2016-01-01から1年間の記事一覧
今作の舞台は韓国の山奥に位置する谷城(コクソン)という名の寒村、警察官である中年男性ジョング(「漁村の幽霊 パクさん、出張す」クァク・ドウォン)は妻(「彼とわたしの漂流日記」チャン・ソヨン)や娘のヒョジン(キム・ファニ)らと共にこの村で暮らしている…
映画においてデビュー長編にはその監督の全てが宿る。この物言いは元々小説に向けられる物だが、私としては映画において最も顕著ではないかと思っている。何故なら映画は他の芸術作品に懸けるコストの大きさが違う。映画はとにかく金がかかる、最低でも数百…
何も変わらない退屈な毎日、次第に色褪せていく日常、人生の全てが同じことの繰り返しのように思えて、自分はそんな反復の中で磨り減り、成す術もなく死んでゆくしかないのかと深い絶望感に襲われたことはないだろうか。この窒息しそうなほど退屈な日常を投…
さてベネズエラである。この国は現在未曽有の経済停滞に陥っている。原油埋蔵量が世界一の産油国であり、その輸出収入によって反映を誇る時代が続きながら、原油価格の低迷によって危機的状況に陥ることとなっている。物価の高騰、食料品や衣料品の不足、更…
太古の昔から自然と人間は手を取り合って生きてきた。自然はその清冽な空気や豊穣な実りによって私たちを満たし、鮮やかな色彩や広大さによって私たちを魅了し、時には大いなる災厄によって私たちを危機に陥れる。自然は様々な側面を持ち、私たちはそれを目…
去る8月31日、三大映画祭の1つであるヴェネチア国際映画祭が幕を開けた。デミアン・チャゼルの新作ミュージカル"La La Land"が絶賛で迎えられ、ドゥニ・ヴィルヌーヴの"Arrival"もなかなかの評判、序盤から映画祭は熱を帯びているが、所詮海の向こうの出来事…
さてフィリピンである。現代フィリピン映画界には絶対に欠かしてはならない2人の重要人物がいる。まず1人は日本でもお馴染みのラヴ・ディアスだ。1作品4時間5時間は当たり前、2016年のベルリン国際映画祭では8時間という尋常ではないランタイムの作品"A Lull…
ジョー・スワンバーグ、もう何度この名をブログに書き記したか分からない。マンブルコアの立役者、自分たちのリアルを追求し続ける映画作家、心の奥底に歪んだ性愛を抱くド変態野郎……彼の作風ひいてはマンブルコアという流行それ自体が半径5mの世界を映し出…
さてコソボ共和国である。北東にはセルビア、南東にはマケドニア共和国、南西にはアルバニア、北西にはモンテネグロというバルカン半島中部の内陸地帯に位置しているこの国、ボスニア紛争終結後に起きたコソボ紛争によって名前を覚えている方も多いかもしれ…
宗教と性愛の関係性は何というか極端だ。例えばキリスト教を見てみれば、神の名の元に性愛およびセックスは著しく制限され、それが回り回って「スポットライト」のような忌むべき性的虐待事件やケン・ラッセルの「肉体の悪魔」のような性欲大爆発な事件を巻…
さてアレックス・ロス・ペリーである。ポスト・マンブルコアの世代における米インディー映画界の申し子、既に世界的な名声を博し次回作を待望される大いなる存在。だが勿論のこと、日本ではほぼ受容が成されておらず、彼の長編1本すら日本では上映されていな…
新しい言葉を学ぶというのは本当に大変な作業だ。私はルーマニア映画への偏愛が高じて今ルーマニア語を独学しているのだが、これが難しい。ルーマニア語に限らずおそらく欧州系の言語を学んだことがある方なら分かるだろうが、まず名詞が男性/女性/中世に分…
何の前触れもなく、全く突然に、家族の元に長い間疎遠だった親/子供が現れ、平穏な暮らしを送っていた家族に波紋を投げかける。こういった筋立ての映画は枚挙に暇がない。だからこそ敢えてこのテーマを選んだ作家たちは"誰が失踪していたのか?" "なぜ失踪し…
さて、つい先日ロカルノ映画祭が無事閉幕したが、コンペティション部門ではブルガリアの新星Ralitza Petrovaがデビュー長編"Godless"で金豹賞を、そしてブログでも紹介した"ルーマニアの新たなる波"に新風を巻き起こしている映画作家Radu Judeが新作"Inimi c…
皆さんはコロンビアと聞いて何を思い浮かべるだろうか? ラテンアメリカの一国、麻薬戦争、最近は「彷徨える河」や「土と影」などが評判となっている故に、人間と自然の関係性が密接な場所とそんなイメージを持っている方も多いかもしれない。だが今回紹介す…
さて、プエルトリコである。カリブ海北東に位置する島で、国ではなく米自治領という政治的な地位にある地域だ。経済状況は余り芳しくなく、低迷の果てに2015年8月には事実上のデフォルトを迎えるなど財政はかなりの危機的状況にある。映画の面ではハリウッド…
さてボリビアである。南アメリカ大陸の中央部に位置する共和国で、自然資源は豊富ながらラテンアメリカ最貧国に数えられている。観光名所にはウユニ塩湖やオルーロのカーニバル、トロトロ国立公園などが挙げられる。ボリビア映画で代表的なのは何と言っても…
老いは人々から様々な物を奪い去っていく。足が動かなくなる、視界がボヤける、腰が曲がったままになる……体の機能が衰えるごとに自然と行動範囲は狭まっていき、それはまた世界が小さくなっていくことを意味する。そんな世界においては、昨日は今日の繰り返…
2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件が発生、それを受けジョージ・W・ブッシュ大統領はテロとの戦いを宣言した。タリバン政権の関与が示唆され、アメリカはイギリス、カナダ、ドイツなどと共同でアフガニスタン派兵を行うこととなるが、その中にはフラン…
さて、ロカルノ映画祭である。スイスのイタリア語圏に位置する都市ロカルノで8月に行われるこの映画祭は新人映画作家の登竜門として、毎年輝かしい才能を輩出している。私自身この映画祭とはウマが合うようで例えばこのブログで最初期に紹介したスイスの映画…
先日"ギリシャの奇妙なる波"を代表する作家ヨルゴス・ランティモスの初英語作品「ロブスター」が上映された。コリン・ファレルやレイチェル・ワイズ、レア・セドゥーなど日本でも有名な実力派俳優が多く出演しているが、そんな中であのメイドを演じていた俳…
アリス・ウィンクール&「博士と私の危険な関係」/ヒステリー、大いなる悪意の誕生 アリス・ウィノクールの略歴、およびデビュー長編についてはこちら参照さて、アリス・ウィノクールである。先日彼女が共同脚本を手掛けたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監…
"Black Lives Matter"という言葉を知っているだろうか。"黒人の命だって大切だ!"……この言葉は2012年、フロリダ州で起こった1人の黒人青年の死に端を発している。10代のトレイヴォン・マーティンが自称自警団の男性に射殺されるという事件が起こった。これを…
クズ野郎を描いた映画は枚挙に暇がない。私が好きな作品で言えばマーティン・スコセッシの「タクシードライバー」に、フランク・カルフンの「マニアック」(ウィリアム・ラスティグ版も好きだが個人的にはこちらに軍配)、リック・アルヴァーソンの"Entertainm…
現在、中国の映画産業は前代未聞の活況を呈しており、チャイナマネーは世界的に見逃せない物となっている。特にハリウッドとの関係は密接で、共同制作は当たり前、「トランスフォーマー ロストエイジ」や「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」にはスポ…
映画界における女性差別は世界のどこにおいても根深い問題だ。日本においても、アメリカにおいても、フランスにおいても……しかしメキシコにおいては少しばかり状況が違うらしい。劇映画の領域においては他の国と同じく男性中心の状況はほぼ変わっていないの…
Noah Buschel&"Bringing Rain"/米インディー映画界、孤高の禅僧 Noah Buschel&"Neal Cassady"/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折 Noah Buschel&"The Missing Person"/彼らは9月11日の影に消え Noah Buschelの略歴および今作以前の長編諸作については…
田舎の美しい風景を背景とした少年と鳥の交流、このキーワードで連想する映画はなんだろうと言われれば、やはりケン・ローチの「ケス」じゃないだろうか。どこにも居場所のない労働者階級の少年がある日タカのヒナを救ったことをきっかけに人生が開けたかの…
クリスティ・プイウ&"Marfa şi Banii"/ルーマニアの新たなる波、その起源 クリスティ・プイウ&「ラザレスク氏の最期」/それは命の終りであり、世界の終りであり クリスティ・プイウの略歴、および長編デビュー作、第2長編についてはこちらの記事参照2005年…
ラドゥー・ムンテアン&"Hîrtia va fi albastrã"/革命前夜、闇の中で踏み躙られる者たち ラドゥー・ムンテアン&"Boogie"/大人になれない、子供でもいられない ラドゥー・ムンテアンの略歴および彼の長編第2作"Hîrtia va fi albastrã"と"Boogie"についてはこ…