鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!!

映画痴れ者/ライター済東鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

私の好きな監督・俳優

Alvaro Gurrea&"Mbah jhiwo"/インドネシア、ウシン人たちの祈り

インドネシアの東ジャワ州にはウシン人という少数民族が住んでいる。元々はヒンドゥー教徒の国で会ったブランバンガン王国の住民だったが、18世紀に東インド会社によってイスラム教に改宗させられ、今はジャワ島の最東端であるバニュワンギ県に居住している…

Norika Sefa&"Në kërkim të Venerës"/コソボ、解放を求める少女たち

私は2020年の映画界を制する国の1つはコソボだと常々言っているが、2021年は正にコソボ映画界が大躍進を果たしそうだ。まず年間の長編制作数が5本ほどのこの国から既に1作がサンダンス映画祭、1作がロッテルダム映画祭に選出されるという快挙を成し遂げた。…

アゼルバイジャン、列車を待つ男~Interview with Şövkət Fikrətqızı

さて、このサイトでは2010年代に頭角を表し、華麗に映画界へと巣出っていった才能たちを何百人も紹介してきた(もし私の記事に親しんでいないなら、この済藤鉄腸オリジナル、2010年代注目の映画監督ベスト100!!!!!をぜひ読んで欲しい)だが今2010年代は終…

Iuli Gerbase&"A nuvem rosa"/コロナ禍の時代、10年後20年後

さて、世界中の誰もがこのコロナ禍によって未曽有の状況に追いこまれている。容易く人とは会えなくなり、部屋に閉じこもらざるを得ない閉塞した状況は一体いつまで続くのだろうか。そんな苦悩を抱えている人々は今回紹介する映画を観るべきではないかもしれ…

オランダ映画界、謎のエロ伝道師「処女シルビア・クリステル/初体験」

最近はそうでもなかったが、前はこの鉄腸マガジンで"文芸エロ映画"というジャンルを紹介していた。TSUATAYAなどのレンタル店にある外国映画の棚、その端に煽情的なタイトルの、ポルノではないけども限りなくポルノに近そうな題名の映画が多々置いてあること…

Marija Stonytė&"Gentle Soldiers"/リトアニア、女性兵士たちが見据える未来

ウクライナ・クリミア侵攻をきっかけとして、旧ソ連諸国においてロシアへの危機感が再燃している。その中の1国であるリトアニアは脅威に備えて徴兵制を設置、若い男性たちに兵役を課している。そして義務ではないが、少数の女性たちが志願兵として兵役を行っ…

Chloé Mazlo&"Sous le ciel d'Alice"/レバノン、この国を愛すること

レバノン映画はいつであってもその激動の歴史を見据え、傑作を生みだしてきた。例えばMaroun Bagdadi マルーン・バグダディは"Les petites guerres"や"Hors la vie"などレバノン内戦をテーマとした作品を作り続けたし、日本でも著名なNadine Labaki ナディー…

何物も心の外には存在しない~Interview with Noah Buschel

Noah Buschel&"Bringing Rain"/米インディー映画界、孤高の禅僧 Noah Buschel&"Neal Cassady"/ビート・ジェネレーションの栄光と挫折 Noah Buschel&"The Missing Person"/彼らは9月11日の影に消え Noah Buschel&"Sparrows Dance"/引きこもってるのは気が…

Critics and Filmmakers Poll 2020 in Z-SQUAD!!!!!

去年の今頃、焼酎を飲みながら何かのスロヴェニア映画を観ていた。確かこの国1の巨匠Boštjan Hladnik ボシュチャン・フラドニクの作品だったが、正確にどれだか思い出せない。でもこの時思ったのだ。スロヴェニア映画って全然知らないな、スロヴェニア映画史…

済藤鉄腸の2020年映画ベスト!

ラース・フォン・トリアーの「メランコリア」において、キルスティン・ダンスト演じる主人公ジャスティンは鬱病で最悪の状態にある。だが地球が巨大隕石によって近い将来滅亡すると知ってから、周りの人間はパニックに陥る一方で彼女の心は解き放たれ、その…

Janno Jürgens&"Rain"/エストニア、放蕩息子の帰還

いわゆる"放蕩息子の帰還"というべき作品は映画に限らずあらゆる芸術で何度も何度も語られているだろう。そしてそういった作品を何度も何度も私たちが楽しめるのは、文化や言語の違いがこの普遍的な物語に異なる感触を与えるからだ。今回紹介する"放蕩息子の…

Farkhat Sharipov&"18 kHz"/カザフスタン、ここからはもう戻れない

さて、最近のカザフ映画界の躍進は正に瞠目すべきものだ。詳しくはこの国期待の多産作家Adilkhan Yerzhanovを紹介する記事で説明したのでこちらを読んでほしいのだが、実はもう1人、2010年代初頭から静かに映画製作を行いながら、カザフ映画界を支えてきた映…

Ulla Heikkilä&"Eden"/フィンランドとキリスト教の現在

皆さんはキリスト教におけるConfirmation Campというものを知っているだろうか。このキャンプは思春期のキリスト教徒たちが集まり、信徒である大人たちの導きに従いながら信仰について考えるイベントである。彼らは数日間共同生活を行いながら聖書を読解した…

Jo Sol&"Armugan"/私の肉体が、物語を紡ぐ

最近、LGBTQである人々や発達障害を持つ人々が、それを公にしたうえで俳優として活躍する機会が少しずつ多くなってきている。だが一方で身体に障害を持つ人々、例えば車椅子ユーザーや脳性マヒ患者など、その当事者が俳優として活躍している例は余りに少ない…

Alejandro Guzman Alvarez&"Estanislao"/メキシコ、怪物が闇を彷徨う

ギレルモ・デル・トロといえばメキシコ映画を時代の寵児に押しあげた映画作家の1人だが、彼の作りだすモンスター映画は「クロノス」のように悍ましいスリルを喚起するものもあれば「シェイプ・オブ・ウォーター」のように切ない共感を呼ぶものもある。だがこ…

Alfonso Morgan-Terrero&"Verde"/ドミニカ共和国、紡がれる現代の神話

さて、ドミニカ共和国である。映画的な意味でこの国の影はかなり薄いと言わざるを得ない。だが確かに新たなる才能が現れている喜ばしい現実を無視するべきではないだろう。例えばLaura Amelia GuzmánとIsrael Cárdenasの監督コンビは"Dólares de arena"(レビ…

Jurgis Matulevičius&"Izaokas"/リトアニア、ここに在るは虐殺の歴史

razzmatazzrazzledazzle.hatenablog.com 監督Jurgis Matulevičiusのプロフィールと制作短編に関しては、このインタビュー記事を参照。第2次世界大戦はヨーロッパ中に今でも癒えない傷を残していった。リトアニアでは1941年にナチス・ドイツに占領された後、…

Morteza Farshbaf&"Tooman"/春夏秋冬、賭博師の生き様

最近のイラン映画がアツい。未だにキアロスタミ、パナヒ、ファルハーディといったイラン革命以後の巨匠たちの影響は濃厚ながら、その安全地帯から這い出て、新たなるイラン映画を作ろうとする映画作家たちが現れ始めている。例えばSaeed Roustaee サイード・…

Eugen Jebeleanu&"Câmp de maci"/ルーマニア、ゲイとして生きることの絶望

ルーマニアはLGBTQの権利という意味ではかなり保守的な部類に入る。それを象徴する事件が近年頻発している。例えばロマ文化研究者とロマ文化の担い手が恋に落ちる、ゲイ版"ロミオとジュリエット"と呼ばれるルーマニア映画"Soldații: Poveste din Fereastra"…

Ruxandra Ghitescu&"Otto barbarul"/ルーマニア、青春のこの悲壮と絶望

どこの国にも、どの時代にもパンク野郎というものはいて、若く苦悶に満ちた音を響かせているものだ。だがルーマニアのパンク野郎についての芸術作品を、あなたは観たことがあるだろうか?無いのならばあなたはRuxandra Ghitescu監督による驚くべきデビュー長…

Ismail Safarali&"Sessizlik denizi"/アゼルバイジャン、4つの風景

私はこの鉄腸マガジン上で2020年代の映画界を担うのはアゼルバイジャンだと何度も発言している。故に私はアゼルバイジャンの新たなる才能に目を光らせている訳だが、そこで出会ったのである。彼の名はIsmail Safarali、彼の最新短編"I Still Must Watch You …

Paúl Venegas&"Vacio"/エクアドル、中国系移民たちの孤独

中国系移民たちはよりよい未来を求めて世界各地へと散らばることになるが、彼らの行く先の1つがラテンアメリカだった。彼らは南米の異国の地で身を寄せ合いながら暮らし、今ではブエノスアイレスやサンパウロなど大都市各地に大きな共同体が作られているほど…

David Pérez Sañudo&"Ane"/バスク、激動の歴史と母娘の運命

2018年にバスク自由と祖国(ETA)が解散宣言を行ったことは記憶に新しい。しかしそれがバスク紛争の終りを告げたかと言えばそうではないし、人々の心には未だ過去が憑りついている。それはバスクの芸術家たちがこの長きに渡る紛争の時代を描き続けていることか…

Anna Cazenave Cambet&"De l'or pour les chiens"/夏の旅、人を愛することを知る

"De l'or pour les chiens"の始まりはいささか、いやかなり軽薄なものだ。制作会社のロゴが出る時点で男女の喘ぎ声が聞こえ、予想通りファーストショットから彼らが砂浜でセックスをする場面が映しだされる。カメラはある程度離れているが、女性の乳房が揺れ…

Pavol Pekarčík&"Hluché dni"/スロヴァキア、ロマたちの日々

東欧文化を語るうえでロマの存在は欠かせないだろう。東欧の人々は彼らの存在を否定する(私はルーマニア人と話すことが多いが、その傾向が多く見られる。"彼らはルーマニア人ではない"と)が、ロマの人々は確かに生きていて、独自の文化を築いている。最近注…

Esther Rots&"Retrospekt"/女と女、運命的な相互不理解

ゼロ年代も終りに近づいた2009年、1つの映画がオランダ映画界に激震を巻き起こした。それが新人監督Esther Rotsによるデビュー長編"Kan door huid heen"だった。精神的激動に見舞われた女性が救いを求める姿を描きだした本作は、オランダ最大の映画祭ロッテ…

Ameen Nayfeh&"200 Meters"/パレスチナ、200mという大いなる隔たり

パレスチナ人映画作家たちは魅力的な娯楽性を通じて、パレスチナの現状を語るのに長けた者たちが多い印象を受ける。例えばエリア・スレイマンは「D.I.」や「天国にちがいない」などにおいて知性に裏打ちされたユーモアと共に、パレスチナの現在を見据え続け…

Horvát Lili&"Felkészülés meghatározatlan ideig tartó együttlétre"/一目見たことの激情と残酷

一目惚れというものにはその人の人生を変貌させる、時には完膚なきまでに破壊し尽くす魔力が存在している。それは理論や倫理を越えた凄絶なる力を持ち合わせている。一度その魔力に憑りつかれた人間は抵抗も虚しく、その荒波のような勢力に呑みこまれ、愛へ…

Nora Martirosyan&"Si le vent tombe"/ナゴルノ・カラバフ、私たちの生きる場所

皆さんもニュースでご覧になられただろうが、今アルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフという地域を巡って激しい紛争を繰り広げている。Twitterでは紛争の動画が流れ(日本人はまるでこの動画を一種の娯楽作品のように捉え、気軽にTwitterで共有し…

Desiree Akhavan&"The Bisexual"/バイセクシャルとして生きるということ

デジリー・アッカヴァン&「ハンパな私じゃダメかしら?」/失恋の傷はどう癒える? - 鉄腸野郎Z-SQUAD!!!!! Desiree Akhavan監督の経歴と彼女のデビュー作"Appropriate Behavior"についてはこちら参照。今、日本で上映されている作品の中では「エマ、愛の罠…