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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Li Cheng&"José"/グアテマラ、誰かを愛することの美しさ

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さてグアテマラである。あなたはグアテマラについて何か知っていることがあるだろうか。正直言って私はラテンアメリカ諸国の1国ということしか知らない。調べているとこんな文章が出てきた。“この国は最も危険で、最も宗教的で、最も貧しい国の1つ”だというのだ。ふむ、そうなのかという感じなのだが、今回はそんなグアテマラを舞台にこの地に広がる日常と愛を描き出す作品、Li Cheng監督作"José"を紹介していこう。

今作の主人公であるホセ(Enrique Salanic)は19歳の青年で、50代の母親(Ana Cecilia Mota)とグアテマラ・シティの郊外に住んでいる。昼はレストランで汗水垂らして働き、夜はネットで出会った男性たちと行きずりで関係を結んでいる。そんな彼の日々には貧困という濃い影がかかっている。電気代すらも払えない現状に甘んじながらも、ホセは母と共に日々を精一杯生き抜いている。

まず描かれるのはグアテマラに広がる些細で愛おしい風景の数々だ。ホセのようにレストランで働く人々は昼間道の真ん中に立って、通る車を追いかけていき必死に客を呼び寄せようとする。夜には公園で集まって思い思いに騒ぎながら、色とりどりの花火を打ち上げていく。そして深い黄色の街灯に照らされた深夜の住宅街は美しく輝いている。

しかしその裏側には残酷な二面性も隠れている。バスでは堂々と泥棒が乗客から携帯を盗み取り、他の乗客たちは恐怖からかそれを完全に無視する。そして女性が独りで夜道を歩いていると、いきなり男たちが現れて、暴行を加えた後に荷物を奪って逃げ去っていく。そういった恐ろしい出来事がここではそこかしこ、日常茶飯事で起こっているのだ。

そんな中で、ある日ホセはルイス(Manolo Herrera)という男性と出会う。最初はいつもの通り行きずりの関係かと思われたが、レストランを抜け出してホテルで愛を交わすうちホセは彼に深く惹かれていく。唇を優しく重ね合わせたり、互いの身体に刻まれた傷について親密に語り合ったり、ホセはルイスといる時に深い安らぎを感じていた。

監督はそんな愛の風景を端正で瑞々しく描き出していく。監督と撮影監督のPaolo Gironは日常を描く際、カメラを被写体から遠くに置いて人々を眺めるようにして撮影する。だが2人を映し出す時はその表情が鮮やかに映るように、レンズを彼らに肉薄させる。バイクに2人で乗りながらいちゃつく場面は頗る微笑ましいものだし、独りの夜に愛を我慢できなくなりホセが深夜の町を全力で走り抜ける場面の若さは何とも眩しいものだ。監督の描く愛、その全てが息を呑むほど瑞々しいのである。

しかしそこには翳りも見え始めてくる。母親が自分の息子は同性愛者であることに感づき始め、彼を抑圧しようと行動し出すのだ。それと同時に、ルイスはホセに対してこの町を出て別の場所で一緒に生きようと懇願することになる。しかし母親の行動を知ってか知らずか、ホセは母親を独りにはできないと懇願をはねのけ、喧嘩の末に彼らの関係性は決裂の時をむかえてしまう。そしてホセは再び独りになってしまう。

そうして2つの愛のジレンマの中で苦悩する果て、ホセは本当の自分自身を見つけ出すために旅へと出かける。目前に広がる様々な光景を通じて、彼は“自分自身とは何か?”“愛とは何か?”という思索を重ね続けていく。それに対して監督は明確な答えを出すことはない。それでも“”という作品は、抑圧的な状況の中で誰かを真に愛することの瑞々しさを真っ直ぐに、美しく歌い上げている。ヴェネチア国際映画祭において優れたクィア映画に贈られるクィア・ライオンを獲得したのも納得の1作だ。

Li Chengは中国出身、ラテンアメリカを拠点とする映画作家だ。好きな映画はイタリアのネオリアリズモやホウ・シャオシェンだという。1999年にアメリカへと移住後、最初は生物工学の分野で働いていたが一念発起して映画を勉強し始める。そして2014年には初の長編作品"Joshua Tree"を手掛ける。アメリカン・ドリームの崩壊を描き出した作品はアメリカ国内外で話題となる。その後ラテンアメリカに移住し、各国で映画製作のための調査を行う。2018年にはその結実として第2長編である"Jose"を監督、ヴェネチアクィア・ライオンを獲得したことは上述の通りである。今年でグアテマラには住んで2年だそうで、この国で新しい映画を作るのか、それとも新天地で映画を製作するのか。何にしろCheng監督の今後に期待。

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