鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

アンドリュー・バジャルスキー&"Support the Girls"/女を救えるのは女だけ!

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181006231711j:plain

アンドリュー・バジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
アンドリュー・バジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
アンドリュー・バジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
アンドリュー・バジャルスキー&"Computer Chess"/テクノロジーの気まずい過渡期に
アンドリュー・バジャルスキー&「成果」/おかしなおかしな三角関係
ジャルスキー監督の略歴、および長編作品についてはこの記事を参照

さて“マンブルコアという言葉が生まれて10年になった。もう使うのは止めにしないか?”という記事がIndiewireに書かれて約3年が経った。未だにマンブルコアという言葉は普通に使われたり(実際、私も結構使っている)日本でもマンブルコア受容がやっと始まった訳であるが、当のマンブルコアという言葉を広めた張本人アンドリュー・バジャルスキーは何をしているのか。と、言えば映画を製作しているに決まっている。そんなブジャルスキは今年、念願の最新長編を完成させた。その第6長編の題名は“Support the Girls”、この作品はバジャルスキーが完全にマンブルコアを払拭した記念すべき1作として語られるだろう。

リサ(「最終絶叫計画」レジーナ・ホール)はスポーツバー“Double Whummies”(コンセプトと制服からいって明らかに元ネタはフーターズである)のマネージャーとしていつも忙しい日々を送っていた。この日もそうだ。天井からガンガン謎の音が鳴り響いたかと思えばそこに不審人物がいたり、面接を行って新人たちの面倒を見なくてはいけなかったり、朝からてんやわんやの忙しなさである。

今作の核となるのはそんなリサの日常風景だ。毎日やってくる面倒臭い常連客の扱いに苦労し、故障して点かなくなったテレビの修理を頼みに電化製品店に急ぎ、経営上の理由から長く勤めてきた料理人の首を切り、店員が連れてきた子供の子守りを協力して行い、採用した新人を一から教育しと右往左往、仕事は山積みも山積みだ。

仕事が次々と降って湧いてくるリズムに共鳴するように、畳み掛けてくる台詞の数々は今作を象徴する要素ともなっている。その会話の物量は凄まじいもので、ギャグを交えて繰り出されるのは独り言に愚痴に命令に嘆願にお喋りにと、色とりどりの言葉のマシンガン状態である。それを聞いているだけでも楽しいものがあるというべきだろう。

しかしリサの抱える問題は仕事だけではない、私生活もなかなかに滅茶苦茶である。夫とは倦怠期気味であり新居決めも上手く行きやしない。義理の娘はクズみたいな彼氏と共に金を持って家を出ていく気満々でもうウンザリである。そうして家庭と仕事、両方において窮地に陥りながらも、リサは持ち前のタフさを以て問題を潰して潰して潰しまくる。

驚くべきなのはこんな映画をあのマンブルコアのゴッドファーザーであるアンドリュー・バジャルスキーが監督したことである。前作までは有名俳優を起用したりデジタルで撮影したり、そういった中にも三角関係や台詞のモゴモゴぶりなどバジャルスキーの色は確かに残っていたが、今作にそういった要素は一切存在しない。デジタル撮影、有名俳優起用、練られた台詞の数々、奇妙な愛の風景からの脱却などなど、全く新しい極致に至った彼の新境地的作品を楽しむことができる訳である。

とは言えブジャルスキっぽさもここには存在していることはしている。例えば彼の作品に出てくる男性陣は揃いも揃ってダメ人間ばかりだが、今作でもその傾向は健在だ。店員たちに手を出してリサにキレられるのは男だけだし、彼女の上司であるカディーはロクに職務もこなさない癖に命令だけはいっちょ前でやはりリサはブチ切れる。ここに出てくる男はちょっとした騒動を巻き起こしてばかりいる。男という存在は凄まじく面倒臭いのだと今作は描き出している。

その一方で女性たちはやはりダメな所は多くありながらも、愛すべき存在として描き出される。例えばメイシー(「スウィート17モンスター」ヘイリー・ルー・リチャードソン)というキャラクターは世話好きな性格で後輩思い、規則違反も時にはやらかしながらも店の看板娘として表でも裏でも活躍している。他の店員たちも店に連れてこられた子供を皆で甲斐甲斐しく世話したりと連帯を密にしている。女を助けられるのは私たち女しかいないとばかり、男への幻滅と女性同士の連帯という希望を胸に、彼女たちは働き続けるのである。

“Support the Girls”はいわゆる職場コメディという代物である。その中でも今作はジェーン・フォンダ「9時から5時まで」サリー・ホーキンス「ファクトリー・ウーマン」などの、女性と労働が密接に関わるフェミニズム的側面を持った映画の系譜、その最先端に位置している作品なのだ。辛い職場環境を女性たちの連帯で以て逞しく生き抜こうとする姿に笑いを交えた共感や感動を覚える人々は少なくないはずだ。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181006231720j:plain

結局マンブルコアって何だったんだ?
その1 アーロン・カッツ&"Dance Party, USA"/レイプカルチャー、USA
その2 ライ・ルッソ=ヤング&"You Wont Miss Me"/23歳の記憶は万華鏡のように
その3 アーロン・カッツ&"Quiet City"/つかの間、オレンジ色のときめきを
その4 ジョー・スワンバーグ&"Silver Bullets"/マンブルコアの重鎮、その全貌を追う!
その5 ケイト・リン・シャイル&"Empire Builder"/米インディー界、後ろ向きの女王
その6 ジョー・スワンバーグ&"Kissing on the Mouth"/私たちの若さはどこへ行くのだろう
その7 ジョー・スワンバーグ&"Marriage Material"/誰かと共に生きていくことのままならさ
その8 ジョー・スワンバーグ&"Nights and Weekends"/さよなら、さよならグレタ・ガーウィグ
その9 ジョー・スワンバーグ&"Alexander the Last"/誰かと生きるのは辛いけど、でも……
その10 ジョー・スワンバーグ&"The Zone"/マンブルコア界の変態王頂上決戦
その11 ジョー・スワンバーグ&"Private Settings"/変態ボーイ meets ド変態ガール
その12 アンドリュー・ブジャルスキー&"Funny Ha Ha"/マンブルコアって、まあ……何かこんなん、うん、だよね
その13 アンドリュー・ブジャルスキー&"Mutual Appreciation"/そしてマンブルコアが幕を開ける
その14 ケンタッカー・オードリー&"Team Picture"/口ごもる若き世代の逃避と不安
その15 アンドリュー・ブジャルスキー&"Beeswax"/次に俺の作品をマンブルコアって言ったらブチ殺すぞ
その16 エイミー・サイメッツ&"Sun Don't Shine"/私はただ人魚のように泳いでいたいだけ
その17 ケンタッカー・オードリー&"Open Five"/メンフィス、アイ・ラブ・ユー
その18 ケンタッカー・オードリー&"Open Five 2"/才能のない奴はインディー映画作るの止めろ!
その19 デュプラス兄弟&"The Puffy Chair"/ボロボロのソファー、ボロボロの3人
その20 マーサ・スティーブンス&"Pilgrim Song"/中年ダメ男は自分探しに山を行く
その21 デュプラス兄弟&"Baghead"/山小屋ホラーで愛憎すったもんだ
その22 ジョー・スワンバーグ&"24 Exposures"/テン年代に蘇る90's底抜け猟奇殺人映画
その23 マンブルコアの黎明に消えた幻 "Four Eyed Monsters"
その24 リチャード・リンクレイター&"ROS"/米インディー界の巨人、マンブルコアに(ちょっと)接近!
その25 リチャード・リンクレイター&"Slacker"/90年代の幕開け、怠け者たちの黙示録
その26 リチャード・リンクレイター&"It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books"/本を読むより映画を1本完成させよう
その27 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その28 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その29 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その30 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その31 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その32 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その33 ケント・オズボーン&"Uncle Kent"/友達っていうのは、恋人っていうのは
その34 ジョー・スワンバーグ&"LOL"/繋がり続ける世代を苛む"男らしさ"
その35 リン・シェルトン&"We Go Way Back"/23歳の私、あなたは今どうしてる?
その36 ジョー・スワンバーグ&「ハッピー・クリスマス」/スワンバーグ、新たな可能性に試行錯誤の巻
その37 タイ・ウェスト&"The Roost"/恐怖!コウモリゾンビ、闇からの襲撃!
その38 タイ・ウェスト&"Trigger Man"/狩人たちは暴力の引鉄を引く
その39 アダム・ウィンガード&"Home Sick"/初期衝動、血飛沫と共に大爆裂!
その40 タイ・ウェスト&"The House of the Devil"/再現される80年代、幕を開けるテン年代
その41 ジョー・スワンバーグ&"Caitlin Plays Herself"/私を演じる、抽象画を描く
その42 タイ・ウェスト&「インキーパーズ」/ミレニアル世代の幽霊屋敷探検
その43 アダム・ウィンガード&"Pop Skull"/ポケモンショック、待望の映画化
その44 リン・シェルトン&"My Effortless Brilliance"/2人の男、曖昧な感情の中で
その45 ジョー・スワンバーグ&"Autoerotic"/オナニーにまつわる4つの変態小噺
その46 ジョー・スワンバーグ&"All the Light in the Sky"/過ぎゆく時間の愛おしさについて
その47 ジョー・スワンバーグ&「ドリンキング・バディーズ」/友情と愛情の狭間、曖昧な何か
その48 タイ・ウェスト&「サクラメント 死の楽園」/泡を吹け!マンブルコア大遠足会!
その49 タイ・ウェスト&"In a Valley of Violence"/暴力の谷、蘇る西部
その50 ジョー・スワンバーグ&「ハンナだけど、生きていく!」/マンブルコア、ここに極まれり!
その51 ジョー・スワンバーグ&「新しい夫婦の見つけ方」/人生、そう単純なものなんかじゃない
その52 ソフィア・タカール&"Green"/男たちを求め、男たちから逃れ難く
その53 ローレンス・マイケル・レヴィーン&"Wild Canaries"/ヒップスターのブルックリン探偵物語!
その54 ジョー・スワンバーグ&「ギャンブラー」/欲に負かされ それでも一歩一歩進んで
その55 フランク・V・ロス&"Quietly on By"/ニートと出口の見えない狂気
その56 フランク・V・ロス&"Hohokam"/愛してるから、傷つけあって
その57 フランク・V・ロス&"Present Company"/離れられないまま、傷つけあって
その58 フランク・V・ロス&"Audrey the Trainwreck"/最後にはいつもクソみたいな気分
その59 フランク・V・ロス&"Tiger Tail in Blue"/幻のほどける時、やってくる愛は……
その60 フランク・V・ロス&"Bloomin Mud Shuffle"/愛してるから、分かり合えない
その61 E.L.カッツ&「スモール・クライム」/惨めにチンケに墜ちてくヤツら
その62 サフディ兄弟&"The Ralph Handel Story”/ニューヨーク、根無し草たちの孤独
その63 サフディ兄弟&"The Pleasure of Being Robbed"/ニューヨーク、路傍を駆け抜ける詩
その64 サフディ兄弟&"Daddy Longlegs"/この映画を僕たちの父さんに捧ぐ
その65 サフディ兄弟&"The Black Baloon"/ニューヨーク、光と闇と黒い風船と
その66 サフディ兄弟&「神様なんかくそくらえ」/ニューヨーク、這いずり生きる奴ら
その67 ライ・ルッソ=ヤング&"Nobody Walks"/誰もが変わる、色とりどりの響きと共に
その68 ソフィア・タカール&「ブラック・ビューティー」/あなたが憎い、あなたになりたい
その69 アンドリュー・バジャルスキー&"Computer Chess"/テクノロジーの気まずい過渡期に
その70 アンドリュー・バジャルスキー&「成果」/おかしなおかしな三角関係
その71 結局マンブルコアって何だったんだ?(作品リスト付き)
その72 リン・シェルトン&"Humpday"/俺たちの友情って一体何なんだ?
その73 リン・シェルトン&「不都合な自由」/20年の後の、再びの出会いは
その74 リン・シェルトン&「ラブ・トライアングル」/三角関係、僕と君たち
その75 リン・シェルトン&"Touchy Feely"/あなたに触れることの痛みと喜び
その76 リン・シェルトン&「アラサー女子の恋愛事情」/早く大人にならなくっちゃなぁ
その77 アンドリュー・バジャルスキー&"Support the Girls"/女を救えるのは女だけ!

Chloé Zhao&"The Rider"/夢の終りの先に広がる風景

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20170724082842j:plain

Chloé Zhao&"Songs My Brothers Taught Me"/私たちも、この国に生きている
Chloé Zhao監督の経歴とデビュー長編についてはこちら参照。

例えば野球選手でも小説家でもいい、ある出来事がきっかけでその夢が潰えてしまった後、そこに広がる風景とはどういうものなのだろうか。自分の愛する物から引き離された時、人はどんな生き方を始めるのだろうか。その先にある風景を描き出そうとする試みに満ちた作品が、米インディー映画界今注目の才能Chloé Zhao監督の最新長編“The Rider”だ。

青年ブレイディ(Brady Jandreau)は将来有望なロデオライダーとして期待される人物であったが、競技の最中頭部に大ケガを負ってしまったことでその未来は絶望的なものとなってしまった。ロデオをすることができず、大好きな馬にも乗ることができなくなってしまったブレイディは、望むと望まないとに関わらず、新しい生活を送らざるを得なくなる。

新しい生活とは穏やかながら刺激の全くない生活のことだ。障害を持つ妹のリリー(Lilly Jandreau)や気の置けない友人たちとの交流は楽しいが、ロデオに及ぶことはない。そして必要に駆られて故に勤めるスーパーマーケットでの仕事は退屈一色で以前の喜びからは程遠い。元々仲が悪かったギャンブル中毒の父ウェイン(Tim Jandreau)との関係も更に悪化し、事態はどんどん微妙なものとなっていく。

監督と撮影監督のJoshua James Richardsはそんなブレイディの日々を静かに綴っていく。不満と鬱屈が音もなく積み重なっていく現状、それをどうにも出来ないことへの不甲斐なさ、そういったものが淡々と日常が重ねられていくことで表現されていくのだ。そして一体この全てをどうすればいい?という深い深い苦悩へと、ブレイディは至ることになるのである。

Chloé Zhao監督は中国出身の映画作家であり、現在はアメリカを拠点としている。デビュー長編である“Songs My Brothers Taught Me”はパインリッジ居留地を舞台として、ネイティブ・アメリカンであるきょうだいの姿を詩的な筆致で描き出した作品だった。彼らの姿を通じて居留地に満ちる貧困や差別などを描いているのである。この作品に続いて製作された第2長編が“The Rider”という訳である。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181006225407j:plain

彼女の作品において特徴的なのがフィクションの中に宿るドキュメンタリー的な手触りだ。前述の“Songs~”は何百時間も撮影されたフッテージ映像を元にして作られた映画であり、それ故のリアルな感触がそこにはある。そして今回は実際のロデオライダーであるBrady Jandreauを主人公に起用して映画製作を始めている。実は別の内容の映画を作る筈だったのが、撮影中にJandreauがケガを負った故に、自然と内容が変わっていったという経緯がある。そんな訳で今作は実際の人物の人生に密着した映画でもあるのだ。

ここにおいて時おり描かれるロデオは苛酷そのものだ。劇中で何度か映像が現れるが、馬の動きは余りにも凄まじくその衝撃によって人間がボロ切れのように吹っ飛ばされることになってしまう。そんな競技の被害者の一人として、主人公の他にレイン(Lane Scott)という青年が登場する。彼は半身不随で最早喋ることすら叶わない状態に陥ってしまっている。そこまでロデオという競技は苛烈なものなのだ。そしてその傷は青年たちを越えて、アメリカそのものにも深く穿たれている。

そんなロデオはこのアメリカにおいては男らしさの象徴として屹立しているように思われる。馬の背で吹っ飛ばないようバランスを取りながら片腕を天へと掲げる姿には、雄々しく躍動するような感覚がある。だが今作の主眼はそこにはない。むしろその男らしさからあぶれてしまった人間の悲哀を描き出している。ブレイディという青年の中で男らしさは矜持と重なりあいながら脆く崩れ去っていく。監督はそんな様を繊細に描き出していく。

そしてもう1つ重要なのは人と馬の種族を越えた関係性だ。ある時からブレイディはアポロという馬を調教することとなり、彼と心を通わせていくこととなる。映画においてはその姿が丹念に描かれる。例えばまず初めて出会った時、荒ぶるアポロを宥めながら少しずつ距離を近づけていき、彼の背に乗るまでを綴った一連の場面には一種の感慨が滲む。その関係性の美しさが今作の中で輝いているのだ。しかしブレイディのケガはこの美しい関係性にまで魔の手を伸ばす。彼は夢の残骸から逃れられないのだ。

“The Rider”は夢の終わりの後に広がる風景を、繊細なる筆致で以て描き出す作品だ。その風景は陰鬱で希望もほとんど存在することがない。しかしそれでも全てを脱ぎ捨てていった末、最後に自分の心と対面を果たすブレイディの姿には感動が込み上げてくる。

今作は2017年のカンヌ映画祭ある視点部門で上映され最高賞を獲得、その後は世界各地で話題となった。そしてこれがきっかけで彼女はマーベルの最新映画“The Eternal”の監督に大抜擢される。アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」ルッソ兄弟スパイダーマン/ホームカミング」ジョン・ワッツなど、数々のインディー映画作家をスターダムに押し上げてきたマーベルとのタッグ、これが彼女のキャリアにどういった影響を与えるのか。期待半分不安半分でその行く末を待つことにしよう。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181006225417j:plain

ポスト・マンブルコア世代の作家たちシリーズ
その1 Benjamin Dickinson &"Super Sleuths"/ヒップ!ヒップ!ヒップスター!
その2 Scott Cohen& "Red Knot"/ 彼の眼が写/映す愛の風景
その3 デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える?
その4 Riley Stearns &"Faults"/ Let's 脱洗脳!
その5 Gillian Robespierre &"Obvious Child"/中絶について肩の力を抜いて考えてみる
その6 ジェームズ・ポンソルト&「スマッシュド〜ケイトのアルコールライフ〜」/酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい酒が飲みたい…
その7 ジェームズ・ポンソルト&"The Spectacular Now"/酒さえ飲めばなんとかなる!……のか?
その8 Nikki Braendlin &"As high as the sky"/完璧な人間なんていないのだから
その9 ハンナ・フィデル&「女教師」/愛が彼女を追い詰める
その10 ハンナ・フィデル&"6 Years"/この6年間いったい何だったの?
その11 サラ=ヴァイオレット・ブリス&"Fort Tilden"/ぶらりクズ女子2人旅、思えば遠くへ来たもので
その12 ジョン・ワッツ&"Cop Car"/なに、次のスパイダーマンの監督これ誰、どんな映画つくってんの?
その13 アナ・ローズ・ホルマー&"The Fits"/世界に、私に、何かが起こり始めている
その14 ジェイク・マハフィー&"Free in Deed"/信仰こそが彼を殺すとするならば
その15 Rick Alverson &"The Comedy"/ヒップスターは精神の荒野を行く
その16 Leah Meyerhoff &"I Believe in Unicorns"/ここではないどこかへ、ハリウッドではないどこかで
その17 Mona Fastvold &"The Sleepwalker"/耳に届くのは過去が燃え盛る響き
その18 ネイサン・シルヴァー&"Uncertain Terms"/アメリカに広がる"水面下の不穏"
その19 Anja Marquardt& "She's Lost Control"/セックス、悪意、相互不理解
その20 Rick Alverson&"Entertainment"/アメリカ、その深淵への遥かな旅路
その21 Whitney Horn&"L for Leisure"/あの圧倒的にノーテンキだった時代
その22 Meera Menon &"Farah Goes Bang"/オクテな私とブッシュをブッ飛ばしに
その23 Marya Cohn & "The Girl in The Book"/奪われた過去、綴られる未来
その24 John Magary & "The Mend"/遅れてきたジョシュ・ルーカスの復活宣言
その25 レスリー・ヘッドランド&"Sleeping with Other People"/ヤリたくて!ヤリたくて!ヤリたくて!
その26 S. クレイグ・ザラー&"Bone Tomahawk"/アメリカ西部、食人族の住む処
その27 Zia Anger&"I Remember Nothing"/私のことを思い出せないでいる私
その28 Benjamin Crotty&"Fort Buchnan"/全く新しいメロドラマ、全く新しい映画
その29 Perry Blackshear&"They Look Like People"/お前のことだけは、信じていたいんだ
その30 Gabriel Abrantes&"Dreams, Drones and Dactyls"/エロス+オバマ+アンコウ=映画の未来
その31 ジョシュ・モンド&"James White"/母さん、俺を産んでくれてありがとう
その32 Charles Poekel&"Christmas, Again"/クリスマスがやってくる、クリスマスがまた……
その33 ロベルト・ミネルヴィーニ&"The Passage"/テキサスに生き、テキサスを旅する
その34 ロベルト・ミネルヴィーニ&"Low Tide"/テキサス、子供は生まれてくる場所を選べない
その35 Stephen Cone&"Henry Gamble's Birthday Party"/午前10時02分、ヘンリーは17歳になる
その36 ネイサン・シルヴァー&「エレナ出口」/善意の居たたまれない行く末
その37 ネイサン・シルヴァー&"Soft in the Head"/食卓は言葉の弾丸飛び交う戦場
その38 ネイサン・シルヴァー&"Stinking Heaven"/90年代の粒子に浮かび上がるカオス
その39 Felix Thompson&"King Jack"/少年たちと"男らしさ"という名の呪い
その40 ジョセフィン・デッカー&"Art History"/セックス、繋がりであり断絶であり
その41 Chloé Zhao&"Songs My Brothers Taught Me"/私たちも、この国に生きている
その42 ジョセフィン・デッカー&"Butter on the Latch"/森に潜む混沌の夢々
その43 Cameron Warden&"The Idiot Faces Tomorrow"/働きたくない働きたくない働きたくない働きたくない
その44 Khalik Allah&"Field Niggas"/"Black Lives Matter"という叫び
その45 Kris Avedisian&"Donald Cried"/お前めちゃ怒ってない?人1人ブチ殺しそうな顔してない?
その46 Trey Edwards Shults&"Krisha"/アンタは私の腹から生まれて来たのに!
その47 アレックス・ロス・ペリー&"Impolex"/目的もなく、不発弾の人生
その48 Zachary Treitz&"Men Go to Battle"/虚無はどこへも行き着くことはない
その50 Joel Potrykus&"Coyote"/ゾンビは雪の街へと、コヨーテは月の夜へと
その51 Joel Potrykus&"Ape"/社会に一発、中指ブチ立てろ!
その52 Joshua Burge&"Buzzard"/資本主義にもう一発、中指ブチ立てろ!
その53 Joel Potrykus&"The Alchemist Cookbook"/山奥に潜む錬金術師の孤独
その54 Justin Tipping&"Kicks"/男になれ、男としての責任を果たせ
その55 ジェニファー・キム&"Female Pervert"/ヒップスターの変態ぶらり旅
その56 Adam Pinney&"The Arbalest"/愛と復讐、そしてアメリカ
その57 Keith Maitland&"Tower"/SFのような 西部劇のような 現実じゃないような
その58 アントニオ・カンポス&"Christine"/さて、今回テレビで初公開となりますのは……
その59 Daniel Martinico&"OK, Good"/叫び 怒り 絶望 破壊
その60 Joshua Locy&"Hunter Gatherer"/日常の少し不思議な 大いなる変化
その61 オーレン・ウジエル&「美しい湖の底」/やっぱり惨めにチンケに墜ちてくヤツら
その62 S.クレイグ・ザラー&"Brawl in Cell Block"/蒼い掃き溜め、拳の叙事詩
その63 パトリック・ブライス&"Creep 2"/殺しが大好きだった筈なのに……
その64 ネイサン・シルヴァー&"Thirst Street"/パリ、極彩色の愛の妄執
その65 M.P. Cunningham&"Ford Clitaurus"/ソルトレーク・シティでコメdっjdjdjcjkwjdjdkwjxjヴ
その66 Patrick Wang&"In the Family"/僕を愛してくれた、僕が愛し続けると誓った大切な家族
その67 Russell Harbaugh&"Love after Love"/止められない時の中、愛を探し続けて
その68 Jen Tullock&"Disengaged"/ロサンゼルス同性婚狂騒曲!
その69 Chloé Zhao&"The Rider"/夢の終りの先に広がる風景

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある
その305 Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について
その306 工藤梨穂&「オーファンズ・ブルース」/記憶の終りは世界の終り
その307 Oleg Mavromatti&"Monkey, Ostrich and Grave"/ネットに転がる無限の狂気
その308 Juliana Antunes&"Baronesa"/ファヴェーラに広がるありのままの日常

Juliana Antunes&"Baronesa"/ファヴェーラに広がるありのままの日常

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181005165447p:plain

ブラジルのスラム街ファヴェーラは犯罪の温床として悪名高い地域だ。それ故にシティ・オブ・ゴッド「エリート・スクワッド」など、この地を舞台として犯罪や暴力を扇情的に描き出していく作品がゼロ年代に多く作られていた。だがJuliana Antunes監督によるデビュー長編“Baronesa”はそんな風潮に反旗を翻すように、ファヴェーラのありのままの風景を描き出そうとする試みに満ちた作品だ。

今作の主人公アンドレイアはたくさんの子供たちを育てながら、ファヴェーラでの過酷な生活を逞しく生き抜いている女性だ。しかし治安の悪さなどもありここから別の場所で生活したいという願いも持っていた。それでもお金の問題もあり、簡単に身動きを取ることは出来ないまま、時だけが過ぎていく。

“Baronesa”はそんなアンドレイアの日常を淡々と描いていく作品だ。例えばアンドレイアが娘の髪をブラシでとかしてあげる姿、泣きわめく息子を叱りつける姿、ネイリストとして職務を全うする姿、友人たちと噂話や最近起こった暴力事件などについて語る姿。監督はそういった些細な出来事の数々を丹念に捉えていくのだ。

この映画に暴力や犯罪の風景はほぼ出てくることがない。あるのはファヴェーラだけでなくどこにでも広がっているだろう日常の風景だけだ。それ故にここにはある種のどかで牧歌的な雰囲気すらも宿っている。道端でサッカーを楽しむ少年たちの歓声には活力が漲っているし、アンドレイアたちにも笑顔が溢れているのだ。それだけ見れば他の地域と何ら変わる所がない。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180403123319j:plain

しかし彼女たちの暮らしぶりは良いものとは言えない。狭苦しい部屋に乱れたベッド、ボロボロになった外壁、アンドレイアたちを包み込む空間はそんな劣悪な環境が剥き出しになった場所だ。ファヴェーラ自体も荒廃の極みというべき状況を露にしている。寄せ集めで出来た家が冬眠する虫たちのように密集しており、それは今にも崩れてしまいそうな予感に満ち溢れている。

そんな暮らしぶりの中で重要な要素が日常の中に宿っている身体感覚だ。Antunesと撮影監督のFernanda de Senaは劇中において登場人物の手つきの数々を印象的に捉えていく。足の爪にネイルを塗っていく時の指の動き、子供たちの頭を撫でる時の優しい手つき、お喋り途中適当に手を遊ばせる時の何気ない動き、そういった行為を彼女たちは繊細に切り取っていくのだ。その感覚は更に拡張されていくのだが、それを象徴するのが劇中で披露されるダンスだ。まず冒頭が腰を動かすダンスで始まり、中盤でも軽快なダンスが披露されることとなる。それらは抑圧的な雰囲気の中でも自分を解放する術のように見えてくる。

だがそういった親密で愛おしい日常を破る存在もある。ある時アンドレイアは友人と共に談笑するうち楽しく歌を唄い始める。だが次の瞬間、凄まじい銃声が鳴り響きアンドレイアたちは逃げ惑うことになる。それはこの映画のスタッフも同じだ。カメラは激しく揺れ動き、その衝撃の深さを声高に語る。そしてカメラの震えにこそ、この地において死がいかに肉薄したものかということを思わざるを得なくなるだろう

それでもここで希望が捨てられることはない。銃撃の後、アンドレイアは丘の上へと向かう。そこには建設途中の家があるのだが、彼女は独りでその家を築こうと働く。セメントを塗りつけ、レンガを積み重ねていくアンドレイアの姿に宿るのは希望である。そして未だ安住の家は建設予定ながらも、そこにはいつか来たる平和や平等への願いが込められているのだ。“Baronesa”はファヴェーラをセンセーショナリズムから解き放つ試みを持った作品だ。被写体とカメラの親密さの中で、希望は静かに大きさを増していく。

最後に監督のプロフィールについて紹介しよう。Juliana Antunesは1989年にブラジルに生まれた。ベロオリゾンテのUNA大学で映画製作を学んでいた。そして数年の歳月をかけて、全員女性のクルーと共にデビュー長編“Baronesa”を完成させた。今作はリスボン国際インディペンデント映画祭やマル・デル・プラタ国際映画祭で作品賞を獲得するなど広く話題になる。現在は短編“Control Plan”と第2長編“Hit and Back Copacabana”を制作中だ。後者は2人の女性がベロオリゾンテからコパカバーナへの旅を通じて海を見るという夢を叶えようとする姿を描いた作品だそうだ。ということでAntunes監督の今後に期待。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181005165550j:plain

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある
その305 Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について
その306 工藤梨穂&「オーファンズ・ブルース」/記憶の終りは世界の終り
その307 Oleg Mavromatti&"Monkey, Ostrich and Grave"/ネットに転がる無限の狂気
その308 Juliana Antunes&"Baronesa"/ファヴェーラに広がるありのままの日常

Oleg Mavromatti&"Monkey, Ostrich and Grave"/ネットに転がる無限の狂気

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181001223241j:plain

こういうことを経験したことはないだろう。Youtubeなどの動画サイトで偶然見かけた動画、そこにはただの一般人が映っており彼/彼女は辿々しくも一生懸命に何かを喋っていて、同じような構図の作品が幾つも見つかるなんてことが。しかし動画の再生回数は全て10回かそこらで、それでもその人物は誰が見ているかも分からないままに動画を上げ続ける。そんな作品を見ていると微笑ましさと共に何となしの居たたまれなさを感じることがある。この人は何のために動画を上げているのか、動画を上げ続けられる動機とは一体何なのか、そんな思いが頭を巡るのだ。さて、今回はそんな居たたまれなさを未知の地平へと接続する意欲作である、Oleg Mavromatti監督作“Monkey, Ostrich and Grave”を紹介していこう。

今作の主人公はゲリディ(Viktor Lebedev)という何処にでも居そうな中年男性、彼の日課は動画サイトに自作の動画をアップすることdった。例えばある作品で彼はカメラに向かって昔祖母が話してくれたという“小さな王女さま”という昔話について語る。喋りの拙さや撮影/編集のダラダラ加減は正に素人技というべき代物であるが、頭痛の治し方や料理の手順を語るゲリディの姿には親しみや可笑しみが宿っている。

それでもその空気感は徐々に変わり始める。ある時ゲリディは唐突にUFOを見たと言い出す。彼は紙にUFOの形を書きながら興奮した面持ちでその出会いを語り、過去に遭遇した宇宙人についても喋っていく。そして次の動画ではアルミホイルで作った帽子を“UFOの音を捉える発明”だと主張し、聞く者を当惑させる。こうしてここに宿っていくのは日常が非日常によって侵されていく厭な感覚だ。最初は日常についての他愛ない語りであったのが、宇宙人やUFOなどの妄想に侵食され始める様は、不気味としか言いようがない。

しかしそれが妄想ではなくなり始める瞬間すらも存在している。妄想がエスカレートしたらしいゲリディは念力で新聞紙が燃やせると言い出す。最初は見事に失敗するのだが、その時点で何かがおかしいことに観客は気づくだろう。そしてその不信感は2回目に確かな驚異として結実する。2回目、彼は新聞紙に念を送ると、本当にそれが燃えてしまうのだ。歓声を上げて狂喜する彼の姿の中に、妄想と現実が混ざりあうのである。

そしてこの妄想/現実の対立に更なるレイヤーが刻まれることとなる。ある動画の中でゲリディは外に赴いて、視聴者の質問に答え始める。その内容は“どのインスタント麺が一番好きか?”だとかそういった冷やかし半分の物ばかりで笑いを誘うが、画面外からは叫び声や騒音が聞こえてくる。ゲリディは気まぐれにそちらへカメラを向ける。するとそこには頭から血を流して微動だにしない人間の身体が転がっているのだ、しかも幾つも。そして目前で銃撃戦すら行われている。それでもゲリディは呑気に質問に答え続けるのだ。その乖離は観客に奇妙な恐怖を与える。

この乖離の鍵はルガンスクという地にある。ゲリディの住む町であるルガンスクはロシアとウクライナの国境付近に位置する町である。そして今作の舞台となるのは2014年、つまり2国間の緊張感が最高潮にあったウクライナ東部紛争の時期なのである。紛争の最前線にあるこの場所においては血まみれの非日常はもはや日常以外の何物でもないのである。その意味で歴史的側面から見ても今作では日常/非日常が混在しており、それが異様に見えてくる訳である。

その混在が爆裂を遂げる瞬間がある。ゲリディはカメラに向かって灰色のノートに記した絵の数々を紹介することとなる。最初はまだ微笑ましい日常の絵や天使の絵などが紹介されながらも、ここにもやはりUFOや宇宙人が現れ始め、事態は不気味な展開を迎える。UFO内の様子、切断された中国人の首、血まみれで実験体になる男の姿。唾を飛ばしながら悲痛なまでの叫びで以て全てを曝け出すゲリディ、彼に宿る余りにも切実な狂気は胸に迫る。

“Monkey, Ostrich and Grave”はネットの海に転がっている他愛ない動画の数々を起点として、日常/非日常の境目を問うような恐ろしい作品だ。そして最後に私たちは、その二項対立を突き抜けた先にある戦慄を目の当たりにすることとなるだろう。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20181001223253j:plain

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある
その305 Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について
その306 工藤梨穂&「オーファンズ・ブルース」/記憶の終りは世界の終り
その307 Oleg Mavromatti&"Monkey, Ostrich and Grave"/ネットに転がる無限の狂気

工藤梨穂&「オーファンズ・ブルース」/記憶の終りは世界の終り

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180925195904j:plain

このサイトでは数々の日本未公開映画を紹介してきたが、今まで1度も日本映画は紹介してこなかった。何故なら日本未公開の日本映画を観る機会は当然少ないからだ。ながらも先にぴあフィルムフェスティバル(PFF)が開催されたのだが、有難いことに青山シアターで同時ネット配信も行われている故に、今後期待の新鋭の作品を観る機会に恵まれた。ということでこの恩恵に預かり、ここでは初めての日本映画を紹介したいと思う。その記念すべき第1本こそが工藤梨穂監督作「オーファンズ・ブルース」だ。

今作の主人公はエマ(村上由規乃)という若い女性、彼女は路上で本を売りながら生活をしている。煙草を片時も離さない彼女は、しかし徐々に記憶が失われてゆくという原因不明の病に罹っていた。そのせいで毎日の生活にすら支障が出る中で、エマは失われていく記憶と共に日々を静かに生きていた。

物語の序盤においてはエマが浸るゆったりと流れる日常を丹念に描き出していく。路上で本を売りおじさんと談笑する、料理をした後に鍋からそのままラーメンを啜る。だがそんな何気ない日常の中に時おり不穏な何かが兆すことにも観客は気づく筈だ。客に本の注文を頼まれたのにその全てを忘れてしまっている、記憶障害のために記したメモが隙間なくビッシリと壁を覆っている。ここにおける断片的な編集はそんな記憶の移ろいをそのまま表現しているようだ。

ある日、エマは壁に張られたメモの群れの中に、ヤンという名前の書かれた紙を発見する。それはエマにとって古い幼馴染みの名前だった。この名前に突き動かされ、彼女はヤンにもう1度会うため旅に出ることとなる。道中で友人であるバン(上川拓郎)と彼の恋人であるユリ(辻凪子)もひょんなことから合流し、3人での旅が幕を開ける。

旅を彩るのは美しい風景の数々だ。それらは日本というよりもアジアの文化が交わる地を旅しているような感覚を私たちに味あわせてくれる。極彩色のネオンに日本語とは異なる言語が飛び交う中華街、南国の樹木が立ち並ぶ活気に満ち溢れる昼市、そして日本的なと形容したくなる田舎街のだだっ広い道筋。その全てが1つの旅路に収斂する様には奇妙な魅力が宿っている。

そして風景が美しいだけでなく、谷村咲貴による撮影自体も頗る美しい。その眼差しの中では鮮やかな色彩がどこにおいても際立つのだ。沸騰して細かに震えるヤカンや産毛がそばだつエマの背中、田舎町に広がる広大な深緑や停電になった宿に満ちる闇の黒、静謐にたゆたうような海の青さ、そういった物が並列に並べられていき、美しさを見出だされる様には喜びが汪溢していると言うべきだろう。

そんな中でエマたちはヤンの友人が経営する民宿に流れ着き、そこで緩やかな日々を過ごすことになる。ビールを飲み、遅くまで眠り、海で遊ぶとそんな怠惰で楽しい日々。だがそこにおいても失踪したヤンの存在が不穏に浮かんでは消え去り、それと共にエマの記憶障害も悪化していく。彼女たちの元に、旅の終結は確実に近づいてきていた。

監督はその日々に現れる何気ない動作や表情の数々に、登場人物が抱える切実な思いを滲ませていく。誰もが真実の思いを心の奥底に隠しながらも、思いもよらない瞬間にそれが現れる。それを目撃してしまった時、私たちの胸を複雑な思いが打つのだ。そしてその思いの数々が夕陽の柔らかな橙に包まれる時、それらは郷愁へと接続されていく。ここではない何処かへの胸を締めつけるような郷愁へと。

今作にはロードムービーとしての興趣の他に、SF的な意匠をも施されている。冒頭から世界が少しずつ終末を迎えようとしている現状がラジオの音声などから仄めかされていく。故に旅路には失われゆく世界への切なさが滲み渡るのだが、それはまるでエマの記憶障害と共鳴するような感覚があるのだ。そうして「オーファンズ・ブルース」が失われゆく記憶と共に辿り着く先にあるのは、暖かなる世界の終わりなのである。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180925195914j:plain

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある
その305 Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について
その306 工藤梨穂&「オーファンズ・ブルース」/記憶の終りは世界の終り

Bogdan Theodor Olteanu&"Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă"/ルーマニア、私たちの愛について

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180924195512j:plain

現在、ルーマニアでは同性婚禁止の動きが活発化している。政府が国民投票によって結婚についての憲法条項の改訂を決めたのである。もしこれによって本当に同性婚が禁止されてしまったならば恐ろしいことだ。LGBTQである人々の権利が著しく侵害されてしまうのだから。そんな状況で大事なことはルーマニアにおいてLGBTQの人々の現実がどうなっているのかを知ることだろう。何事も知ることからこそ始まるのだ。そこで今回は中でもルーマニアに生きるレズビアン女性たちの愛の風景を描き出した作品である、Bogdan Theodor Olteanu監督作“Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă”を紹介していこう。

今作の幕開けを飾るのは、とある女性2人(Silvana Mihai&Florentina Nastase)のSkype上での会話の数々だ。特にどうということはない会話を繰り広げた後、彼女たちは1人の女性、背がとても高い女性についての話(タイトルの意味はこれである)を始める。彼女の隣にいると自分が小さく思える、彼女とは海辺で会ってそれからファックした……2人の共通の友人、というか共通の元恋人の話を通じて、彼女たちは少しずつ仲を深めていく。

そうして2人はーー劇中では名前が明かされないので、ここでは演者の名前を借りてシルヴァナとフロレンティーナということにしようーーシルヴァナの部屋で一緒に会うことになる。ワインを片手にSkypeの延長上にある他愛ない会話を繰り広げ、フロレンティーナが製作したドキュメンタリー作品を見て、いちゃいちゃするかと思えばシルヴァナがフロレンティーナの唇をかわしたりと2人は近づいたり遠ざかったりとを繰り返し続ける。

Olteanu監督の演出はリアリティ重視のものだ。彼は撮影監督Mihai Marius Apopeiと共に手振れの濃厚なカメラで以て、目前の光景をストイックに撮し取っていく。そうしてスクリーンから溢れるのは生々しい空気感だ。彼女たちの息の音や熱が、観客にこれでもかというリアルさを以て迫ってくるのである。それは例えばレズビアンが主役の映画でも「キャロル」などとは対局に位置するような演出指向と言える。あちらはもっと壮麗な形でレズビアンの愛を描き出していたが、こちらはとにかく地に足がついている、無駄を削ぎ落とした素朴さが要だ。現実が観る者に肉薄してくるとそんな印象を受ける。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180924195456j:plain

さて恐らく何度も書いているが、私はこのブログでマンブルコアというゼロ年代に始まった米インディペンデント映画界の潮流について記している(知らない人はこのページから追っていこう)超低予算であったりアドリブが主体で会話が常時モゴモゴしているといった特徴がある他、関係性と肉体性を密接に絡ませながら物語を描くという大きな共通点が存在する。その意味で今作は正にルーマニア版マンブルコアと形容するべき作品だ。特に初期のジョー・スワンバーグ作品に顕著だが、肉薄するような生々しさの中で動作=肉体性が重視される様はマンブルコアの演出形式と似通っている。

それは劇中で流れるドキュメンタリー映画にも反映されている。そのドキュメンタリーとは同棲中であるレズビアンカップルの日常を淡々と映し出した作品だ。一緒にキッチンを隅々まで掃除する、ベッドに寝転がってイチャイチャする、お風呂に入りながら煙草を吸う、そういった何気ない日常の数々が淡々と浮かんでは消えていく中に、彼女たちへの愛おしさが溢れてくる。

音が録音されていない故に生活音や会話は聞こえることがなく、私たちはダイレクトに彼女たちの動作だけを味わうことになる。固定カメラで静かに紡がれていく風景には生の表情や動作が浮かび上がり、その親密さが濃厚に伝わってくる。そして特に片方が片方にマッサージを施す場面においては、肉体性こそがこの関係性の中心にあるのだということを饒舌に語っている訳だ。

ここでシルヴァナたちの物語に戻ろう。私たちは彼女たちの交流を眺めるうち、2人の性格には決定的な違いがあることに気づくだろう。つまりフロレンティーナは関係性を築くのにとても積極的である、しかしシルヴァナは関係性を築くのにとても臆病であるという違いだ。そんな2人が互いの異なる性格を見据えながら、狭い部屋の中で心のうちを探りあう姿は、恋愛に身を浸したことがある人ならば身に覚えのあるだろう光景だろう。それを監督は胸に迫る切実さで以て捉えていくのだ。

しかしこの作品において2人が会う場所はシルヴァナの部屋だけであり、一緒に外へ出ることは一度たりともない。唯一部屋の中だけだ。それ故に2人の間には親密さの他にもどこか息苦しさすらも存在しているように思われる。それは宗教などの関係から頗る保守的なルーマニアにおいては、レズビアンであることを隠さなくてはいけないからというのもあるだろう。フロレンティーナは比較的自由を謳歌しながらも、シルヴァナは親にも自分がレズビアンであることについてカミングアウトできていないクローゼット状態なのもあり、苦しみは計り知れない。閉じられた部屋でしか自分を表現できない悲しみの存在が、今作に暗い影を投げ掛けていることは確かだ。

恋することの喜びも隠れて生きることの苦しみも含めた上で、“Câteva conversaţii despre o fată foarte înaltă”ルーマニアに生きるレズビアンたちの等身大の愛の物語を描き出した作品だと言えるだろう。彼女達がどこか息苦しくも親密に互いの心を探りあい辿り着く先にある物とは一体何なのか。ルーマニア同性婚禁止の動きがある今観られて良かった作品だ。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180924195536j:plain

ルーマニア映画界を旅する
その1 Corneliu Porumboiu & "A fost sau n-a fost?"/1989年12月22日、あなたは何をしていた?
その2 Radu Jude & "Aferim!"/ルーマニア、差別の歴史をめぐる旅
その3 Corneliu Porumboiu & "Când se lasă seara peste Bucureşti sau Metabolism"/監督と女優、虚構と真実
その4 Corneliu Porumboiu &"Comoara"/ルーマニア、お宝探して掘れよ掘れ掘れ
その5 Andrei Ujică&"Autobiografia lui Nicolae Ceausescu"/チャウシェスクとは一体何者だったのか?
その6 イリンカ・カルガレアヌ&「チャック・ノリスVS共産主義」/チャック・ノリスはルーマニアを救う!
その7 トゥドール・クリスチャン・ジュルギウ&「日本からの贈り物」/父と息子、ルーマニアと日本
その8 クリスティ・プイウ&"Marfa şi Banii"/ルーマニアの新たなる波、その起源
その9 クリスティ・プイウ&「ラザレスク氏の最期」/それは命の終りであり、世界の終りであり
その10 ラドゥー・ムンテアン&"Hîrtia va fi albastrã"/革命前夜、闇の中で踏み躙られる者たち
その11 ラドゥー・ムンテアン&"Boogie"/大人になれない、子供でもいられない
その12 ラドゥー・ムンテアン&「不倫期限」/クリスマスの後、繋がりの終り
その13 クリスティ・プイウ&"Aurora"/ある平凡な殺人者についての記録
その14 Radu Jude&"Toată lumea din familia noastră"/黙って俺に娘を渡しやがれ!
その15 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その16 Paul Negoescu&"Două lozuri"/町が朽ち お金は無くなり 年も取り
その17 Lucian Pintilie&"Duminică la ora 6"/忌まわしき40年代、来たるべき60年代
その18 Mircea Daneliuc&"Croaziera"/若者たちよ、ドナウ川で輝け!
その19 Lucian Pintilie&"Reconstituirea"/アクション、何で俺を殴ったんだよぉ、アクション、何で俺を……
その20 Lucian Pintilie&"De ce trag clopotele, Mitică?"/死と生、対話と祝祭
その21 Lucian Pintilie&"Balanța"/ああ、狂騒と不条理のチャウシェスク時代よ
その22 Ion Popescu-Gopo&"S-a furat o bombă"/ルーマニアにも核の恐怖がやってきた!
その23 Lucian Pintilie&"O vară de neuitat"/あの美しかった夏、踏みにじられた夏
その24 Lucian Pintilie&"Prea târziu"/石炭に薄汚れ 黒く染まり 闇に墜ちる
その25 Lucian Pintilie&"Terminus paradis"/狂騒の愛がルーマニアを駆ける
その26 Lucian Pintilie&"Dupa-amiaza unui torţionar"/晴れ渡る午後、ある拷問者の告白
その27 Lucian Pintilie&"Niki Ardelean, colonel în rezelva"/ああ、懐かしき社会主義の栄光よ
その28 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その29 ミルチャ・ダネリュク&"Cursa"/ルーマニア、炭坑街に降る雨よ
その30 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その31 ラドゥ・ジュデ&"Cea mai fericită fată din ume"/わたしは世界で一番幸せな少女
その32 Ana Lungu&"Autoportretul unei fete cuminţi"/あなたの大切な娘はどこへ行く?
その33 ラドゥ・ジュデ&"Inimi cicatrizate"/生と死の、飽くなき饗宴
その34 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その35 アドリアン・シタル&"Pescuit sportiv"/倫理の網に絡め取られて
その36 ラドゥー・ムンテアン&"Un etaj mai jos"/罪を暴くか、保身に走るか
その37 Mircea Săucan&"Meandre"/ルーマニア、あらかじめ幻視された荒廃
その38 アドリアン・シタル&"Din dragoste cu cele mai bune intentii"/俺の親だって死ぬかもしれないんだ……
その39 アドリアン・シタル&"Domestic"/ルーマニア人と動物たちの奇妙な関係
その40 Mihaela Popescu&"Plimbare"/老いを見据えて歩き続けて
その41 Dan Pița&"Duhul aurului"/ルーマニア、生は葬られ死は結ばれる
その42 Bogdan Mirică&"Câini"/荒野に希望は潰え、悪が栄える
その43 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある

ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180720121202j:plain

死によってある人の生が終わりを告げてしまったとする。しかしその人にとっての大切な人の人生は未だ終わることなく続いていくはずだ。そんな時、人々はどうやって喪失の悲しみや苦しみと向き合えばいいのだろうか。ミカエル・エール Mikhaël Hers監督は第2長編「サマー・フィーリング」において時間の流れの中に生まれるそんな苦しみと、しかしいつしか訪れる癒しを類い希な優しさを以て描き出していた。彼は3年の時を経て再びそのテーマに舞い戻り、前作とは異なる視点から洞察を深めようとする。そうして出来た作品こそが第3長編“Amanda”だ。

今作の主人公は24歳の青年ダヴィド(ヒポクラテスたち」ヴァンサン・ラコスト)、彼はマンションの管理人や公園の剪定人をしながら自由気ままな生活を送っていた。遠くイギリスに住む母親とは疎遠だが、姉のサンドリーヌ(Ophélia Kolb)や彼女の娘であるアマンダ(Isaure Multrier)との仲は良好で、アマンダを送り迎えしたり3人で一緒に遊んだりと、日々は穏やかに過ぎていく。

まず監督はダヴィドたちの過ごす日常を緩やかに描き出していく。例えばダヴィドが仕事に勤しむ姿、彼が自転車でパリを駆け抜ける姿、3人がサンドリーヌの部屋で賑やかに過ごす姿。そしてダヴィドはマンションに新しく住み始めたピアノ教師のレナ(ニンフォマニアック」ステイシー・マーティン)と交流を深め、急速にその距離は狭まっていく。こういった何の変哲もない日常が積み重なることで、この作品は形を成していく。

印象的なのはSébastien Buchmannによる息を呑むような美しさを誇る撮影だ。緑が溢れる路地裏には安らぎが満ちており、瀟洒なパリの街並みは洗練された美を観る者に披露する。だが何よりも美しく描かれるのはダヴィドたちが家で雑用をこなしたり、余暇を楽しむといった些細な出来事の数々だ。特に英語教師であるサンドリーヌが持っていた本から始まる、エルヴィス・プレスリーの曲に乗せた母と娘の快活なダンスには得難い幸福感が滲み渡っている。微笑みと歓声は、私たちにも笑顔を届けてくれるだろう。監督はそういった日常に宿る無二の輝きを見逃すことはない。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180813112824j:plain

しかしその幸福は長く続くことはない。ある日サンドリーヌは友人たちを連れだって公園へピクニックに赴く。しかし遅れてその場に到着したダヴィドが目の当たりにしたのは、血まみれの身体がそこかしこに転がる酸鼻に耐えぬ光景だった。この場でイスラム過激派が銃を乱射するという事件が起こったのだ。そしてテロによって命を落とした被害者の中に、サンドリーヌがいた。

それ故悲しみに暮れるダヴィドは叔母のモード(Marianne Basler)と共に、一時的にアマンダを預かることとなる。役所の職員からは後見人の座についてアマンダを成人するまで育てるという選択も可能だと言われるのだが、自分でも深い傷を抱えながら彼女を育てることなど出来るのだろうか?とダヴィドは悩み続ける。

ダヴィドとアマンダの関係性は、サンドリーヌの死をきっかけに大きく変わってしまう。アマンダは気丈に振る舞っているのか現状が理解できていないのか定かではないが、様子はいつもと余り変わらないように思われる。しかし時おり感情を爆発させて、涙を流し、悲しみを叫ぶ。それに対してダヴィドはどう対応していいのか分からずに狼狽えるばかりだ。そんな状況で、それでも彼女の傷を理解しようと寄り添ううちに、彼は自分の心に刻まれた傷とも対峙せざるを得なくなる。

監督の演出は、内容の劇的さとは裏腹に頗る淡々としたものだ。起こっていく出来事の数々を素朴に繋げていきながら、彼は2人の間に流れる時間をそのまま捉えていこうとする。その際に大仰な描写は極力排して、喪失の後の日常を静かに描き出していくのだ。それゆえ私たちはありのままの2人の姿を、ありのまま日常や時の流れを目撃することになる。

ダヴィドを演じるのはフランス映画界期待の新鋭であるヴァンサン・ラコスト、彼は自然体で以て等身大の青年役を演じており好印象だ。サンドリーヌ役のOphélia Kolbも物語の都合上出番は少ないものの、輝くような存在感は観客の瞼に焼きついてしばらく離れないことだろう。しかし今作の要はアマンダ役のIsaure Multrierだ。最も大切な母親を亡くし、時には悲嘆を露にしながらも必死に生きていこうとする彼女の姿は健気以外の何物ではなく、観る者の涙を誘う。

"Amanda"はテロによって姉の命が無残に失われた後、彼女の娘を育てることになった青年の苦悩を描き出す作品だ。それでもミカエル・エールほど何気ない日常の風景の中に宿る美しさを捉えられる監督は居ないのでは?と思わされるほど、哀しみの後に広がる胸を締めつける切なさと人生を生きることの喜びは鮮やかに描かれている。今作はヒューマニズムの1つの達成と言ってもいいだろう。

f:id:razzmatazzrazzledazzle:20180813112836j:plain

私の好きな監督・俳優シリーズ
その201 Yared Zeleke&"Lamb"/エチオピア、男らしさじゃなく自分らしさのために
その202 João Viana&"A batalha de Tabatô"/ギニアビサウ、奪われた故郷への帰還
その203 Sithasolwazi Kentane&"Woman Undressed"/ Black African Female Me
その204 Victor Viyuoh&"Ninah's Dowry"/カメルーン、流れる涙と大いなる怒り
その205 Tobias Nölle&"Aloys"/私たちを動かす全ては、頭の中にだけあるの?
その206 Michalina Olszańska&"Já, Olga Hepnarová"/私、オルガ・ヘプナロヴァはお前たちに死刑を宣告する
その207 Agnieszka Smoczynska&"Córki dancingu"/人魚たちは極彩色の愛を泳ぐ
その208 Rosemary Myers&"Girl Asleep"/15歳、吐き気と不安の思春期ファンタジー!
その209 Nanfu Wang&"Hooligan Sparrow"/カメラ、沈黙を切り裂く力
その210 Massoud Bakhshi&"Yek khanévadéh-e mohtaram"/革命と戦争、あの頃失われた何か
その211 Juni Shanaj&"Pharmakon"/アルバニア、誕生の後の救いがたき孤独
その212 済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!
その213 アレクサンドラ・ニエンチク&"Centaur"/ボスニア、永遠のごとく引き伸ばされた苦痛
その214 フィリップ・ルザージュ&「僕のまわりにいる悪魔」/悪魔たち、密やかな蠢き
その215 ジョアン・サラヴィザ&"Montanha"/全てはいつの間にか過ぎ去り
その216 Tizza Covi&"Mister Universo"/イタリア、奇跡の男を探し求めて
その217 Sofia Exarchou&"Park"/アテネ、オリンピックが一体何を残した?
その218 ダミアン・マニヴェル&"Le Parc"/愛が枯れ果て、闇が訪れる
その219 カエル・エルス&「サマー・フィーリング」/彼女の死の先にも、人生は続いている
その220 Kazik Radwanski&"How Heavy This Hammer"/カナダ映画界の毛穴に迫れ!
その221 Vladimir Durán&"Adiós entusiasmo"/コロンビア、親子っていうのは何ともかんとも
その222 Paul Negoescu&"O lună în Thailandă"/今の幸せと、ありえたかもしれない幸せと
その223 Anatol Durbală&"Ce lume minunată"/モルドバ、踏み躙られる若き命たち
その224 Jang Woo-jin&"Autumn, Autumn"/でも、幸せって一体どんなだっただろう?
その225 Jérôme Reybaud&"Jours de France"/われらがGrindr世代のフランスよ
その226 Sebastian Mihăilescu&"Apartament interbelic, în zona superbă, ultra-centrală"/ルーマニアと日本、奇妙な交わり
その227 パス・エンシナ&"Ejercicios de memoria"/パラグアイ、この忌まわしき記憶をどう語ればいい?
その228 アリス・ロウ&"Prevenge"/私の赤ちゃんがクソ共をブチ殺せと囁いてる
その229 マッティ・ドゥ&"Dearest Sister"/ラオス、横たわる富と恐怖の溝
その230 アンゲラ・シャーネレク&"Orly"/流れゆく時に、一瞬の輝きを
その231 スヴェン・タディッケン&「熟れた快楽」/神の消失に、性の荒野へと
その232 Asaph Polonsky&"One Week and a Day"/イスラエル、哀しみと真心のマリファナ
その233 Syllas Tzoumerkas&"A blast"/ギリシャ、激発へと至る怒り
その234 Ektoras Lygizos&"Boy eating the bird's food"/日常という名の奇妙なる身体性
その235 Eloy Domínguez Serén&"Ingen ko på isen"/スウェーデン、僕の生きる場所
その236 Emmanuel Gras&"Makala"/コンゴ、夢のために歩き続けて
その237 ベロニカ・リナス&「ドッグ・レディ」/そして、犬になる
その238 ルクサンドラ・ゼニデ&「テキールの奇跡」/奇跡は這いずる泥の奥から
その239 Milagros Mumenthaler&"La idea de un lago"/湖に揺らめく記憶たちについて
その240 アッティラ・ティル&「ヒットマン:インポッシブル」/ハンガリー、これが僕たちの物語
その241 Vallo Toomla&"Teesklejad"/エストニア、ガラスの奥の虚栄
その242 Ali Abbasi&"Shelly"/この赤ちゃんが、私を殺す
その243 Grigor Lefterov&"Hristo"/ソフィア、薄紫と錆色の街
その244 Bujar Alimani&"Amnestia"/アルバニア、静かなる激動の中で
その245 Livia Ungur&"Hotel Dallas"/ダラスとルーマニアの奇妙な愛憎
その246 Edualdo Williams&"El auge del humano"/うつむく世代の生温き黙示録
その247 Ralitza Petrova&"Godless"/神なき後に、贖罪の歌声を
その248 Ben Young&"Hounds of Love"/オーストラリア、愛のケダモノたち
その249 Izer Aliu&"Hunting Flies"/マケドニア、巻き起こる教室戦争
その250 Ana Urushadze&"Scary Mother"/ジョージア、とある怪物の肖像
その251 Ilian Metev&"3/4"/一緒に過ごす最後の夏のこと
その252 Cyril Schäublin&"Dene wos guet geit"/Wi-Fi スマートフォン ディストピア
その253 Alena Lodkina&"Strange Colours"/オーストラリア、かけがえのない大地で
その254 Kevan Funk&"Hello Destroyer"/カナダ、スポーツという名の暴力
その255 Katarzyna Rosłaniec&"Szatan kazał tańczyć"/私は負け犬になるため生まれてきたんだ
その256 Darío Mascambroni&"Mochila de plomo"/お前がぼくの父さんを殺したんだ
その257 ヴィルジル・ヴェルニエ&"Sophia Antipolis"/ソフィア・アンティポリスという名の少女
その258 Matthieu Bareyre&“l’Epoque”/パリ、この夜は私たちのもの
その259 André Novais Oliveira&"Temporada"/止まることない愛おしい時の流れ
その260 Xacio Baño&"Trote"/ガリシア、人生を愛おしむ手つき
その261 Joshua Magar&"Siyabonga"/南アフリカ、ああ俳優になりたいなぁ
その262 Ognjen Glavonić&"Dubina dva"/トラックの棺、肉体に埋まる銃弾
その263 Nelson Carlo de Los Santos Arias&"Cocote"/ドミニカ共和国、この大いなる国よ
その264 Arí Maniel Cruz&"Antes Que Cante El Gallo"/プエルトリコ、貧しさこそが彼女たちを
その265 Farnoosh Samadi&"Gaze"/イラン、私を追い続ける視線
その266 Alireza Khatami&"Los Versos del Olvido"/チリ、鯨は失われた過去を夢見る
その267 Nicole Vögele&"打烊時間"/台湾、眠らない街 眠らない人々
その268 Ashley McKenzie&"Werewolf"/あなたしかいないから、彷徨い続けて
その269 エミール・バイガジン&"Ranenyy angel"/カザフスタン、希望も未来も全ては潰える
その270 Adriaan Ditvoorst&"De witte waan"/オランダ映画界、悲運の異端児
その271 ヤン・P・マトゥシンスキ&「最後の家族」/おめでとう、ベクシンスキー
その272 Liryc Paolo Dela Cruz&"Sa pagitan ng pagdalaw at paglimot"/フィリピン、世界があなたを忘れ去ろうとも
その273 ババク・アンバリ&「アンダー・ザ・シャドウ」/イラン、母という名の影
その274 Vlado Škafar&"Mama"/スロヴェニア、母と娘は自然に抱かれて
その275 Salomé Jashi&"The Dazzling Light of Sunset"/ジョージア、ささやかな日常は世界を映す
その276 Gürcan Keltek&"Meteorlar"/クルド、廃墟の頭上に輝く流れ星
その277 Filipa Reis&"Djon África"/カーボベルデ、自分探しの旅へ出かけよう!
その278 Travis Wilkerson&"Did You Wonder Who Fired the Gun?"/その"白"がアメリカを燃やし尽くす
その279 Mariano González&"Los globos"/父と息子、そこに絆はあるのか?
その280 Tonie van der Merwe&"Revenge"/黒人たちよ、アパルトヘイトを撃ち抜け!
その281 Bodzsár Márk&"Isteni müszak"/ブダペスト、夜を駆ける血まみれ救急車
その282 Winston DeGiobbi&"Mass for Shut-Ins"/ノヴァスコシア、どこまでも広がる荒廃
その283 パスカル・セルヴォ&「ユーグ」/身も心も裸になっていけ!
その284 Ana Cristina Barragán&"Alba"/エクアドル、変わりゆくわたしの身体を知ること
その285 Kyros Papavassiliou&"Impressions of a Drowned Man"/死してなお彷徨う者の詩
その286 未公開映画を鑑賞できるサイトはどこ?日本からも観られる海外配信サイト6選!
その287 Kaouther Ben Hania&"Beauty and the Dogs"/お前はこの国を、この美しいチュニジアを愛してるか?
その288 Chloé Robichaud&"Pays"/彼女たちの人生が交わるその時に
その289 Kantemir Balagov&"Closeness"/家族という名の絆と呪い
その290 Aleksandr Khant&"How Viktor 'the Garlic' Took Alexey 'the Stud' to the Nursing Home"/オトンとオレと、時々、ロシア
その291 Ivan I. Tverdovsky&"Zoology"/ロシア、尻尾に芽生える愛と闇
その292 Emre Yeksan&"Yuva"/兄と弟、山の奥底で
その293 Szőcs Petra&"Deva"/ルーマニアとハンガリーが交わる場所で
その294 Flávia Castro&"Deslemblo"/喪失から紡がれる"私"の物語
その295 Mahmut Fazil Coşkun&"Anons"/トルコ、クーデターの裏側で
その296 Sofia Bohdanowicz&"Maison du bonheur"/老いることも、また1つの喜び
その297 Gastón Solnicki&"Introduzione all'oscuro"/死者に捧げるポストカード
その298 Ivan Ayr&"Soni"/インド、この国で女性として生きるということ
その299 Phuttiphong Aroonpheng&"Manta Ray"/タイ、紡がれる友情と煌めく七色と
その300 Babak Jalali&"Radio Dreams"/ラジオには夢がある……のか?
その301 アイダ・パナハンデ&「ナヒード」/イラン、灰色に染まる母の孤独
その302 Iram Haq&"Hva vil folk si"/パキスタン、尊厳に翻弄されて
その303 ヴァレスカ・グリーゼバッハ&"Western"/西欧と東欧の交わる大地で
その304 ミカエル・エール&"Amanda"/僕たちにはまだ時間がある