鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

済藤鉄腸の2020年映画ベスト!

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ラース・フォン・トリアーメランコリアにおいて、キルスティン・ダンスト演じる主人公ジャスティンは鬱病で最悪の状態にある。だが地球が巨大隕石によって近い将来滅亡すると知ってから、周りの人間はパニックに陥る一方で彼女の心は解き放たれ、その姿からは生命力が迸る。2020年の私は正にジャスティンそのものだった。世界はコロナウイルスによって前代未聞の危機に直面し、世界でも日本でも多くの人々が異様な速度で亡くなっていく。だがほぼ家に引きこもっている自分には殆ど関係ない。むしろ世界中の皆、特に国からの助成金や映画雑誌の補助をもらい世界の映画祭を回る映画批評家が、全く自分と同じような状況に陥り、現状を嘆いている。素晴らしい、何て素晴らしいんだ。

そして私の創造性は異常な迸りを見せた。まず小説家として100冊の小説を読み、コロナウイルス連作短編と題した約60本の短編を書きあげ、その半分をルーマニア語と英語にそれぞれ翻訳し、ルーマニア語短編は毎月LiterNauticaというルーマニアの文芸誌に掲載され、英語短編は何の因果かブルガリア語とラトビア語に翻訳された。映画批評家としては300本の長編、100本の短編、10のドラマシリーズを貪りつくし、70本ものレビュー記事を書き上げ、50回もの映画作家映画批評家へのインタビューをやり遂げ(英語なので翻訳するという作業もこなした)その全てを鉄腸マガジンに掲載した。キネマ旬報にも記事が載り、クロアチアの映画雑誌Duartで編集兼ライターとして活動することにもなった。正直、心は達成感で満たされている。俺はやってやったんだと。しかしこれは完全に異常だと分かってもいる。何故なら私は、今まで幸せでありながらコロナウイルスによって不幸へと転落した人々を心のなかで嘲笑い、そして叫んでいた。"いい気味だ。そのまま死ね、ボケ!"

"虚無に陥るな、死を願うな。人生と、世界と真正面から向き合え!"……ここに挙げる20本の映画は、私をこの自暴自棄の状態から引き戻そうとし、私に真摯になれと諭してくれた作品だ。だからこそ私は感謝の念に堪えないし、これらの映画のおかげでこの2020年という年を正気で生きられたと感じている。蓮實重彦は新刊「見るレッスン」のなかで"「救い」を求めて映画を見に行ってはならない"と書いている。映画批評家として、この甘さを否定する峻厳な言葉を理解できる。だが生物として、生きる物として、この甘さを切り捨てられないと思うのだ。この時代に否応なく"生きること"が"映画を観るか観ないか考えること"に重なるなかで"映画を観ることの救い"とは究極の感傷であり、甘さだ。これを簡単に切り捨てられない、いや簡単に切り捨ててはならないのだ。それが生だ。御託はここまでにしよう。ここからこの2020年に私が一線を越えないようギリギリで支えてくれた20本の映画を紹介する。

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20.「初恋」(三池崇史、日本)

正直に言えば、その群像劇的な物語が展開するにつれて弛緩が極まっていく。しかし転がるペットボトルやコインロッカーの閉め方のような日本の日常に根差した、ささやかで細やかなディテールに支えられた末、そんな退屈な緩まりの中に、郷愁にも似た血まみれの詩情が澎湃として浮かびあがる。今年公開したもう1本の三池監督作「劇場版 ひみつ×戦士 ファントミラージュ! ~映画になってちょーだいします~」が彼の動と緊張を堪能できるなら「初恋」は静と弛緩の作家性を堪能できる。そしてその果ての、ちっぽけで親密なラストショットったら!

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19. "Otto barbarul" (Ruxandra Ghitescu, ルーマニア)
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恋人の自殺をきっかけに、パンク青年は救済としての死と果てしない虚無へと向かっていく。希望全てが殲滅された灰色の青春には、音楽の初期衝動もクソもなく、圧倒的な孤独だけが屹立する。恋人の凄惨な自殺未遂動画を観る時だけに訪れる、暖かな安らぎはあまりに切実すぎて、言葉すら枯れ果てる。壮絶なまでのドン詰まりに陥った主人公の中で全てが死へと収斂していく時、彼は一体何を選び取るのか。そこに光はあるのか?

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18. "Oroslan" (Matjaž Ivanišin, スロヴェニア)
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スロヴェニアの田舎町、1人の愛すべき老人が亡くなり、人々は深い悲しみに包まれながら、それぞれにかけがえのない思い出を紡いでいく。オロスランという死者がいかに愛されていたか? 彼らの声と言葉には死者への親密さと哀惜が滲んでいるのだ。直接は語られない言葉、つまりは"あなたがいなくて寂しいよ"という微笑み混じりの哀しみが浮かんでいるのだ。そして幸せな時間が終りを迎える時、生きることへの小さな、切実な祝福がもたらされる。2010年代スロヴェニア映画界の最後を飾る、輝ける奇跡のような優しさ。

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17. "Câmp de maci" (Eugen Jebeleanu, ルーマニア)
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閉じられた部屋で密かに育まれる愛、開かれた映画館でブチ撒けられる同性愛者たちへの敵意。激烈な憎悪と罵声、親密さの裏側にある"ホモは死ね"という絆。ゲイである警察官の心は引き裂かれながら、夜の映画館を彷徨う。今作は同性愛者たちをめぐるルーマニアの過酷なる現実を静かに、しかし凄まじい勢いで以て叩きつけられる映画だ。私はルーマニアという国をどこよりも深く愛している。愛しているからこそ、その闇の部分を知らねばならないという思いがある。今作はそれについて知り、深く考えるまたとない機会をくれた。感謝したい。

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16. "Мальчик русский / A Russian Youth" (Alexander Zolotukhin, ロシア)
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第1次世界大戦に従事した名もなき青年の物語を描くとともに、同時に現代に生きる指揮者がオーケストラに指示する言葉を観客は聞くことになる。今作においては、過去を描くフィクションと現代を描くドキュメンタリーが交錯している。そうして叩きつけられるのはあの忌まわしき戦争が起きていた過去は私たちが今生きている現実と地続きなのであるという紛れもない真実である。。ソ連映画の伝統とロシアの現在を荒業で繋ぎあわせる、時代錯誤にして最先端の1作。主人公の瞳に映る脅威はそのまま私たちにも降りかかりうる脅威として、今、不気味な輝きを増している。

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15. "Felkészülés meghatározatlan ideig tartó együttlétre" (Horvát Lili, ハンガリー)
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一目惚れという名の不条理。その理論や倫理を越えた凄絶なる不条理によって、主人公マールタは愛の荒野へと投げだされ、激情に突き動かされながら彷徨い続ける。抵抗も虚しく、その荒波のような勢力に呑みこまれ、愛へと突き進むことになる。ここにおいては全てが残酷だ。曖昧な不安も、束の間の喜びも、そして彼女の身体を包みこむ多幸感すらも。この残酷さを直視しながら、私たちも自身が経てきた愛について思いを馳せざるを得なくなる、心の深奥にこそ残る愛を。それほどの力がこの"Felkészülés meghatározatlan ideig tartó együttlétre"にはある。

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14. "Moffie" (Oliver Hermanus, 南アフリカ)
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血塗られたアンゴラ内戦を背景として、兵士となった青年が隠すゲイとしての欲望を見据えていく、そして南アフリカの負の歴史を背景としながら、この国でゲイとして生きることの苦悩を綴っていく。男性たちの肌が官能的に輝く撮影は、彼の欲望を強く、強く肯定しながら、あまりに壮絶な状況で彼自身が自分を受けいれられずにいる。それでもその寂しげな、切ない視線に道行きの幸福を祈りたくなる、そんな過酷で豊穣作品が"Moffie"だ。Hermanusの次回作であるという「生きる」リメイク作にはぜひとも期待したい。

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13. "Desterro" (Maria Clara Escobar, ブラジル)
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ボルソナーロ政権においてブラジル映画界は危機的な逆境に直面している。その最中に現れた"Desterro"はブラジルに生きるカップルの停滞を極めた日常を描く作品だ。死をめぐる官僚主義的な不条理、死に対する悍ましいまでの即物主義を経て、異様なる生の倦怠の迷宮へと至る。そして黙示録の時が訪れる時、私たちは途方もない絶望を目の当たりにするだろう。クレベール・メンドンサ・フィーリョがカーペンター紛いの信じられない駄作「バクラウ」を作ってしまった一方で、Escobarは現代ブラジル映画界の隆盛を不穏に寿ぐ、恐るべき作品を生み出してしまった。

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12. "Lingua Franca" (Isabel Sandval, フィリピン)
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アメリカ人とフィリピン人、アジア人と白人、認められた移民と不法移民、アジア移民と東欧移民、トランス女性とシス男性。そんな複層的な関係性が、ドナルド・トランプが移民やトランスジェンダーを筆頭としたLGBTQの人々への差別を先導する現代のアメリカにおいて紡がれることで辿りつく、希望とも絶望ともつかぬ場所。監督の視線は怜悧なれど何て、何て豊穣な物語なのか。日本人の批評家に"監督の出自のせいでその種の映画祭や文脈で評価されたり取り上げられてしまいそうだが、そのような形で紹介するには余りにも勿体ない作品"というのが、Sandovalが覚悟を以てトランス女性の物語を紡いでいるのに"その種の"とは何だろうか? そんな人間がカンヌ批評家部門のプログラマーを務めているのだ、新人を後押しする批評家週間が時代遅れに堕落するのも当然だろう。

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11.「迂闊な犯罪」(シャーラム・モクリ、イラン)
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"Careless Crime"は映画にまつわる映画である。だが映画への愛、映画館への郷愁を描いている訳ではない。私たちはこの作品を通じて、イランと映画の間に横たわる異様なる悪意と忌まわしき闇を直視させられることになる。まるで映画館にまつわるコロナ禍の絶望を更に炎上させるような凄まじい力を持ちあわせている。正直、この映画をどう解釈していいか今でも私は分からないでいる。そんな激しくも未分化な感情を観客に齎す作品が、この"Careless Crime"だ。

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10.「スーパー戦隊MOVIEパーティー 劇場版 騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー/魔進戦隊キラメイジャー エピソードZERO」(渡辺勝也&山口恭平、日本)

今、自己模倣を延々と繰り返してジョセフ・H・ルイスロバート・シオドマクら40年代50年代におけるハリウッドのB級映画職人たちの域まで辿りついたブライアン・デ・パルマ、今の日本で彼に対抗できる作品はあまりに少ない。だが私たちにはスーパー戦隊MOVIEパーティーがある。一切の淀みなき経済的語り、卓越した崇高な職人性、懐かしき2本立て興行という旧さ、それでいてテレビ放映など外部の作品を観なければ十全には映画を楽しみきれない、ある意味でMCUにも似た体験を重んじる物語構造。今作は旧世代と新世代のハリウッドの構造を内に搭載し、そういう意味ではアメリカ映画以上にアメリカ映画ながら、今作は紛れもなき日本映画として屹立する。日本の興行収入ランキングが話題になる時、間抜けな映画評論家や映画作家たちは"1本も観ていない(笑)"と無知を露呈する。悲惨だ。だが私たちは彼らの陳腐なニヒリズムに騙されることなく、誇りを以てスーパー戦隊MOVIEパーティーを観に行こう。そこに映画の未来があるのだから。

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9. "Moj jutarnjii smeh" (Marko Đorđević, セルビア)
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今作は寒々しく荒涼たる筆致で、孤独な男の魂の行く末を追う。彼はこの負の感情をどう処理していいのか分からず、何か行動に移すことが全くできないでいる。それが人生の停滞を引き起こし、負の螺旋を描き出されていく。そうして男性の性的不満についての物語として展開していくと思えば、社会から無理解を被るアセクシャルの物語としても解釈できる複雑さをも宿している。世界と相いれない寂しさや悲哀は濃厚なまでに滲み出ている身体にとって、その解消の鍵はある女性との関係性でありながら、可能性は曖昧で複雑微妙な地点へと至ることとなる。こうして描かれる繊細なる心の機微が圧巻だ。

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8. "18 kHz" (Farkhat Sharipov, カザフスタン)
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淀んだ鬱屈を持てあまし、2人の青年は闇へ深く潜行する……徹底的に凍てついた眼差しから描かれるカザフスタンの青春はあまりの荒廃に、果てしなき焦土を目撃するよう。そして焦土は出口なき迷宮へと変貌し、始まりも終りも消失した虚無が全てを包む。"18 kHz"は映画史にも稀なるドス黒い虚無を我々に提示する壮絶なる1作だ。だが絶望の先にこそ新たなる希望は広がるのかもしれない。何故ならこの絶望を提示したFarkhat Sharipovという映画作家は、カザフスタン映画界の大いなる2020年代を牽引する1人だと運命づけられたからだ。

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7. "Kopfplatzen" (Savaș Cevi, ドイツ)
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ドイツに生きる1人の小児性愛者、彼はシングルマザーとその息子と出会い…小児性愛者の現実を壮絶なまでの内省、傷つけることを運命づけられた交流、医療的な対話を通じ描く今作は、心が震わされるほどに衝撃的で誠実な、絶望についての物語だ。そして常日頃"この世界に産まれてきたことの絶望"と"私が生きるということは誰かを傷つけることを運命づけられている、という絶望"について考えている自分としては、ここで描かれるものはあまりにも、あまりにも身に覚えがありすぎて、心を本当に震わされた。私は主人公マルクスが死ではなく、生きることでもって絶望の先に行くことを願っている。

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6. "Izaokas" (Jurgis Matulevičius, リトアニア)
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このリトアニア映画は過去の罪を暴こうとする者、そして過去の罪を隠蔽しようとする者たちの静かな、しかし激烈なる闘争を描きだした作品だ。監督はこの闘争を誰もが出口へと辿りつけない迷宮的な悪夢として描きだしていく。その根本にあるものとはリトアニアの犯した罪への壮絶な反省と、そしてこの国に対する深淵さながらの絶望だろう。この国に希望はあるのか?と、そんな悲嘆がスクリーンからは聞こえてくるようだ。だが私が信じるのは、この自国の罪業をここまで痛烈に抉りだすJurgis Matulevičiusという若き才能が存在すること自体が、既に強靭な、峻厳なる希望であるということだ。

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5. "De l'or pour les chiens" (Anna Cazenave Cambet, フランス)
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アニエス・ヴァルダ「冬の旅」を彷彿とさせる、異性愛者である少女の痛ましい心の彷徨、そしてこの世で女性として生きることの苦痛から、少女2人の禁欲的で壮絶なクィア的絆を描く後半への移行はあまりに華麗だ。少女の性の目覚めを描きだす作品は欠伸が出るほどに多いが"De l'or pour les chiens"は他の映画が持つことのできなかったドラスティックさを持ちあわせている。肉体的なエロティシズムと精神的な官能性、ヘテロ的な愛のしがらみとクィア的な禁欲と峻厳の絆、1つの映画でこの極を行きかう様には脱帽という他ない。今作は間違いなく2020年最高のデビュー長編の1本だ。

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4. "Ofrenda" (Juan Mónaco Cagni, アルゼンチン)
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映画を観ている時、時おり映画にしかできないことはなんだろうと考えることがある。小説や演劇、絵画や彫像、芸術には様々な形態がありながらも、それを越えて映画にしかできないことは一体何かと。正直言って答えは簡単にでることはない。それでも、この映画がその答えだと言いたくなる作品が存在する。今作には言葉にし難い感情の数々が自然や人物の表情に浮かび上がりながらも、明確な形にされることはない。だからこそ切なさがこみ上げる瞬間というものがあるだろう。その瞬間がこの映画にはあまりにも多くある、そしてそれは映画にしか描けない魔術であるのだ。"Ofrenda"は映画にしかできないやり方でこそ、私たちの人生を祝福する。

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3. "Ieșirea trenurilor din gară" (Radu Jude&Adrian Cioflâncă, ルーマニア)
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1941年、ルーマニアの地方都市ヤシにおいてユダヤ人の大量虐殺が行われる。ナチスドイツに侵略されたルーマニアユダヤ人の大規模弾圧を開始する。6月29日、ユダヤ人たちは警察に拉致され、凄惨な拷問を受け、最悪の場合は射殺される。運良く生き延びたとしても、彼らは死の列車に載せられ、強制収容所へと送られていく。そして多くのユダヤ人は劣悪な環境の中での窒息や飢えによって死んでいった。この虐殺を被害者の写真と証言を基に再構成した本作では、10000人以上の死が淡々と読み上げられていく。その様はあまりにも悍ましい。ラドゥ・ジュデは「SHOAH」に匹敵する人間の残虐性についての映画を作り上げた。間違いなくルーマニア映画史に残る1作。

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2.「劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME」(杉原輝昭、日本)

この作品において"神は人間に生という試練を与えた"という命題が提示されることとなる。コロナウイルスによって世界中で人々が加速度的に亡くなっていく状況において、この命題は悍ましいリアリティを以て迫ってくる。しかし仮面ライダーゼロワンやバルカン、ヴァルキリー、そして滅や迅はそれと真正面から対峙する。私がそこに見るのは監督である杉原輝昭や脚本家の高橋悠也、そして大勢のスタッフたちが"今の時代に映画を作ること"や"今の時代にカメラを動かすこと"の意味と真正面から対峙する姿だ。弱さもある、甘さもある。しかし今作は暴力的逸脱をも越えて、世界を、人間を肯定する。今作は閉塞と絶望のこの時代に、私を生へと突き動かしてくれた熱き傑作だ。

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1.「死ぬ間際」(ヒラル・バイダロフ、アゼルバイジャン)
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これは少し誇張しすぎているかもしれない。だが今作を観終わった後の私は、1896年にリュミエール兄弟「ラ・シオタ駅への列車の到着」を初めて観た観客と同じような心地にある。スクリーンから猛然と列車が迫ってくる。その見たことのない迫真性に恐れを成した観客は、部屋のなかを逃げ惑う。彼らはそこに他でもない自分たちの死を見たからだ。そして私もまた「死ぬ間際」という作品のなかに己の死を見た。今でも心の震えを抑えることができていない。「死ぬ間際」を以て本当の意味で、映画の2020年代は幕を開けた。今作は今後の10年間を規定する1作となるだろう。そして私は映画の未来はアゼルバイジャンにあるという確信に至った訳である。

1.「死ぬ間際」
2.「劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME」
3. "Ieșirea trenurilor din gară"
4. "Ofrenda"
5. "De l'or pour les chiens"
6. "Izaokas"
7. "Kopfplatzen"
8. "18 kHz"
9. "Moj jutarnji smeh"
10.「スーパー戦隊MOVIEパーティー 劇場版 騎士竜戦隊リュウソウジャーVSルパンレンジャーVSパトレンジャー/魔進戦隊キラメイジャー エピソードZERO」

11.「迂闊な犯罪」
12. "Lingua Franca"
13. "Desterro"
14. "Moffie"
15. "Felkészülés meghatározatlan ideig tartó együttlétre"
16. "Мальчик русский / A Russian Youth"
17. "Câmp de maci"
18. "Oroslan"
19. "Otto barbarul"
20.「初恋」

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