して、喪失の後の日常を静かに描き出していくのだ。それゆえ私たちはありのままの2人の姿を、ありのまま日常や時の流れを目撃することになる。

ダヴィドを演じるのはフランス映画界期待の新鋭であるヴァンサン・ラコスト、彼は自然体で以て等身大の青年役を演じており好印象だ。サンドリーヌ役のOphélia Kolbも物語の都合上出番は少ないものの、輝くような存在感は観客の瞼に焼きついてしばらく離れないことだろう。しかし今作の要はアマンダ役のIsaure Multrierだ。最も大切な母親を亡くし、時には悲嘆を露にしながらも必死に生きていこうとする彼女の姿は健気以外の何物ではなく、観る者の涙を誘う。

"Amanda"はテロによって姉の命が無残に失われた後、彼女の娘を育てることになった青年の苦悩を描き出す作品だ。それでもミカエル・エールほど何気ない日常の風景の中に宿る美しさを捉えられる監督は居ないのでは?と思わされるほど、哀しみの後に広がる胸を締めつける切なさと人生を生きることの喜びは鮮やかに描かれている。今作はヒューマニズムの1つの達成と言ってもいいだろう。

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