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映画痴れ者/ライター済藤鉄腸のブログ。日本では全く観ることができない未公開映画について書いてます。お仕事の依頼は 0910gregarious@gmail.com へ

Sebastián Lojo&"Los fantasmas"/グアテマラ、この弱肉強食の世界

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さて、今までそれほど存在感を発揮してこなかったながらも、2010年代後半から俄かにグアテマラ映画界が活気を呈している。この国の若手作家ハイロ・ブスタマンテのデビュー長編「火の山のマリア」がベルリン国際委映画祭のコンペ部門に選ばれた後、彼の後続作"Temblores"が再びのベルリン、"La llorona"ヴェネチア国際映画祭に選出された。更に他の映画作家たちも意気軒高とばかりに、César Díaz"Nuestras madres"(今作のレビュー記事はこちら)はカンヌ国際映画祭批評家週間に選出され、Li Cheng"José"(今作のレビュー記事はこちら)はヴェネチアで上映され優れたLGBTQテーマ作品に贈られるクィア・ライオンを獲得した。こうして一気に存在感を発揮し始めているグアテマラだが、また新たな才能がここから現れた。ということで今回紹介するのはグアテマラの新人作家Sebastián Lojoと彼のデビュー作品"Los fantasmas"だ。

今作はグアテマラの首都であるグアテマラ・シティを舞台とした群像劇である。ハンサムな青年コキ(Marvin Navas)は昼と夜、全く異なる顔を使い分けながらこの残酷な都市での生活を生き抜いている。中年男性カルロス(Carlos Morales)はプロレスラーとホテルの支配人という二足の草鞋を履きながら、日々を暮らしている。20代の女性ソフィア(Daniela Castillo)は服屋の店員として働きながら、自身の夢を追い求めている。

今作においては主にグアテマラ・シティの夜に広がる日常が断片的に綴られていく。コキがバイクで道路を駆け抜ける姿、カルロスが孤独にホテルの受付で待ちぼうけを喰らう姿、ソフィアがコキを含めた友人たちとビリヤードに興じる姿。そういった何気ない日常の数々が、淡々とした筆致で綴られていくのだ。

そこにはグアテマラという国の文化が濃厚である。まず私たちはこの国の雑踏の光景が他とは異なることに気づくだろう。少しだけ他のラテンアメリカ諸国と似て猥雑な雰囲気を湛えながらも、もっと力強くも粗野な空気が街並には溢れている。そしてプロレスラーであるカルロスが仕事に明け暮れる姿も印象的だ。楽屋でメイクを施した後、彼はリングで他の筋骨隆々たる男たちと戦う。そして血だらけになりながらも、何とかこの生存競争を生き延びる。その様は衝撃的で、血腥いものだ。

更に特筆すべきはVincenzo Marranghinoによる撮影の美しさである。夜であるがゆえ、今作の画面にはドス黒い闇で溢れている。それと同時にこの闇の間隙をすり抜けて、原色の青や赤などネオンの極彩色が私たちの眼前に現れるのである。この濃厚なるコントラストは網膜を心地よく刺激する類のものであり、グアテマラの夜がいかに豊穣たるものかを饒舌に語るのである。

さて、本筋に戻っていこう。物語が進むにつれ、本作はコキという青年に焦点を絞っていく。昼間、彼は旅行者のガイドとして働いている。だが夜において、彼は男たちを誘惑し、ホテルに連れ込んだ後に財布などを盗み出すという悪行を行っていた。それはホテルのマネージャーをしているカルロスの提案である。彼らは協力して男たちから金を盗み出していたのだ。

こうして本作は行き場を失くした若さが足掻きながら躍動する姿を映し出していく。コキが盗みを働く姿には閉所恐怖症的な恐怖感が充満している。それでいて強盗した後、バイクで夜のグアテマラ・シティを駆け抜ける様には開放感すら感じられる。彼はこの2つの異なる空気感の不穏な狭間を綱渡り状態で進み続けているのである。

しかし監督はこのグアテマラ・シティを普通には生き残れない恐ろしき魔都として提示していく。ここに生きる者たちは弱き者たちを目敏く見つけては、彼らの身体に喰らいついていかなければ生きていけないのだ。そしてもし自身がその弱き者として見做されたのならば、そこから全力で逃れなければ命はない。肉を喰われたならば、その後からは死骸として生きていかざるを得ない。この容赦なき弱肉強食の世界を監督は鮮烈に描いていくのである。

"Los fantasmas"グアテマラ・シティという都市の夜の片隅に生きる者たちの肖像画である。戦わなければ生き残れない。それは陳腐な決まり文句のように思えながらも、この都市においては最も鮮やかで恐ろしい言葉として響き渡るのだ。

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