鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて

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さて、このブログでは移民という立場から様々な物事を描き出す映画を多く紹介してきた。それは個人的理由から政治的理由、自発的なものから止むに止まれぬものまで、種々の理由で国から国へと移住する人々がこのテン年代においてどんどん増えてきているからというのも1つの原因だろう。例えばNele Wohlatz監督の“El futuro perfecto”は親の都合でアルゼンチンに移住してきた少女がスペイン語を覚える過程で自身の人生を切り開く姿を描いた作品であり、ジョナス・カルピニャーノ監督の「地中海」ブルキナファソから命からがらイタリアに移住を果たした難民の青年たちが直面する過酷な現実を描いた作品だった。さて今回紹介するのはノルウェーにおけるパキスタン移民とその文化を描き出したIram Haq監督作“Hva vil folk si”を紹介していこう。

今作の主人公は16歳の高校生ニーシャ(Maria Mozhdah)、彼女はノルウェーに住むパキスタン移民の2世だ。家の中ではなるべく両親を怒らせない貞淑パキスタン人の娘を演じながらも、外ではバスケにお酒にと年相応に騒ぎまくるとそんな二重生活を送っている。しかしある時、家に気になる青年を連れ込んだのを父親であるミルザ(Adil Hussain)に見つかった時から、彼女の人生の歯車は狂い始める。

序盤において印象的なのは、ニーシャの暮らしぶりの傍らで描かれるパキスタン移民であることの難しさだ。恋愛関係などが厳格なことに苛立ちを隠せないニーシャであるが、彼女を抑圧するのは何も父親だけではない。そのミルザ自身友人の男たちから、彼女の行動が自分たちの娘に影響を与えたらどうするんだ?と詰問され苦境に陥る。パキスタン人としての尊厳が損なわれるのを人々は最も懸案している。抑圧の淵源はつまりパキスタン系コミュニティそのものなのだ。

その大いなる不可視の抑圧がニーシャを危機へと陥れる。暴力で以て従わせようとする父親から逃げてシェルターへと避難していたニーシャだったが、話し合いで解決しようと提案する家族に同意し、彼らの元へ戻ってしまう。しかしミルザはそんな彼女を拉致したかと思うと、そのままパキスタンへと向かい、叔母の元にニーシャを置き去りにしてしまう。こうして彼女は慣れない異国の地での生活を余儀なくされる。

パキスタンでの生活は苦労の連続だ。食事も言語も何もかもノルウェーとは違う文化の数々に驚かされるのと同時に、今まで経験したことのない雑用まで任されてしまいニーシャは見る間に疲弊していく。それでも数ヶ月が経つと生活にも慣れてはくるが、それは言わばストックホルム症候群的な親しみであり、罰のために誘拐され遺棄されたことには変わりない。何でも監督自身が主人公と同じような経験をし、それを映画に翻案した故か、そこには息苦しいリアリズムが宿っている。

その過酷な内容とは裏腹に、撮影監督であるNadim Carlsenが映し出すパキスタンの風景は息を呑むほどの美しさを誇っている。色とりどりのベールを纏った人々が行き交う活気に満ちた市場に、邸宅の屋上から見える橙と桃の彩りが混ざりあう黄昏の空、そしてその空に舞い上がる凧の数々。私たちはそこにパキスタンの光の部分を見いだすことになるだろう。

しかしその裏側には勿論のこと、闇の部分も存在しているのだ。パキスタンでの生活にも慣れたニーシャは、同じ邸宅に住む甥のアミール()という青年と交流を深めることになる。そして真夜中に家を抜け出して、路地裏で唇を重ねあうのだが、そこに現れるのが警察官たちだ。彼らはアミールを警棒で滅多打ちにすると、ニーシャを裸にさせ撮影、その写真で家族を脅迫するまでに至る。激怒した叔母は、しかしニーシャを庇うかと思えば、アミールを誘惑したニーシャの全責任があると全てを彼女に擦りつけてしまう。パキスタンとその文化圏における女性差別――時には当の女性本人ですらもそれに荷担してしまう事実――の実態を、監督はヒリヒリするような辛辣さで以て描き出していく訳だ。

そしてそれらは最後に父と娘の関係性へと収斂していくこととなる。最初は自身の考えを高慢に押しつける単純な悪役としてミルザは描かれるが、段々とコミュニティの責任を背負う故の悲哀が満ちる内面をも綴られていき(“お前は家族の、私の尊厳を踏みにじったんだ!”)終盤においては再び2人が対面することとなる。背景に何かがあるから、では高慢は許されるということはないが、それでも彼がニーシャの苦境を理解する時に見せる行動は“Hva vil folk si”の核として、感慨深く観る者に迫ってくるだろう。

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