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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Julio Hernández Cordón&"Cómprame un revolver"/メキシコ、この暴力を生き抜いていく

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現在のメキシコの状況はお世辞にも良好とは言えない。カルテルの暴力が跋扈し、女性や子供たちなどの弱者が真先に踏み躙られる世界がそこには広がってしまっている。だがこんな世界に対して映画を以て立ち向かおうとする人々がいる。今回は現在のメキシコを寓話的に描き出した作品、Julio Hernández Cordón監督作"Cómprame un revolver"を紹介していこう。

近未来のメキシコ、カルテルの暴力によって完全に支配されてしまったこの地で、異変が起こる。不可解にも女性たちが消えてしまっているのだ。それによって国は存亡の時を迎えている、今作の主人公はそんなメキシコで生きる数少ない少女ハック(Matilde Hernandez)と彼女の父ロドリゴ(Rogelio Sosa)だ。

ハックは自分が少女だとバレないように、常に仮面を被りながら行動している。そして毎日カルテルのために、父と一緒に汗水垂らしながら働き続けている。その光景は搾取と同義であるが、暴力を振りかざす彼らに逆らうことはできない。いつカルテルの武器が火を噴くかなど予想できないのだ。

その中では父との交流だけがささやかな幸せだ。家代りの散らかったRVの中で、彼女たちは他愛ない会話を重ねていく。そして夜には誰も居なくなった野球場で、自由に好き勝手に騒ぎ続けるのだ。そういった光景の数々は幸福感に満ちたものだが、事ある毎にその背景には悍ましい暴力が存在していると認識せざるを得なくなる。小さな喜びが輝くその時、そこには確かな恐怖が存在しているのだ。

ある日、ハックが不注意から外へ出た時、見張りの兵士に見つかったことが原因で、命を危機に晒してしまう。そこでロドリゴが見張りを殺害し、何とか危機を脱出するのだったが、そのせいで更なる危機に陥ることとなる。そして彼らは死の恐怖に満ちた旅へと赴く事となる。

監督の演出は淡々としていながらも、頗る不穏なものだ。そこには常に暴力の気配が付き纏っている。それは例えば黙示録ものの傑作である「マッドマックス」などを想起させるものとなっている。その中で彼はどこまでも静かに冷徹に、メキシコにある貧困と暴力を見据え続ける。この厳格さが今作に強度を与えていると言えるだろう。

だがその冷徹さを越える、人々から恐怖を湧き立たせる存在がカルテルだ。彼らのまるで鎧のような武装は常に強者の様相を呈し、弱者を容赦なく踏み躙っていく。彼らの暴力性自体もそれに見合う、全く抑えの効かないものだ。彼らが存在する所、常に暴力の匂いが充満し続ける。それは観客全ての心臓を圧迫する類のものだ。

そんな中で、不思議と浮かび上がってくるものが荒廃の詩情というべき代物だ。例えばメキシコの乾き切った大地の光景、川から飛び立つ何十羽もの汚れた白鳥、砂漠の向こう側に広がる灼熱の夕陽。それらは暴力の予感を越えた所で、私たちの心を打つだろう。そういった視線もここには存在しているのである。

そしてここにおいて監督が明確に希望として描き出している存在がある。それが子供たちだ。劇中では、ハックの友人たちとして少年集団が神出鬼没に表れる。時にはハックの遊び仲間として、時にはパーティー会場から物を盗み出す泥棒集団として。だがどんな時においても彼らは逞しく生存の道を行き続ける。大人たちが暴力に翻弄される時にでもだ。そんな彼らこそがこの混沌のメキシコを生き抜く導となってくれる。そんな思いを私たちは"Cómprame un revolver"に見るのである。

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