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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Ruth Schweikert&"Wir eltern"/スイス、親になるっていうのは大変だ

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反抗期の子供たちを描いた映画は世界に数多くあるはずだ。皆、世界に反旗を翻す若者たちが大好きなのだから。だが反旗を翻される親たちを描き出した作品はそんなに多くない。誰もが反抗的な子供だった時代がありながら、親になる人はそこまで多くないからだろうか。さて、今回はそんな反抗期の子供を持つ親を主人公とした作品、 Eric Bergkraut&Ruth Schweikert監督作"Wir eltern"を紹介しよう。

ヴェロニカとミヒャエル(Elisabeth Niederer&Eric Bergkraut)は自分たちが完璧な家族を持っていると思いたいのだが、現実はそれから程遠い。子供たちは皆、自立とは真逆の生活ぶりであり、特に次男のアントン(Elia Bergkraut)は学校をサボりまくるなどやりたい放題だ。それでも彼女たちは何とか日々を生き抜こうとする。

今作はまず彼らの喧騒の日常を余すところなく描き出していく。子供たちは常に反抗的で不平不満をブチ撒けまくる。ヴェロニカたちは時に穏健に接しながらも、殆どの場合自分らもブチ切れながら彼らに相手する。更に酷い時は口論まで始まって、最低の風景が家庭に広がることとなってしまう。日々はこの騒擾の繰り返しなのである。

その中で監督たちは親という営みを静かに見据え続ける。子供が反抗的である時、彼らを正しい道へと導くのが親の仕事というものだろう。だがそれがいつも上手くいく訳ではない、というか上手くいく方が少ないだろう。それでも親には成すべき使命が確かに存在するはずだ。この理想と個人としての不満や怒りが常にぶつかり合いながら、親子生活というものは続いていく。

これ以外にも、今作には中流階級インテリ層の生活を軽やかに描き出していくという一面がある。ヴェロニカたちは教師など知的階級に属し、部屋には本が溢れている。インテリアも瀟洒で、家計に関しては困っていないことは明白だ。それでも内実は荒涼たる風景が広がっており、そこへの眼差しは辛辣だ。それは例えばウディ・アレンの諸作を彷彿とさせる作風だが、煙草の紫煙を思わせる洒落たジャズが全編に流れる様は正にアレン映画を踏襲していると言えるだろう。

本作では節々でスイスの社会学者による子育てについての文章が引用されるのだが、その文が登場した後に何と本人が現れるのである。例えばヴェロニカたちが食事をしていた場所に座り、彼らは持論を展開していく。昔は20歳で大人になるようになっていたが、今はそれが15年先延ばしにされている。そして注目すべきは今の親は何かと子供たちに命令を行うことだ……彼らは真正面を向き、私たちの瞳を見据えながら自身の考えを語る。このドキュメンタリー的な演出が、フィクション的構成の中で奇妙に際立つこととなる。

更に今作は半自伝的作品としての側面をも持ち合わせている。監督のBergkrautは監督・脚本・主演を兼任であり、同じく共同で監督と脚本を務める Schweikertとは夫婦関係にある。そしてクレジットを読めば分かるが、息子たちを演じるのは実際の息子たちである。明らかに自分たちの経験を作品に反映させたがっている。そして製作側のあらすじにはこうある。今作は"半自伝的グロテスク"だと。

こうして形式的にはフィクションの形を取りながらも、半自伝的な要素を濃厚に反映したり実際の社会学者を映画に出演させたりするドキュメンタリー的な指向が交わりあい、奇妙にスリリングな映画が誕生していると言えるだろう。監督たちによって虚構と現実の糸が軽妙に結われていく様は、軽快にして悠然たるものだ。

そしてこの張り詰めたピアノ線は登場人物たちにまで影響し始める。このクソッタレな現状に飽き飽きしたヴェロニカたちはある行動を取ることになる。何と部屋に監視カメラを設置し、息子たちを監視し始めるのだ。この作品自体が実際の家族を研究対象とした、親という概念についての社会学ケーススタディであるのに、登場人物がそれをやり始めるので恐ろしい。こうして"Wir eltern"は虚構と現実を行き交いながら、親になることについての洞察を深めていくのである。

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