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映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Gjorce Stavresk&"Secret Ingredient"/マケドニア式ストーナーコメディ登場!

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いわゆるストーナーコメディというジャンルが存在する。マリファナ吸って気分よくなった連中が騒動を巻き起こすといったゆるゆるなコメディ群だ。しかし最近新機軸の作品が現れ始めている。例えばイスラエル映画“”は息子の死をマリファナで乗り越えていくという、その白煙に真心を込めた心暖まるコメディだった。今回紹介するGjorce Stavreski監督によるマケドニア映画“Secret Ingredient”もそんな系譜の先にある作品だ。

今作の主人公であるヴェレ(Blagoj Veselinov)は寂れた町に住む青年だ。工場で働きながらガンに苦しむ父親(Anastas Tanovski)を介護しながら苦しい生活を送っている。更に薬代がとても高く、アスピリンとシナモンを混ぜた紛い物を治療薬として飲ませなければやっていられない。ヴェレはそんな生活に嫌気が差す。

序盤は何ともドン詰まりなマケドニアの風景が描かれていく。汚い工場で錆びついた機械を動かしながら働くヴェレ、家に帰ってきたらガンの苦しみに耐えかねてショットガンで自殺を試みる父親、それを何とか奪い取り車へ積みにいく途中“いっそそれで殺してくれ!”と懇願してくるアパートの住民。もはやこの世界には希望がどこにも残っていないようだ。

ある日、ギャングの所有するマリファナが盗まれるという事件が起こる。偶然それを見つけてしまったヴェレは金に変えようとするのだが、試みは失敗してしまう。そんな中で代わりにマリファナの効用を知った彼は、ケーキに混ぜて父親に食べさせたのだが、何とその効果なのか何なのかガンが治ってしまったのである。

今作は物語の流れや画面に満ちる雰囲気からいって、しみったれたクライムスリラーを想起する人が多いだろう。確かにそういう展開もあるのだが、そこを期待すると裏切られてしまう。何故なら本作はスリラーの皮を被った真顔のユーモア満載のブラックコメディだからだ。

元気になった父親は隣人たちにケーキが起こした奇跡について宣伝し始める。すると奇跡をもたらすヒーラーだとヴェレが祭り上げられることになってしまう。部屋に収まりきらないほどの人で廊下が溢れる姿は大袈裟すぎて笑えてくる。正に現代の聖人登場といった風だ。しかし有名になると同時にギャングの脅威が近づきはじめ、事態は思わぬこんがらがりようを見せる。

先述した通り、アメリカにはストーナー映画というジャンルがあり、それはマリファナ吸ってラリって騒いで最高!といったマリファナ礼賛映画な訳だが、その意味で今作はマケドニア式のストーナーコメディという形容できる作品となっている。何せマリファナが奇跡を起こして、人々を救うのである。終盤の展開も気が利いている。そして未だにマリファナが危険なドラッグ扱いの国ではこんな風な描き方もされるという意味で、独特の魅力がある。

そんなマリファナ映画たる今作だが、根底にあるテーマは父と子の絆という普遍的なテーマだ。ふたりだけで狭苦しいアパートの一室に暮らしながらも、ガンのせいで関係には亀裂が入っている。マリファナの奇跡以後も、この真実については口外できないので、関係は秘密のせいで更にぎくしゃくしてしまう。それが危機的状況の中で再び対話を果たすことで、ふたりの道筋はどうなっていくのだろうか……

“Secret Ingredient”マケドニアの現在を反映した奇妙なコメディ映画だ。不穏な雰囲気から笑える空気感、ローカルな要素から普遍的な要素まで、その全てがマリファナ・ケーキに包まれて差し出される様は何とまあおかしいし、その味はなかなかに独特でイケてたりする。

Gjorce Stavreskiは1978年12月28日にスコピエに生まれた。スコピエの国立映画アカデミーで学んだ後、ベルリナーレ・タレント・キャンパスなど様々なワークショップに参加し技術を磨いていく。"Doma""Na izgrejsonce"などの短編を製作、オムニバス短編集"Skopje Remixed"に参加した後、2017年には初の長編映画"Secret Ingredient"を完成させた。現在は新作長編を計画中だそう。ということでStravreski監督の今後に期待。

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