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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Gregor Božič&"Zgodbe iz kostanjevih gozdov"/スロヴェニア、黄昏色の郷愁

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さて、スロヴェニアである。この国はイタリアと国境を接しており、歴史的にも大きな結びつきを見せていた。特にイタリアが枢軸国として侵略戦争を行っていた第2次世界大戦時代、2つの国の国境付近では静かなる激動が起こっていた。今回はそんな状況を極個人的な視点から描き出した作品、〇監督によるデビュー長編"Zgodbe iz kostanjevih gozdov"を紹介していこう。

大工のマリオ(Massimo De Francovich)は妻と一緒に山奥で暮らしていた。孤独ながらも平穏な生活が続く中で、しかし戦争の影がスロヴェニアに近づいてくるにつれて、妻の体調がどんどん悪くなっていく。彼は彼女を治す術を探すのだったが……

もう1人の主人公はマルタ(Ivana Roščić)という若い女性、彼女は栗を取って売るのを生業としていたが、そうして暮らす人物はもはや彼女だけになっていた。彼女は愛した男の帰還を待ちながら、独りで暮らし続けていた。そんな中、マリオとマルタは出会い、変わりゆくスロヴェニアを共に見つめることになる。

まず際立つのは、2人を包みこむ自然の豊かさだ。撮影監督であるFerran Paredesが捉える、濃厚なる影を纏った暗緑色の自然は、まるで闇のように彼らの周りを漂い続ける。その異様な暗さは、第2次世界大戦という忌まわしき歴史によって更に濃厚なものへとなっていく。ここにおいて、自然の中に安らぎというものは存在しないのである。

だがその安らぎの不在を越えるものを提供するのが、今作をいろどる色彩の豊かさである。世界には常に夕暮れに満ちるだろう橙色と紫色が存在し続けている。これが黒い闇の間で光を放つ様はすこぶる美しいものだ。その色彩は常に黄昏の侘しさへと接続されていく。

そしてそれはどこか遠い場所への郷愁へと繋がる。例えば、この映画を観た私は2019年の東京にいた。そうでいながらも、同時に私は1940年代のスロヴェニアにどこか切ない懐かしさを抱いたのだ。確かにその実情は厳しいものかもしれないが、それすらも越えてあの美しさに私は郷愁を抱いたのだ。2019年と1940年代、日本とスロヴェニア、その時間的にも地理的にも遠い場所を繋げる力が今作には存在しているのだ。

この郷愁は、スロヴェニアを含めた旧ユーゴスラビア映画には多く観られたものだった。例えばIvica Matić監督によるボスニア映画"Žena s krajolikom"だ。今作はある1人の画家の生涯を描き出した作品だが、それゆえに絵画的な色彩感覚が駆使されており印象的だ。そしてその自然を綴る深い色彩が、観る者の心から郷愁を喚起するのである。

そうした不穏さや郷愁とともに、この"Zgodbe iz kostanjevih gozdov"は物語を展開させていく。静かなる激動によって翻弄されていく2人の姿を繊細な筆致で描き出していくのだ。そして彼らは1つの終りへと突き進んでいき、自身も歴史へとその姿を変えていくのだ。

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