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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Nicolás Pereda&"Fauna"/2つの物語が重なりあって

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私がここずっと注目している才能がメキシコにはいる。それが若き奇才Nicolás Pereda ニコラス・ペレダだ。彼は虚構と現実を自由に行きかいながら、奇妙な映画作品を作り続けている。私も彼の代表作"Juntos"と、彼のフィルモグラフィでも一二を争う奇妙な作品"Minotauro"を紹介したことがある。そして今年、多作な彼はまた新しい作品を作りあげた。それこそが新作"Fauna"である。

とあるメキシコの田舎町に3人の男女がやってくる。ルイサとパコという俳優カップル(Luisa Pardo&Francisco Barreiro)、そしてルイサの兄であるガビーノ(Gabino Rodríguez)だ。彼らは兄妹の両親の元に集まり、一緒にしばしの休息を楽しむことになる。その時間は静かで、平穏なものだ。

まず最初、監督は3人の日常だけを淡々と描きだしていく。例えばパコは煙草を買いに小さな売店へと赴く。ガビーノはベランダの椅子に座って、本を読む。5人は近くのピザ屋に行って、他愛もない会話を繰り広げる。彼は撮影監督とともに、緩やかな長回しで以てその日常を映しだしていく。その感触はまるで白昼夢を見ているようだ。

だが時おり、今作は奇妙な世界へと足を踏みいれる。酒場でビールを飲んでいる際、ルイサの父(José Rodríguez López)はパコに対して演技を見せてほしいと懇願する。彼は最初拒否するのだが、最後には演技を行う。が、父は今度セリフありで演技をしてほしいと頼む。パコは躊躇いながらも見事な演技を見せるが、父は再び演技を見せるよう頼む。その一方でルイサは母にオーディションで披露する演技を見てもらっている……

この演技が行われる際の緊張感は、日常を描いていた時とは全く異なる濃密さを誇っている。演技をする者の周囲には現実とは一線を画した異様な雰囲気が流れ、彼らはフィクションの世界へと入りこむ。それはまるで日常の狭間に存在している異界へと潜りこんでいくような感覚がそこにあるのだ。

だがそんな日常の些細な変化が、大きな変化へと変わる瞬間がある。ある時、ガビーノは本を読んでいるのだが、それについてルイサが尋ねてくる。"この小説の主人公は昔の友人を探しているんだけども……"そんな言葉とともに映画はその小説内へと入ってしまう。主人公ガビーノ(Gabino Rodríguez)は友人を探しに、あるホテルへやってきた。だがあることが原因でルイサ(Luisa Pardo)という女性と知りあいになってから、彼の運命は大きく変わってしまう。

この第2の物語は主人公が友人を探すという語りに終始するかと思えば、それは違う。その語りは目的地への道筋から何度も何度も逸脱を繰り返す。新品のタオルをめぐるルイサとの奇妙な問答、友人と会おうとする過程で出会った謎の男パコ(Francisco Barreiro)など、ある意味で今作は意図的に迷走を続けるのだ。

さて、ここで気づくことがあるかもしれない。2つの物語において同じ役名が並び、さらに演じる俳優も同じなのだ。Peredaはここ10年、Rodríguez、Pardo、Barreiroというこの3人の俳優たちとともに映画を作ってきた。冒頭で記事を紹介した2作品は正にその代表的な作品だ。

同じ俳優陣ということで、映画には個々の魅力とともに、物語が緩やかに繋がるような、旧知の友人たちに再び会うような親密さが宿るのだ。今作は2つの物語を、同じ役名を持つ同じ俳優で以て描きだしている。ゆえにいつもは複数の映画が繋がる時に現れる親密さをこの"Fauna"は1本で成しとげているのだ。

"Fauna"は物語にはこんな語り方があるのかと驚かされる、頗る野心的な1作だ。こうしてメキシコで虚構の面白さを探求しつづけるのがNicolás Peredaという存在なのである。最後に今作を端的に示すような彼の発言を紹介して、この記事を終えよう。

"私は現実を捉えることに興味はありません。現実についてどう語るかについて興味があるんです"

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