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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Luciana Mazeto&"Irmã"/姉と妹、世界の果てで

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今現在ブラジル映画界が空前の活気を見せていることはこのブログでも何度もお伝えしているが、その1つの動向としてジャンル映画的な要素を駆使しながらアートハウス映画を作るという技巧派の台頭がある。例えばホラー映画やSF映画などそういった要素を人間ドラマや社会派映画に組みこむことで、今までにない余韻を伴う作品ができあがる訳である。さて今回紹介するのは少女たちの思春期の揺れを、少し不思議なSF的筆致とともに描き出す作品、Luciana MazetoVinícius Lopesの共同監督作"Irmã"を紹介していこう。

今作の主人公はアナとジュリア(Maria Galant&Anaís Grala Wegner)という姉妹である。彼らは母と離婚して遠くに住んでいる父親に会うため、2人だけではるばる旅をしていた。そして彼女たちの目的は彼にただ会うだけではない。そこにはある痛切な秘密があった。

監督たちはまず姉妹の旅路を淡々と描きだしていく。例えばバスで会話をする、辿りついた喫茶店で水を頼む、近くで遊んでいた少年に連れられ滝を見にいく。そういった何気ない風景の数々が淡々と綴られていき、物語の雰囲気を築きあげていく。

そんな時に姉妹を取りかこむのが、ブラジルの田舎町に広がる雄大なる自然だ。鬱蒼たる深緑の色彩を湛える森は世界の果てまでも続き、美しい水飛沫をあげる滝は太陽の光のなかで煌めいていく。旅路の中で、私たちはブラジルの豊穣たる大地が輝く様を姉妹とともに目撃することになるだろう。

しかし同時に、観客はこの映画に何か現実離れした不思議な雰囲気をも感じることになるだろう。それを理解する一助となるのが、聞こえてくるラジオの音声だ。なんでも現在地球に隕石が近づいてきており、その影響かブラジルに限らず世界各地で異変が起こっているというのだ。

ここでこの隕石と関わってくる要素が妹であるアナの恐竜への愛着である。彼女は道中で首長竜の人形を持って遊んでいたり、恐竜について熱心に語ったりする。そこには恐竜という滅亡したものへの郷愁が存在しているが、その恐竜を滅亡させた存在こそが隕石な訳である。

こうして2つの要素が絡みあううちに、姉妹の現実が奇妙にズレ始めることとなる。ただの水のなかから猛烈に浮かびあがってくる泡、夜を歩く姉妹に吹きつける壮絶な嵐。これこそがラジオで言っていた異変というものなのだろうか。そんな疑問を持つ間にも、隕石は徐々に地球へと近づいてくる。

そしてこの小さいながらも確かな現実とのズレが作品を牽引していると言っても過言ではないだろう。その様は些かちっぽけで時おり可笑しみすらも感じさせるものでありながら、同時に現実が確かに歪んでいく不穏さをも感じさせるのである。

私たちはこの複雑微妙な現実の変貌を観察するうち、あることに気づくだろう。この変貌は思春期にある姉妹の心を反映しているのではないかと。彼女たちはしばらく会っていなかった父親と再会し、ぎこちなく交流を深めるのだが、彼女たちの間で事件が勃発する。ここに現れるのは高揚感や不安、悲しみであり、この感情が生み出す揺れがまた現実の変貌と共鳴しているのではないか。

ゆえに今作の核となるのはやはり姉妹の関係性の密さである。ある秘密を抱える彼女たちは融和と反抗を絶えず繰りかえしながら、運命の旅を続ける。そして不安定でありながらも印象的なこの姉妹同士の対峙が世界を少しずつ、しかし確実に変えるほどの力を宿しはじめるのである。この姉妹の心理模様を描くヒューマンドラマ的側面と、少し不思議なSF的な側面が今作においては巧みに組みあわさっているのである。"Irmã"は人が成長する時に抱くのだろう、微かな震えを独創的な視点で捉えた意欲作だ。そして姉妹が辿りつく終着点は彼女たちにとってだけでなく、世界にとっての始まりでもあるのだ。

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