鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Oleg Mavromatti&"Monkey, Ostrich and Grave"/ネットに転がる無限の狂気

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こういうことを経験したことはないだろう。Youtubeなどの動画サイトで偶然見かけた動画、そこにはただの一般人が映っており彼/彼女は辿々しくも一生懸命に何かを喋っていて、同じような構図の作品が幾つも見つかるなんてことが。しかし動画の再生回数は全て10回かそこらで、それでもその人物は誰が見ているかも分からないままに動画を上げ続ける。そんな作品を見ていると微笑ましさと共に何となしの居たたまれなさを感じることがある。この人は何のために動画を上げているのか、動画を上げ続けられる動機とは一体何なのか、そんな思いが頭を巡るのだ。さて、今回はそんな居たたまれなさを未知の地平へと接続する意欲作である、Oleg Mavromatti監督作“Monkey, Ostrich and Grave”を紹介していこう。

今作の主人公はゲリディ(Viktor Lebedev)という何処にでも居そうな中年男性、彼の日課は動画サイトに自作の動画をアップすることdった。例えばある作品で彼はカメラに向かって昔祖母が話してくれたという“小さな王女さま”という昔話について語る。喋りの拙さや撮影/編集のダラダラ加減は正に素人技というべき代物であるが、頭痛の治し方や料理の手順を語るゲリディの姿には親しみや可笑しみが宿っている。

それでもその空気感は徐々に変わり始める。ある時ゲリディは唐突にUFOを見たと言い出す。彼は紙にUFOの形を書きながら興奮した面持ちでその出会いを語り、過去に遭遇した宇宙人についても喋っていく。そして次の動画ではアルミホイルで作った帽子を“UFOの音を捉える発明”だと主張し、聞く者を当惑させる。こうしてここに宿っていくのは日常が非日常によって侵されていく厭な感覚だ。最初は日常についての他愛ない語りであったのが、宇宙人やUFOなどの妄想に侵食され始める様は、不気味としか言いようがない。

しかしそれが妄想ではなくなり始める瞬間すらも存在している。妄想がエスカレートしたらしいゲリディは念力で新聞紙が燃やせると言い出す。最初は見事に失敗するのだが、その時点で何かがおかしいことに観客は気づくだろう。そしてその不信感は2回目に確かな驚異として結実する。2回目、彼は新聞紙に念を送ると、本当にそれが燃えてしまうのだ。歓声を上げて狂喜する彼の姿の中に、妄想と現実が混ざりあうのである。

そしてこの妄想/現実の対立に更なるレイヤーが刻まれることとなる。ある動画の中でゲリディは外に赴いて、視聴者の質問に答え始める。その内容は“どのインスタント麺が一番好きか?”だとかそういった冷やかし半分の物ばかりで笑いを誘うが、画面外からは叫び声や騒音が聞こえてくる。ゲリディは気まぐれにそちらへカメラを向ける。するとそこには頭から血を流して微動だにしない人間の身体が転がっているのだ、しかも幾つも。そして目前で銃撃戦すら行われている。それでもゲリディは呑気に質問に答え続けるのだ。その乖離は観客に奇妙な恐怖を与える。

この乖離の鍵はルガンスクという地にある。ゲリディの住む町であるルガンスクはロシアとウクライナの国境付近に位置する町である。そして今作の舞台となるのは2014年、つまり2国間の緊張感が最高潮にあったウクライナ東部紛争の時期なのである。紛争の最前線にあるこの場所においては血まみれの非日常はもはや日常以外の何物でもないのである。その意味で歴史的側面から見ても今作では日常/非日常が混在しており、それが異様に見えてくる訳である。

その混在が爆裂を遂げる瞬間がある。ゲリディはカメラに向かって灰色のノートに記した絵の数々を紹介することとなる。最初はまだ微笑ましい日常の絵や天使の絵などが紹介されながらも、ここにもやはりUFOや宇宙人が現れ始め、事態は不気味な展開を迎える。UFO内の様子、切断された中国人の首、血まみれで実験体になる男の姿。唾を飛ばしながら悲痛なまでの叫びで以て全てを曝け出すゲリディ、彼に宿る余りにも切実な狂気は胸に迫る。

“Monkey, Ostrich and Grave”はネットの海に転がっている他愛ない動画の数々を起点として、日常/非日常の境目を問うような恐ろしい作品だ。そして最後に私たちは、その二項対立を突き抜けた先にある戦慄を目の当たりにすることとなるだろう。

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